聖都へ
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穏健派といえばアシャラで話したザジだが、とヨハンは彼の印象を思い浮かべる。
(話し易い相手だが、2等審問官という事は実戦部隊だ。上からの命令を受けて動く、所謂駒が裏の事情をそこまで知っているとは思えないな。事は政治的な問題も関わってくるだろうし、そもそも魔王復活の備えはどのようにしていますか、などという間の抜けた質問に答えてくれるとも思えない、が…)
それでも聖都にいけば行ったで、なにかしら分かる事もあるだろうと、ヨハンはそれ以上考え込む事をやめた。
「…聖都へいくんだね?」
ヨルシカの確認にヨハンは頷いて答えた。
「ああ、まあここで考えこんで居ても仕方ないしな」
ヨルシカはそれ以上は特に質問もせず、早々に出立の用意をし始めた。
ヨハンも準備をするか、と腰をあげると、マルケェスが待ったをかける。
「一応忠告はしておくよヨハン。教会には、特に穏健派と呼ばれている者達と敵対はしない事だ。特にその首魁にはね。狂信者が面倒なのは君も良く知っているだろう?」
マルケェスの言葉にヨハンは苦笑しながら頷いた。
「分かっているよ。だが相手から喧嘩を売ってきたら話は別だぞ。その時は手を貸してくれよ」
今度はマルケェスが苦笑した。
「それは良いがね。君は初めて会った時から変わらずチンピラみたいな気質をしているね。初めて会った時はスラムのチンピラだったが、今は術師のチンピラだ」
それを聞いたヨルシカはニヤリと笑い、ヴァラクの酒場でのヨハンとの馴れ初めを暴露した。
マルケェスはゲラゲラと笑い、ヨハンは仏頂面を浮かべる。
やがて笑いは収まり、マルケェスは黙って奥の間へ歩き去っていった。ヨハンとヨルシカはそれを見送り、廃教会を出て行く。
「ウルビスへ戻り、馬車に乗る」
ヨハンがそう言うとヨルシカは頷いた。
◇◇◇
一等異端審問官【光輝の】アゼルは血溜まりに沈む青年の死体をみやると、背後の部下達に声をかけた。
「散って、逃げなさい。そして教会へ知らせるのです。この度の仕儀を」
「し、しかしアゼル様!それではアゼル様は!」
部下の二等審問官ミカ=ルカ・ヴィルマリーの切羽詰る声にアゼルは冷たく答えた。
その目は眼前を見据えたままだ。
「わかりませんか?この場でアレを足止めできるのは私だけです。わかりませんか?その足止めも長くは持たないという事を。行きなさい。貴方達に法神の加護があらんことを」
アゼルの部下達は歯を食いしばって駆け出していった。
後に残されたのはアゼル、青年の死体、そして……
「待っていてくれたのですか。魔族にも情はあるのか、はたまたいつでも殺せるという驕りか」
金髪をかき上げ、皮肉目な視線を向ける。
その視線の先には寒々しい白を晒した骨の顔があった。
骨は黒いボロボロのローブを纏っていた。
不気味なのはそのローブの表面に顔がいくつも浮かんでいるという点だ。
人間の顔。しかもそれは…まだ意識があった。
男の顔、女の顔、子供の顔…様々な顔が骨の纏うローブの表面に浮かび、うめき声をあげている。
アゼルは両掌を祈る様に、そしてその五指だけをそっと触れ合わせて呟いた。
「
空から眩く輝く光の槍が、上魔将マギウスへ降り注ぐ。
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