BLACK MAGICIAN ~神の御使い達の正義~

黒飴細工

第1話 神の騎士団【1】







「はあ…………。外はあんなに晴れてて、日を浴びるには良い日なのに」



 太陽は柔らかく大地を照らし、花の香りと共に心地良い風が泳いでいる。

 つい一か月前まで、外の景色が冷たい白色に包まれていたのが夢のように感じるほどの陽気。

 そんな陽気に照らされている外の町並みを眺めれば、大人は朗らかに会話を交わし、子供は疲れ知らずの足を元気に動かしている。

 皆の表情は穏やかで、豊かな笑い声がそこかしこで聞こえていた。



 しかし、そんな麗らかな陽気で溢れる町の一番奥にある、厳格で立派な存在感のある王城のような建物の一角。

 北側の一番端、建物の中でも一番日の当たらない場所にひっそりと佇む塔の一番上の一室。

 そこはただでさえ日が当たらないため、カーテンを開けていてもとても薄暗い。にもかかわらず、部屋の中には多種多様な道具や本が所狭しと天井近くまで積み上げられているので、日差しが差し込む隙間もほとんどないときた。

 外の空気の心地良さと違って、この部屋の中は少し湿り気を帯びているのは勘違いではないだろう。

 加えて人の手入れがされていないその部屋は、こんもりと埃が積もってあちこちに蜘蛛の巣も見える。

 絶対、視界に入らないところには、無許可の名前を言えないいろんな住居者が暮らしているに違いない。


 そんないろんな意味で暗い雰囲気を醸し出している部屋の中に、一人の少年がエプロンと三角巾とマスクを身に着け、掃除道具を両手に持って立っていた。



「いつまでこんな仕事しないといけないんだろう…………」



 今はピンク色のエプロンで半分以上見えなくなってしまっているが、少年が来ている黒い団服はこの世界で憧れない者はいないと言われる神の使いのみが着ることを許された代物。

 この世界中の中で選ばれたエリートしか着用できない貴重な服。

では、神の使いとは何か。


 この世界は創造神リドゥイドが妻のイザベラの為に作った世界。

 この世界が創られた理由が少々特殊なのが神の使いである『神の騎士団』という団体が創られた理由でもある。


 












 リドゥイド神の妻イザベラは、リドゥイド神の兄神が創りしの世界で人間に生まれる予定だったところを、たまたま見かけたリドゥイド神が一目惚れしたことにより半神半人として生まれ変わった女神である。

 

 こうして女神として生まれ変わったイザベラ。

 

 イザベラは、実は一度人間として過ごし生を終えて転生するところを突然娶られたため、人間としての記憶などが抜けていなかった。

 イザベラが大好きなのは本。

 それも、数えきれないほどの本を読みこむほど物語が大好きであった。

 創られた本を読んで想像を膨らませるだけでなく、自分でたくさんの妄想をするくらいの物語好き。


 そんな彼女は夢があった。

 今までたくさん読んだ、大好きな物語の空想の人物達や動物、植物達を実際に見てみたいという夢が。


 しかし、人間の感覚が抜け切れてないイザベラは、この夢は叶わないと思っていたため、リドゥイド神と二人で過ごしている間に己の夢の話をすることは無かった。


 けど、二人が夫婦となり神にしては短く、人としては長い時が流れたその時。

 ふと、己の夢を思い出したイザベラの口からぽろっと叶えたいと思っていた夢の話がこぼれたのだ。


 そんな叶えたい夢があると知らなかったリドゥイド神。

 惚れた女の為に何かしたいと思うのは至極当然、と普段から公言する父神の下で育ったため。

 リドゥイド神も妻に尽くそうと、何か欲しいものは無いか、何かしてほしいことは無いかといろんな願いを共に過ごしている間ずっと妻に問いかけてきた。

 だが、イザベラの答えはいつも特に無いという返事ばかり。


 そんな中、ようやく出てきた彼女の夢。

 リドゥイド神は、これを叶えずしてなんとすると意気込み、妻の夢を叶えるために一つの世界を創った。


 しかし、リドゥイド神には少し問題があった。

 世界観を創生することは難なくできても、リドゥイド神は生命を創造することが劇的に苦手であったのだ。


 そこでリドゥイド神が考え付いたのは、数多くいる兄弟神や知人の神に協力してもらい、彼、彼女等が創りしたもうた世界から、妻が望む種族を連れて来て己が創りし世界で住まわせるという方法だった。

 そうすれば、妻が望むときに望むものを好きなだけ見せたい時に見せれると。


 思い立ったらリドゥイド神の行動は早かった。

 妻が望んだ種族などを連れて来ては己の世界へと運び入れ、どんどん己が作った世界が連れてきたモノ達によって様変わりしていっていく。


 だが、しかし、それがまたいけなかった。


 リドゥイド神は、種族間の相性なんてものは何も考えずに己の世界に入れてしまっていたのだ。

 次第に世界が争いなどで混沌としていき、それを見た妻が今度は自分のせいでと悲しんでしまった。

 さすがに、妻が悲しむ姿を見たリドゥイド神は、普段こういったことには無関心なのだが、妻の為に対処をせずにはいられなかった。


 そんなリドゥイド神は己が作った世界の中から種族問わずある五人を選び、その五人に世界の混沌を収めるようにと神託をしたのだ。


 それが神の使い、神の騎士団の始まりであった。


 今ではその神の騎士団があるこの国は完全中立国家として世界に君臨し、世界から選りすぐりのエリートが集まり世界中の問題などの解決などを行っているのだ。

 それが、神の使い。



 だが、何故、そんなエリート集団に入る事が出来たこの少年が、こんなジメジメした一室の掃除を任されているのか。



「くそう。なんでまたこんな雑用ばっかり…………」



 彼が配属されたのは五つある騎士団の中の『漆黒の薔薇騎士団』である。

 略して漆黒騎士団ブラック・ナイツと呼ばれる団は、他四つの団から雑用係の団と蔑まれた呼び方をされていた。

 少年はこのブラック・ナイツに所属してからというもの、団長から掃除や庭の整備、書類運びなど雑用しかさせられていないのでその蔑称は間違いではないのだと思い知っていた。



「こんなはずじゃなかったのに…………」



 彼も、世界中から憧れられているこのエリート集団に夢にまで見て望んで入った人物の一人である。

 しかしその夢や望みは、彼がブラック・ナイツに所属することが決まった半年前の入団試験後から、崩れ去ってしまったのだ。










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