謁見が終わり
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翌朝。
アシャラ王との謁見は案外とすんなり終わった。
考えてみれば当然の話ではあるが、トラブルの解決屋とも言える冒険者ギルドと国の問題共有が出来ていない訳は無かったのだ。
それなら俺が再度説明する必要があるかは分からないが、“接見を希望します。え? もう話を聞いている? ならやめますね”では通らない為、確認の意味も兼ねて一通り状況を説明した。
王は流石に都市国家連合の盟主国を統べる器があるのか、問題の大きさを過不足無く捉えてくれた。
グィルと連携し事に当たると言ってくれた。
話が分かる為政者で良かった。
過去……俺がまだ正義感の様な1銅貨にもならないモノを持っていた頃、こういった危地で都市の上層部へ協力を打診した事はあるが、その時は冒険者ギルドで何とかしろと言われてしまったので猫から逃げる月鼠が如く逃げ出した事がある。
その時は魔物の暴走……スタンピードで街は滅んだ。
因みに月鼠とは温暖な地方にしか生息しない丸くて白い球の様な鼠の事だ。
球から申し訳程度に四肢が生えている。
平時はその四肢でのろのろと這い回るのだが、危険が迫ると転がって逃げる。転がり始めにも大きな力が必要なわけで、それはどこから捻出しているのか気になるが、微弱だが魔力を使って初動の勢いをひねり出しているらしい。
俺もその説には賛同だ。
なぜなら連中の事をポイポイと投げて遊んでも滅多な事では死なないからだ。
魔力で身体能力を強化しているに違いない。
王との謁見の場を去る時、王とヨルシカの視線が交差する所には、かつてあった家族の情の残滓の様なものが仄かに香っていた様な気がするが、実際はどうだか分からない。
親というものは良くも悪くも子供の心を縛るものだ。
俺の母親は俺の中にはもう3分の1しか残ってはいないが、それでも彼女は俺の心を縛っている。例え姿形をもう思い出す事が出来なくなってしまったとしてもだ。
心を縛る鎖が錆びてボロボロになったものか、あるいはそうではないかは当人の人生に大きく関わってくるのではないだろうか。
ヨルシカの心を縛る鎖が香油で磨かれた良き鎖であるといいのだが。
なお、父親の方は喉を搔っ切って丸1日掛けて血抜きをしてやった。
自慢ではないが、俺は拷問も得意としている。
彼の怨嗟がたっぷりと含まれた血液を使い育てた呪花は、とある強敵を討つ際に使ってしまった。
しかし連中が何故この大陸に居たのか今でも良くわからないな。
俺も見たのは初めてだった。
悪魔と非常に近しい性質を持つ連中だ。
呼吸をする様に術、いや、魔法を使う。
つまり詠唱がない。
手を伸ばす、足を曲げる、そんな感覚で魔法とやらを撃って来るのだ。
だが奴等と違って本体を別の場所へ置いているという事はない。
だから殺して殺せない相手ではないにせよ、一般人が必死こいて戦う様な相手ではない。ああいうのは、“特別な連中”が相手取るものだ。
だが……そもそもだが、連中は当時の勇者とやらに頭目を殺され、種族ごと果ての大陸へ押し込まれたのではなかったか?
そして現在だって当代勇者がその動向を監視しているのではなかったのか?
緑の使徒とやらはここ最近活発的に行動し始めたと聞いている。
つまりそれは、ここ最近で何者かが緑の使徒共に余計な空気を入れた……
それが魔族だという根拠なんて1つもないのだが、裏でこういう陰湿な事をやる連中というと結構限られてしまうのだよな。
いや、考えても詮無き事か。
だが、もし魔族が裏で動いているなら、それこそあの英雄大好き勇者大好きなメスガキの出番なのだが。
◆◇◆
SIDE:ヨルシカ
謁見は無事に終わった。
最初から最後までヨハンがずっと話していたけれど、それでも私と父……いや、陛下は何かを交感したのだとおもう。
同時に、私の中での1つの蟠りがすっと解けた気がする。
ヨハンが考え込んでいる様子だったので、どうしたのか聞いてみると……
「神っぽいなにかと戦った後は何と戦うのかなっておもってな。魔王とかだったりしてな、いや、冗句だよ冗句……」
等といっていた。
本当にやめて欲しい。
君はヴァラクでフェンリークの話をしたけど、その後それっぽいのと戦うことになったじゃないか。
……ああ、鐘の音が聞こえる。
まだ昼か。
「飯でも行こう。長い店以外がいいな。あそこはこの位のタイミングだと混んでいるだろう」
ヨハンがそういうので、少し考える。
ならあそこがいいかな?
「なら名無しの店へいこう。少し分かりにくい場所にあるから余りお客さんは来ないんだけど、味は絶品だよ。鳥が美味しいんだ」
ヨハンが首を傾げる。
店の名前の事かな?
「店の名前がない店なんだよ。だから名無しの店。長い名前の店に反発した料理人が開いたお店なんだ。店の入口には木の板だけ立てかけてあるんだ」
いつも倦んだ目をしているヨハンが目を見開き、馬鹿じゃないのか、と言った。
私もそう思うけど、味は本当に良いんだ。
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