第8話 やっぱり僕は
好きな子に作った服を見せるよ。気に入ってくれたらいいんだけど。
「さすがに早すぎるわよ……褒められたいからって適当に作ったんじゃないの?」
見えやすいようにジャケットをしっかり持ってたのに、スルーして机の上を見るモコちゃん。
「完成したの、どれ?」
「これ……」
改めてジャケットを見せる。
「……? え、待って。
「うん」
「ボロ布から?」
「そうだよ」
「……」
あれ……これは……
「ありえないでしょ……廃人級のガチ勢でもこんなの作れないよ? 何したの? どういうこと? アンタ何者?」
「あ……愛の力ってすごいね!?」
モコちゃんを喜ばせようとしか思ってなかったのに、なんというかすごく驚かせちゃった。
「愛の力って……」
「モコちゃんにあげようと思って」
「私に? ドール用のアイテムなんだからルネのために作りなさいよ」
「うーん……でも、ドールの服って自分で着れるなら着てみたいと思わない?」
ドールの服は人間用には売ってないようなオシャレな服がいっぱい有るし、理想の服を着せるから見てたら羨ましくなることってあるんだよね。
「変態?」
「違うよ!? ちょっとオシャレでいいなって思うだけだよ」
「ならあんたも服に気を使いなさいよ……まぁいいや、とりあえずあんたがすごいのは分かった」
「わぁ……!」
褒められた! 嬉しい!
「けど、誰のためか言わなかった私も悪いけど、これからはルネのために作ってみて」
「う……はい……」
全部完成させたいけど……ルネちゃんの分を完成させてからの方が良い、よね。
モコちゃんに怒られたり嫌われたりするのに比べたら些細な事、うん。
——という事で、ルネちゃんの服を作ろうと思ったけど……アイデアが何も浮かばない。
ルネちゃんは見た目だけならおしとやかな女学生って感じだから制服風のとかが可愛いかなって思うけど、イメージが湧かない。
とりあえず作業スタート。
さっきは最初に材質を変えたら上手くいったから、オックスの生地に……消滅した。
流れ作業じゃダメなんだね。
新しい布でもう1回。
まずはガイドラインに沿って布を切っ……たら消滅。
次!
先に色を変えても消える。
「うわぁん……」
やっぱりビギナーズラックだったんだよ、さっきのは。
まぐれで褒められただけか……。やっぱり僕はその程度の男なんだよ……。
……やっぱりモコちゃんの服が作りたいな。
どうせ上手くいかないし、やってみよ。
作業スタート。
ジャケットに合うように白いTシャツ。布はポリエステルにしよう。
『電気耐性が付与されました』
次は色を変える。白にして……あっ、模様とかプリントできるんだ。形ができたらやってみよっと。
ガイドラインに沿って切る。
『防御力が1上がりました』
黒糸で縫って。
『暗闇耐性が付与されました』
黒字に白い文字でロゴが入ってる……とかで良いかな。
あんまりオシャレなTシャツって想像できないかも……今度勉強しよっと。
ロゴもイメージつかないな、
『防御力が1上がりました
電気耐性が1上がりました
暗闇耐性が1上がりました』
「完成!」
なんでだろう。モコちゃんのための服なら上手くいくんだよな……。
あっ、そっか! モコちゃんが着てる姿が想像できるからだ。
ルネちゃんの服はイメージがフワッとしてるけど、モコちゃんにと思えば考えなくても思い付くから……。
「モコちゃん! 僕コツ掴んだかも」
「初めから掴んでたじゃん」
あれ、なんかちょっと嫌な顔されてる? あっ……そっか、モコちゃんはすごく練習したのに、僕はすぐできるようになったから……。
「違うんだよ、えっと……なんだろう、本当に愛の力だよ!」
「は? キモ」
「ごめん……でもそうじゃなくて、えっと、モコちゃんが着てたら良いな〜って思いながら作ったらすごく良い感じにできたんだ。だから愛かな……って」
あ……ルネちゃんに服作れって言われてたんだった……。怒られるかも。
「ふふっなんで私の服作ってるの」
笑われた……って事は怒ってない! 良かった!
「もう私のためで良いよ。ブランドって、大衆ウケを狙うよりもたった1人のために作った方が売れたりするし」
すごい! 何か商売上手みたいな事を言ってる!
「その代わり、私が気に入らなかったら完成してても失敗って事にするからね」
「分かった! 全部気に入ったって言ってもらえるように頑張る!」
「もう。そう言うのは言わずに行動で示してよ」
ちょっと怒ってるモコちゃんも可愛い。
言ったら本気で怒られそうだから言わないけど……。
もう宣言しちゃってるけど、お客様にすごいと思ってもらうのと、モコちゃんに好きになってもらうのと、モコちゃんが気に入ってくれる服を量産するのを頑張るぞ……!
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