異端審問官
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あれからはほとんどシルヴィスとヨルシカ任せだ。
グィルの死の説明や、樹神や魔族といった者達の説明……こういうのも俺が説明するより彼女らが説明した方が収まりが良い事は分かっていたので、俺は珍しく黙っていた。
別動隊の者達への説明も全て丸投げしてしまった。
俺はアシャラに訪れた一冒険者でしかない為、信用というものがないのだ。
まあ俺個人の信用がないというのは仕方がない事だが、連盟の術師である事が悪い方向へ働かないとも言い切れない。
連盟が向けられる感情と言うのは余りにも種々雑多なもので……中には強い憎悪を抱く者だって当然居る。
例えばヴィリが滅ぼした小神の信者だとか、ラカニシュの被害者たちだとか……とにかく色々と被害者がいるわけだ……
それでも世界の敵として排斥されないのは、一般的に言って邪悪な存在やら危険な存在やらを連盟が滅ぼしてきたからである。
勿論人々の為にそれを為したなどということはなく、多くはもっと恣意的な理由によるものだが。
俺がサブルナックを最初に始末した理由も依頼絡みの結果だった。
奴はとある貴族の娘をだまくらかして色々と良くない遊びをしていたのだが、悪魔と言うのは割と雑な部分もあり、その所業を長くは隠せない。
当たり前だろう、貴族の娘の友人が次々に石化したり急死したりすれば騒ぎになる。
まあそうなると普通は教会の仕事なのだが、その貴族は大の教会嫌いだった。
宗教を嫌う権力者と言うのは決して少なくない。
そしてどこから知ったのか知らないが、連盟へのツテを使って俺に……何というか悪魔祓いの依頼が下りて来た。
アレもそれなりに高名な悪魔だが、まさか相対する羽目になるとも思っていなかった当時の俺は、高額な報酬にホイホイ釣られてしまったというわけだ。
結果として俺はサブルナックを追い返し、貴族の娘を助けたのだが……
それがきっかけとなってたまに貴族の依頼を受ける事もままあった。
その一つにロイ……いつかの色ボケ3人組の教育を引き受けるわけになった。
ロイは貴族の三男坊で親父は当然貴族なわけだが、ロイの事もそれなりに想っていたのだろう、冒険者となったロイを心配してギルド経由で俺へ個人依頼をおろし……俺は奴とついでに奴の仲間をそれなりに使える程度まで鍛える事となったわけだ。
そう考えていくと不思議だな。
物事は全て繋がっているのだなという気がしてくる。
◆◇◆
SIDE:ヨルシカ
「いいかい? カチコミなんて馬鹿な真似はよして、まずは事情を手紙で伝えるんだ。ヨハン、君は衝動的に行動してトラブルに突っ込んで、トラブルの最中に思慮深く動く男だろう? 今回は最初から思慮深く行こう」
私がそういうと、ヨハンは"お前は俺の……"と言い出して、何か腑に落ちていないような表情を浮かべた。
きっと、お前は俺の母親かなにかか、と言おうとして……
いけない、なんだか辛気臭くなってきた。
ただ、ヨハンが言うには手紙はもう出してあるらしい。
間に合うとは思っていなかったけど森へ向かう前には既に教会に文を飛ばしていた様だ。
アシャラは中央教会とは疎遠だからな……
都市の成り立ち的に、開祖アシャートをある意味で神と崇めるアシャラは法神第一主義の中央教会とは仲が良くない。
だから教会自体も都市にはない。
ヨハンが言うには、こういう案件だからすぐに中央教会から人員がやってくるという話だそうだけど。
動くにしても何するにしても、その使者に事情を話して反応を見てからみたい。
でもその結果がどうでも、アシャラは出立するとの事だった。
ともかく、私も少し時間が欲しかったので丁度良かった。
旅立つからって着の身着のままで都市を出るなんてしたくはないからね。
■
という事でアシャラの復興というか、掃除というかそんな事を手伝っている内に数日が経過した。
樹神の眷属の死骸……というか植物の塊は結構な数があり、その処理をしたりしていたのだ。
触媒は国持ちだった為、一生分の火炎術式を使った様な気がする。
そして俺は宿の自室に男を招いている。
黒い服の中年男性だ。
眼鏡をかけてうさん臭い笑みを浮かべている。
俺がそういう趣味だっていうわけではない。
「お初にお目にかかります。私は中央教会所属、2等異端審問官ザジと申します。ヨハン殿の異神蠢動についてのお手紙を拝見し、部下を引き連れ駆け付けて参った次第なのですが……どうやら間に合わなかった様で! 申し訳ございません。手紙の配達人は既に捕縛しております。彼は急ぎの知らせだという事を知っていてもなお予定より2日も遅れて文を届けて来ました。特にご要望が無い様で御座いましたら神敵への利敵行為と見做し、そのまま処刑とさせていただきますが……?」
異端審問官か。
穏便な方が来てくれたか。
異神討滅官だとメンツをつぶされただのなんだの揉める可能性があった。
まああの段階ならこっちが来ると見込んでの事だったが。
それに俺も文を穏健派の仕切る教会へ飛ばしたという事もあるし。
「配達人には温情を」
遅れた理由次第かもしれないが、その理由が酒や女だったとしても殺される程の理由ではない……いや、まてそいつが予定通り届けていればもう少し楽だったのでは……?
「配達人には温情を。ただし、理由次第では俺が死罰をくれてやります」
俺が言い直すと、よろしいですとも、とザジはいう。
異端審問官はその職務の性質上、苛烈な者が多く少し心配だったのだが、理性的な者が来てくれた様で安心した。
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