閑話:魔竜殺し①
◇◇◇
冒険者パーティ、イグラテラと言えば冒険者ギルドでも異色の存在である。
イグラテラとは古い言葉で炎、氷、大地を意味する言葉を繋げたものだ。
異色であると判じられるのも無理はない。
メンバー全員が術師なのだ。
それも普通の術師ではない。
全員がエル・カーラ魔導学院が誇る上級術師だ。
まあ、誇るだけ…では済まないのが珠に瑕なのだが…。
◇
<挿絵①>
氷禍のルシアンは魔導協会所属準2等術師であり、一見すれば優男だ。
見た目と同様に操る術式もまた優しい。
なぜなら彼の操る氷の魔術は、苦痛というものを感じさせる間もなく敵手の命を凍てつかせてしまうからだ。
性格については別に優しくはない。
優しそうにしておけば相手が油断してくれるから、とは彼の言である。
◇
<挿絵②>
炎姫マリーも魔導協会所属準2等術師だ。炎の術を得手とし、馬鹿みたいな火力で考え無しに敵手を焼き尽くす。
術しか能がないならともかく、捕えた敵に遅効性の炎爆弾を仕込んで敵集団へ返すなどダーティな手も平気で使う。
美しい赤髪と悪女めいた風貌は多くの男を虜にするが、彼女に手を出して無事だったものは先述した氷禍のルシアン以外にはいないし、彼女とまともなコミュニケーションを取れる者は彼女が認めた極一部の者に限られる。
後述する岩蛇のドルマもその一人だ。
◇
<挿絵③>
そしてイグラテラの最後の一人、そして良心でもある岩蛇のドルマ。
彼はドーラ商会というエル・カーラのみならず周辺一帯でも頭二つ三つ抜きんでる勢力を誇る大商会の若頭である。
若頭とは会頭、副会頭の一つ下の地位であり、下級貴族程度なら対等に口を聞ける、上級貴族であっても耳を傾けざるを得ない程の影響力を持つ。
また、彼は商人であり術師でもあるが、同時にヤクザでもある。
エル・カーラの闇の側面を取り仕切る非合法組織を掌握しているのだ。
非合法組織といってもまあ社会不適合者を集めたような連中の事だが。
ドルマは使えないゴミを使えるゴミとして教育し、まともな暮らしをさせ、激発させないようにしている。
例えば最低限の訓練などを施し、最低限の必需品を持たせ、鉱山などへ送りこみ、起動触媒の元となる原石を掘り出させたりだとか…。
術師としても優れた業前を持つが、彼の場合はルシアンやマリーほど派手に術を使う事はない。
罠を張り、策を巡らせ、悪辣に獲物を狩るのだ。
岩蛇とは彼の得意属性と、その性質から名付けられた。
術師としての階梯こそ3等術師なのだが、彼が仕入れた毒物と彼の扱う土の魔術は極めて相性が良く、そして先述した彼の性質なども相まって、危険性は先の二人に劣らないどころか上回ってさえいる。
しかし、イグラテラは彼がいないとまともに機能しない。
なぜならルシアンは一見まともそうだが、数少ない身内以外はゴミ屑くらいに思っているし、マリーは破壊的かつ狂気的だ。
ドルマはその点、相手の事を等身大のままに評価するし対応もする。
ヤクザではあるが、筋を違えない限りは3人の内で最もマトモなのが彼である。
◇
彼等は在学時代から問題児ではあったのだが、成人してからも問題成人であった。
それでも社会から排斥されずに一定の地位を得ているのは、彼らの言動が多少目に余っても、最低限の社会的な規範は守り、東に賊あれば殺しに行き、西に魔物あれば殺しに行くというような、あくまでも脅威となる存在に対して力を振るってきたからである
むしろ彼等の存在は一般市民にとっては非常に心強いものであった。
とはいえ、普段の言動がヤバめなため、恐れられてはいるのだが…そんな彼等の友達というか理解者は協会所属の2等術師アリーヤである。
<挿絵④>
彼女も彼女で結構やらかすのだが、マリーとドルマを足して2で割ったような彼女はイグラテラの面々程には扱いづらくはない。
術師としても優れており、敬愛する1等術師ミシルの得意とする氷の術を修めるに至った。
もともと得意であったのは火の術で、彼女が氷の術を納めるには並々ならぬ苦労があったはずだが、彼女は努力を惜しまぬお嬢様であったため現在では氷の術は火のそれと同等に扱える。
なお、ドルマとは恋人関係にある。
ドルマがあんまりアコギな真似をしないのは、彼女との将来を見越しての事だというのがもっぱらの噂だ。
アリーヤ曰く、悪そうな人が好きだとの事。
ドルマは悪そうではなく、本当に悪人に位置する人物なのだが、それはそれ、これはこれである。
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そんな彼らが魔竜討伐に出陣する、との報せは瞬く間にエル・カーラの街に広がる事となる…。
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この回は近況ノートに挿絵を4枚のせています。
以前にも書いた、10年後の魔竜殺しの際の成長した彼等の画像です
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