アシャラ二百景

 ■


 グィルに事情を説明する。

 流石にいきなりギルドマスターに会えるとは思ってなかったため、本来は手紙を渡す予定だったのだが良い意味での想定外のお陰で話が進んだ。


「地脈が乱れている。森でそこまで影響を与える様な存在はただ1つ。上級斥候達を2名向かわせたが戻らなかった。彼らは手練だったが。シルヴィス、分かったことを話しなさい」


「はいマスター」

 後ろから声が聞こえてくる。


 背後に気配……なんて感じなかったが急に現れた。

 だがヨルシカが少し前から緊張した風だったので、彼女は気付いていたのだろう。


 振り向くと……誰も居なかった。

 しかし気配だけはそこに鎮座している。

 ヨルシカを見ると目を細め、ある一点を見つめていた。

 そうか。

 認識阻害かな? 

 少し考え方を変えてみる。


 “そこには確かに誰かがいる。俺がそう決めた”


 強く目を瞑り、見開く。

 果たしてそこにはダークエルフと思しき者が居た。


 ■

 ダークエルフの女は意外そうに俺を見つめ、口を開いた。


「大森林奥地、北方4万歩。緑の使徒と思われる者らの隠れ家を見つけたの。調査に向かった者は2名。いずれも上級斥候。鳥を飛ばして連絡を取り合っていたのだけれど、定期連絡が途絶えて今日で2日目。多分捕らえられたか殺されたわ。隠れ家発見、そしてその位置の報告が最後の報告。分かった?」


「ああ。ありがとう。貴方はあの森に何があるかご存知なのですね」


 グィルは頷き、森の伝承を話してくれた。


「緑の使徒等はかの存在を解き放とうと言うのだろう。愚かな事だ。どの道、すぐに封印は解ける筈だったのだが。そして、解けたなら解けたで構わなかった。もとより穏和な存在だ、放って置けばよかったのだ。過去の事に拘泥する存在ではない。今というその瞬間を平穏に生き続けたいと願っている様な存在であったと言うのに」


 グィルが首を振り、ため息をつく。


「見てきた様に言うのですね」

 俺がそう言うと、グィルは何も答えなかった。


「封印の解き方が問題、ですか」

 グィルが頷く。


 全容が見えてきたな。

 一部の行商が消えたと言う話も、ここで繋がる。


「ヨルシカ。話をまとめて伝える。どこかの馬鹿共が欲に駆られ、阿呆な事をして、そのお陰で神だか神もどきだか知らないがそういう存在と対峙する必要が出てきた。我々がする事は2つ。馬鹿共を皆殺しにするか全員捕縛する事、そして神だか神もどきだかを殺すか、再度封印してしまう事だ。王宮と繋ぎは取れるかい? 事はアシャラの存亡に関わるぞ」


 ◆◇◆


 SIDE:ヨルシカ


 ヴァラクの時とどちらがまずいか聞いてみたいが、聞いてしまったらそれはそれでうんざりしてしまいそうだな。


「ああ、私は余り立場は良くないけれど、最初に君に言われた時に既に繋ぎはとった。状況を話せば兵を出して貰えるだろう」


 ギルドマスターの話してくれた伝承程に強大な存在なら、この国だって今の状況を放っては置けないはずだ。


 王とは明日の朝一番で接見を出来る様にしておいた。

 それをヨハンに伝えると、明朝一緒に行こうと言う話になる。

 彼の話を聞く分には結構大きな話だったはずなのだが、なんだか事務的に話がどんどん進んでいっている気がする。


 ◇◇◇

【それ】が浸る優しく甘いまどろみに、黒くドロドロしたものが入り混じる。


 その黒い何かは【それ】の中へ入り込んできて、じゅくじゅくと蝕んでいった。


 美しいもの、尊いもの、清浄なものがどんどん黒く染まっていく。


 その感覚は時に痛みを伴い、例えようも無い不快感を【それ】へ与え続けた。


 ◆◇◆


 SIDE:ヴィリ・ヴォラント


「ねぇー。あたしは別にコイツが起きればどうでもいいんだけど、あんた達本当にちゃんとやってるの? なんかぁー、適当に封印解こうとしてない? だって変な色してるじゃん。いや、みれば分かるでしょ、それでも信者かよ。中身だよなーかーみ! というか、無理矢理封印といたら大抵のモンはしょっぱくなるよ。それじゃあ興ざめなんだけどなぁ。……はあ? 味じゃねえよカス! 弱くなるって事だよ。当たり前だろ。お前等だって寝てる時に腹にナイフぶっさされたら起きた時しんどくない? 起こすなら起こすでスッキリ爽快! ッて感じで起こしてやれよ、それでも人間なの? ……え? 死ぬ? しなねーよ! 人間舐めんなボケ! 人間はねー、しめーかん……使命感? と勇気さえあれば頭吹き飛ばされたって生きていられるんだよ! ……あ! 使命感ゲームしよっか! お前等、コレを復活させる為に頑張ってるんだろ? だったら使命感で溢れてるはずだよな? なら頭ぶっ飛ばされたって死なねぇよな? よーし! まずはお前からね!」


(悲鳴)

(笑い声) 

(絶叫)

(笑い声) 

(断末魔)

(笑い声) 


「……ん~?? ドクンドクン言ってるねェ~……もう少しかな?」



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ヴィリとシルヴィスの画像は近況ノートで5分以内に公開します

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