ヴィリ


俺達は時には走り、時には早足、そして時には木々の陰に身を潜め、奥地へ向かって進んでいった。

時折グィルがあちらへ行け、こちらだ、と方向を修正する。


エルフェンの先祖がグィルの言う樹神の黄金の林檎とやらを取り込んだのなら、エルフェンと人間のハーフであるグィルにもまた黄金の林檎の残滓が残っているのだろうか。


抽象的な事を言うのは余り好きではないが、いわば共鳴しているといってもいいのかもしれない。


途中で何度か草人間との遭遇戦闘があったが、そのいずれも危なげなく済ませる。シルヴィスの1回剣を振って2回斬るという謎の技に少し驚かされたりした。聞いてみると、1回剣を振れば斬れる回数は1度だけという思い込みを咎められる。


やがて俺達は森の奥地、やや開けた広場の様な場所へと出る。

こういう場所は好きじゃないな…いかにもって感じがするだろう?


「そういえば、あの赤いのと戦った時も…」


ヨルシカが不穏な事を言い出したので、義手…術腕の方の腕で背中を叩く。

「痛ッたぁああ!おいヨハン!君ねぇ!」


ヨルシカが怒るので俺は術腕の掌で握り締めた大きな蜂モドキを見せた。

刺されても死にはしないのだが、卵を産み付けられて数週間は傷口から小さい虫が湧いてくる。

小さい虫はすりつぶすと傷薬に使えるが余り人気はない。


「わっ!…あ、ありがとう…」


うん、と頷いて、俺はグィルの方を見た。

視線を追うと…まああれか。


広場の中心に台座。

辺りに散らばる草人間の残骸。

そして、台座に腰掛ける見知った少女。

近くに2人の男女も立っている。

斥候服を着ているから、あれが行方不明の上級斥候とやらだろうか?


とりあえず話すかと向かおうとすると、シルヴィスが歩み出て行った。



「ベレン、イーナ。無事でよかったわ。お嬢さんが助けてくれたの?ありがとう」


シルヴィスがそう言うと、隊長!と2人が駆け寄ってくる。

まあヴィリは結構選んで殺す方だからな。

取り合えず…


「よう、ヴィリ」


俺は少女に手をあげて声をかけた。



「ヨハン君じゃん!!久しぶりー、元気してた?腕どうしたの?かっこいいじゃん!両腕それにしなよ!斬って上げようか?そうだ!ここ、珍しいお花沢山あるよ!っていうか聞いてよ、あたしさぁー、この森にカミサマがいるって話だったからきてみたんだけど、当のカミサマがグウグウと寝散らかしててぁー。ほらこれぇ!干からびてるけど、こいつらが言ってたわけ。森の精気吸い込めばすぐに復活しますよおーって。でも待ってても全然復活しないじゃん?したらこいつら、なんか勝手に人間を生贄にしててさあー、そこの2人も生贄にされそーで、あたしなんかあったまきちゃってさ!何人かぶっ殺しちゃったよ!カミサマだったら濁るからイケニエやめさせたかったんだけど、ちょいちょい前からやってたみたいでさ、どっからそんな方法覚えたんだろって思って拷問して聞いてみたら、なんか妙な男にそういわれたって!ばぁーーーっかじゃねーのって!妙な男って!妙ってわかってんなら言われた事丸っと信じきってるんじゃねえよ!って思わない?でもなんか怪しいよなー。こいつらをそそのかした奴がいるってわけでしょ?ウチら絡みじゃないとおもうけどね、だってウチら人動かしたりしないし!殺しも壊しも自分でやるじゃん?何でも自分でやらなきゃ意味ないんだよ!」


「殺しも壊しも自分でやるべきだっていうのは賛同する」

俺がそういうとヴィリは破顔した。


「だよねー!?何事も自分の手でやらないと意味ないんだよね、そのへん分かってない奴らが多すぎてだめだよだめだめ!あたしさー…」


「なあヴィリ」


ちょっと急ぎの用事があるので遮る。

ヴィリはきょとんとしていた。


「そろそろ台座からどいた方がいいかもな。ほら、森が揺れてる。お目覚めだよ」

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