閑話:魔竜殺し④

 ◇◇◇


「でかいなぁ……」

「大きいわね!」

「大きいね」

「あら……結構大きいですわね……」


 4人は馬鹿みたいに同じ事を同時に言った。

 それはさながら小さい山の様だった。


 ただ竜と言う感じはしない。

 {挿絵①}

「岩で出来た亀みたいな感じだね」

 ルシアンが目を細め検分する。


「今は大人しくしているみたいですけれど、いつも通りにやりますの?」


 アリーヤの質問に曖昧に頷きつつも、ドルマは腕を組みながら何がしかを思案していた。

 後方を振り返る。

 視線の先には崖。

 崖と崖の間には深い谷底。


「なあルシアン。あそこなんだけどよ、氷の足場なり橋なりを組むとしたらどれくらい時間が掛かる?」


 ◇◇◇


 ドルマは策を立てた。

 といっても非常に雑なものだが。

 相手がヒト種などならともかく、竜の感情などさっぱりわからない。

 ドルマは陰険で悪質な策を好むが、相手の感情がわからないと嫌がらせもしづらい。


 とりあえずその雑な策というのは、先ずいつも大技をぶっぱなして初手で殺しにいく。

 それで生きてれば全員でリンチだ。


 それでも死ななければ上手く崖まで誘引し、ルシアンが架けた氷の橋を渡って向こう岸へ逃げる。


 魔竜は氷の橋を渡って追ってくるだろうから、途中で術をといて谷底へ叩き落す。


 高さと魔竜の自重的にはまあまず倒せるだろう……という算段だ。


 ただ、とドルマは続けた。


「崖から落としたとして、それで生きてるか死んでるかを上から確認するすべがないんだよな」


 まあその時はその時よね、とマリーが雑にまとめ、いよいよ開戦。


 ◇◇◇


 初手は大技から始めるというのはイグニテラの暗黙のルールである。

 そして大技といえばマリーだ。


 マリーがロングスタッフを天に掲げ詠唱を紡いでいくと、スタッフは徐々に赤熱化していく。

 {挿絵②}

 ──火精集いて槍と為せ

 ────空に刻むは燃ゆる轍

 ──────貫け、“燐火業焔槍”


 術の完成と共にその先端を魔竜デルミッドへ向けると、一際赤い閃光がスタッフより迸った。


 同時に、ドルマ、ルシアン、アリーヤがその余波から身を護るべく防御術式を起動させる。

 ドルマが岩壁を生成し、ルシアン、アリーヤが氷壁を幾重にも張り巡らせ襲い来る熱波と爆風に備えた。


 “燐火業焔槍”は簡単に言ってしまえば爆裂する熱線だ。


 着弾時に発生する4.184×10^9ジュールものエネルギーは、例えて言うなら3階建て公立小学校の中心部に着弾すれば柱部分を残して全て吹き飛ばしてしまうほどの破壊力を有する。


 現代戦艦の主砲にも等しいバ火力炎術を特に合図もなく使用するというのは普通ならばパーティ追放にも値する大罪だが、ルシアン、ドルマ、アリーヤは慣れっこであった。


 ◇◇◇


「まあ流石に竜だけはあるよな。亀っぽいけど」


「亀っぽいだけあって硬いんですのねぇ……」


「はぁ、はぁ……うー……ルシアン、水……。そうね。でもそれなりに傷は負わせたわ」


「はい、マリー。お疲れ様。少し休んでなよ」


 4人の視線の先には、あちこち焼け焦げ、甲羅とおぼしき部分に大穴が開きながらも鼻から湯気を噴出し牙をむき出しにしているデルミッドの姿があった。


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この回は近況ノートに挿絵をあげてます

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