中央教会へ

 ◇◇◇


「ア────ハッハッハハハハァ! 早く神サマとやらに助けを求めないとさぁ──ー! 全員死んじゃうよぉ!」


 ヴィリは馬鹿笑いをしながら集落の者達を殺していった。

 彼女は神嫌いだが、生贄を求めるような神が特に嫌いだ。そしてそんな神に従う人間も嫌いだ。

 そもそもその神はどんな神なのかだとか一切調べない短絡さが彼女の定期的なやらかしの原因なのだが、ヴィリは余りそう言うことを気にしない。


 そんなヴィリをフラウはぽかんとした様子で見ていた。

 実はこの時、フラウにはなにやら不可思議な力が集束し、集落の者達に殺されようとしたまさにその時に力が覚醒する……はずだったのだが、ヴィリが色々とぶち壊してしまった。


 ヴィリの予想ではこの後に神が出てくるはずであった。

 信者を惨殺されて怒り狂った田舎神を膾斬りにしてやるのだ。今日の夕食は神のソテーだね、などと思いつつ、ヴィリは神の降臨を待った。


 だが、神は降臨しない。

 なぜなら、この地域に伝わる豊穣の神などはそもそも存在しないからだ。

 一応豊穣の神なるものが伝わるに至った経緯というものはある。

 元々実りが少ないこの地域では、人減らしが頻繁に行われていた。労働力足り得ない子供、老人、病人。

 それら弱者を“減らす”為に、豊穣の神への生贄……などと言う言い訳がいつのまにか生まれたのだ。


 そんな事は知らないヴィリは仁王立ちで神の降臨を待つ。

 やがて1時間たち、2時間たち、3時間がたった。


 やっぱり神は降臨しなかった。

 ヴィリの労働は無駄だったのだ。

 いや、フラウを救ったのだから無駄ではなかったか。


 ◇◇◇


「とりあえず近くの町に連れて行くから。支度しなよ」


 ヴィリは不機嫌な様子でフラウへ告げた。

 さすがのヴィリも無駄足だったことに気付いたのだ。

 だがフラウが動かない様をみてある事に気付いた。


「お父さんとお母さんのお墓か。少し待っててね。……オラァ!」


 ヴィリは大剣を振りかざし、力の限り地面へ叩き付けた。

 轟音と共に地面に大きな穴が空く。

 魔力をたっぷり剣に込めて力いっぱいたたきつける事で、衝突地点に小規模の爆発を引き起こす。


 そして穴の大きさを確認すると、フラウの父と母の遺体を運んで穴の底に安置した。


「お別れの言葉があるならかけてあげなよ。無いなら埋めるけど」


 フラウはここへ来てようやく父母とは永遠にお別れなのだと実感が湧き、その大きな瞳一杯に涙が溜まり……零れる前にヴィリに抱き締められた。


「ま、しゃあないよね」


 フラウにとっては全然仕方なくないのだが、ヴィリからしたら仕方ないのだ。赤の他人だから。

 でも子供が親の死を悼んで泣くのを見るのはなんだか嫌だったからヴィリはフラウを抱き締めた。


 フラウもヴィリに抱きついてグウだのウウだの唸っていた。


 それからもフラウはヴィリと行動を共にした。

 教会過激派の追っ手や魔族、アルビノの子供は高く売れるとみた人攫いなど、ヴィリはそのすべてをぶち殺した。


 当初はフラウを鬱陶しく思い邪険にしていたヴィリも、フラウの粘り強さというか執着というか、そういう何かに屈し、彼女を共に連れて歩く事を渋々ながら認めた。


 フラウは、五代勇者『白雪の』フラウはヴィリという庇護者を得たのだ。


 余談だが、彼女はその心と体の成長が第四次人魔大戦にこそ間に合わなかったが、後の世で魔王軍残党を率いる上魔将ギデオンを討ち取る事に成功する。

 白の勇者、そして黒の英雄と称された二人の女性のサーガはそれから先何年何十年と吟遊詩人達に謳われたと言う。


 ■


「まあ……北方で選定された新しい勇者については気にせずとも良いだろうね。少し面白い事になっている様だから今度見に行きたい所だが。勇者はただ生きているだけで意味がある。果ての大陸の縛鎖は勇者の肉体と魂を持ってでしか完全に破る事は出来ないのだよ。当代勇者が生きて逃げ延びている事は魔族にとっても、教会過激派にとっても予定外の事だろう。教会穏健派はこれを見越していたのかな? だからこそ早期に選定がされる様に“調整”したのかな? ふ、ふふふ」


 マルケェスが含み笑いを漏らす。

 彼は基本的に人間側に立っている。

 でなければこんな助言は与えない。

 マルケェスは人間がとても大好きなのだ。

 まあ連盟には人外もいるのだが、それはそれ、これはこれらしい。


 ヨハンはそれを聞いて、今後自分達はどうするべきかを改めて思案した。

 魔族との争いなど、関わらないのが一番なのだろうが……人魔大戦となったならばそれこそ世界中が戦場となる。どうあれ関わらざるを得ないのではないか。


「ねえヨハン、穏健派という人達に話を聞く事は出来ないのかな」


 ヨルシカが口を開いた。

 確かに、とヨハンは思う。

 過激派の妨害もあるかもしれないが、まずは“まとも”な連中の話を聞く事が肝要だろう。


「人魔大戦は起きてしまうんだろうなきっと。教会穏健派も戦争の備えくらいはしているだろう。今後、戦争が起きればどうなるか、魔族の侵攻にどう対抗していくのか。彼等に接触を持ってみるのもいいか」


 楽しくなってきたねえ、と嘯くマルケェスだったが、ヨハンもヨルシカも黙殺した。


 全く楽しくないからだ。

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