お前は死ぬ
■
{挿絵①}
早朝。
窓から差し込んでくる朝日は暖色で、ともすれば夕日のそれと見間違えてしまいそうだ。
それにしても酷く気怠い。
普段起きる時間から1鐘2鐘早く起きるだけでも大分違う。
ヨルシカはまだ眠っている。
{挿絵②}
いつか機会があればアシャラ王家の血筋というものを調べる必要があるな。
アシャラの開祖アシャートの血を引いているという事は、アシャラ王家には少なからずエルフェンの血が流れていると言う事だ。
ヨルシカは庶子だからそれより更に血が薄まっているとはいえ、彼女の活力と言うのはやや常人ではありえないものに思える。
エルフェンの血にそういった賦活作用があるかは知らないが、彼等特有の魔力を身体能力向上へ全て回しているなら……彼女の訳のわからん運動能力にもなんとなく説明がつく気がする。
■
そんな彼女の寝顔を眺めていると、俺もどうにも眠くなってきた。
2度寝、3度寝と決め込みたい様なそうでもない様な。
ただイスカにこれ以上用事はないので、馬車の時間が来たら出立しなければ。何度も惰眠を貪れば寝坊する気がする。
まあ流石に昼過ぎも大分過ぎた頃まで惰眠を貪っているとは思えないのだが、ヨルシカという懸念材料がある。
もう少しのんびりしてもいいとは思うが、シェイラの話ではどうにも不穏な様だし。
そして何となく俺は荷物から一本の太目のオルクの枝を取り出し、短刀であるものを削りだした。何となくだが引っかかるものがあったからだ。
霊感が囁くというべきか、術師にとって"なんとなく"思い立った事は基本的にはそれに従った方が良い。
ある物とはワンドだ。
これはスタッフとは違い、それこそ掌を広げた程度の長さの小さい棒だ。
まあこの辺は作成者次第な所があるが。
オルクには強い呪術的な意味が込められている。
例えば強さ、安定、成功、保護……
古来から自然崇拝派の術者が長年かけてコツコツと構築してきた共通概念は、オルクをただの樹木から特別な樹木へと変えた。
そういった特別な樹木で作る、そう、例えば今俺が削り出しているワンドなどは気休め以上の効果を所持者へと齎す。
……という事で完成した。
{挿絵③}
まあこんな物だな……。
術師ミシルの様に古今東西の様々な技術を複合させたモノ等は到底作れないが、木を削る程度なら俺にも出来る。
俺はヨルシカを起こさないようにそっと部屋を出た。
シェイラに会いに行く。
ギルドで捕まえられればいいのだが。
■
捕まえた。
「シェイラ」
俺が呼ぶと、依頼掲示板を見ていた彼女が振り返って手を上げてきた。
{挿絵④}
「あら? ヨハンじゃないか。どうしたんだい? もしかしてギルドで依頼を? でも長居はしないって言ってなかったっけ?」
俺はそれに答えず、まじまじとシェイラの顔、体を視る。
嫌な感じだ。
「ちょっと! どこを見てるんだい!」
シェイラが眉を顰めて語気を強めた。
「悪かった。ちょっと確認したかったんだ。単刀直入に言うが、お前死ぬかもな。いや、適当に言っている訳じゃない。俺はお前も知っている通り、術師としてはそれなり以上の業前だ。驕り高ぶっているわけではない。相応に努力をして、死線を潜ってきた結果だ。その俺の眼から視て、お前から嫌なものが見える。死の気配が香る。一応言っておくが暫く無茶はしない事だ。だが、それでも死はお前を捕えてしまうかもな。だから気休めかもしれないが提案がある。これを買わないか? タダじゃやらん。銀貨……うーん……10……いや、20枚かな。支払いは悩むだろうが、お前にとって苦しい支払いであるという事実もまたそれなりにはこれの呪術的補強になる。勿論買わなくてもいい。俺の霊感が外れる事も十分ある。だがお前は……以前パーティを組んだ時の印象が悪くなかった。だからもし死んでしまったら少し惜しいかもしれないなと思ったんだ。勿論、お前が死んでしまって惜しいと感じるかどうかはお前が死んでみないと分からないが」
今朝作ったワンドをシェイラに見せながら一気に言い終えると、彼女はぽかんと口を開けていた。
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この回は近況ノートに4枚の挿絵をあげています
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