緑賢

 ■


 と言う事で宿で2通手紙を書いた。

 中央教会の知人宛、アシャラの冒険者ギルド宛。

 ヴァラクの傭兵ギルドにも送ろうかとは思ったのだが、却下。


 なぜなら俺の方に積めるものがない。

 というか多分危ない相手だし報酬もどれだけ積めるかわかりませんが、命がけで手を貸してください……なんて言う奴がいたらどうする? 

 俺なら生きたまま子鬼共に貪り食わせる。


 中央教会は問題なし。

 詭弁になるが、連中の仕事を手伝ってやっているとも言える。


 ただ、間に合うかどうかは疑問だ。怪しい。

 速やかに動いてくれるかどうかも疑問。こちらも怪しい。


 冒険者ギルドは大丈夫だろう。

 なんといったって地元の問題だ。

 アテにするならギルドの方だろうな。

 手紙を直接渡せるし。

 だが、俺は所詮新参者に過ぎない。

 だからヨルシカの威光を利用する。

 彼女はここの認可冒険者だと言うし。


 随分忙しくなりそうだ。


 ◆◇◆


 SIDE:ヨルシカ


「……そういうわけなんだ、ヨルシカ。ついてきて欲しいのだが……」


 ヨハンは少し疲れている様子だった。

 休んでいかないかと言いたかったけれど言い出しづらかった。

 無理しなければいけない場面っていうのは必ずある。

 今がきっとそれなんだろう。

 私にとっても他人事じゃない。

 事はアシャラに関わる事なのだから。

 でも死刑囚を用意する事は流石に断わった。

 というか、平民の私がそんなもの用意出来るわけないだろう! 


「いいかいヨハン! 死刑囚っていうのはいつでも殺していい囚人って意味じゃないんだぞ」

 私がそういうと、そうだったのか、と言っていた。

 彼には倫理観がない。


 兎に角私もあれから、王宮の見知った侍女や役人に話を通して、なんとか父親との接見を決めることができた。

 私の身分は平民なので、いくら父とはいえそう簡単に会える訳では無い……が、認可冒険者という称号はそれなりに役に立ってくれた。

 これはいわば都市を代表する冒険者っていう意味だ。


 ヨハンの頼みには当然是と答えた。

 アシャラ冒険者ギルドが力を貸してくれるなら確かに心強い。

 彼は交渉上手だからきっとうまく話を付けてくれるだろう……


 ……といいつつも、また何か突拍子もない事を言い出さないか不安な自分もいる。


 ■


 案外あっさりとギルドマスターと会えそうだ。

 まあギルド側も危機感はあるんだろう。

 認可冒険者まで連れてきた情報提供者なら話を聞かずにはいられんだろうな。


「上級斥候共を駆り出している位だからな。このギルドも何かしらのネタは掴んでいたんだろう。上級斥候はラドゥの所にいたカジャみたいな奴等だ。ほら、そこの天井裏にも隠れてるぞ」


 俺がヨルシカにそういうと、案内の職員がぎょっとした顔で振り向いてきたのでニヤリと笑って頷いた。


 まさか本当に隠れていたとは。

 全く気付かなかったぞ。

 まあ当然か。ギルドマスターの身辺を護る者の1人や2人は居てもおかしくあるまい。


 案内の職員が木製の重厚なドアを叩く。


『入りなさい』


 深い所から響いてくる、そんな印象の声が返って来た。


 ■

「グィル・ガラッドだ」


 目の前に立つのは老人だった。

 奥にも1人老人がいるが、書類整理などをしている。

 秘書かなにかだろうか。

 いかにも学者然とした物静かそうな老人だった。

 だが耳の形が明らかにヒト種ではない。

 そう、彼はエルフ……


「ハーフだ」


 心の声を読んでいる……わけではないのだろうな。

 つまり……


「何となくだよ、ヨハン」


 俺は早々に白旗をあげる。

 表情だとか雰囲気だとか、何となくで読まれている訳か。

 俺も何となくでソイツの性根を視たりするから分かる。

 説明ができないんだよな、自分でも。


「お見事です、ガラッドギルドマスター。私の事をご存知の様ですね」


「グィルで良い。知っているとも。君はルイゼと同じうろの者だろう? ならばグィルで良い」


 洞とはエルフの言い回しだ。

 派閥、組織、グループを指す。

 なるほど……彼はルイゼの


「短い期間だが彼女に術を教えた。限定的ではあるが、私は彼女の師とも言える」


 そうか、一気に親近感が増してしまったな。

 こういう所が俺がちょろいだのなんだのと同僚からからかわれる原因なんだと思う。


「では彼女も俺の一分野における師なので、グィル、あなたは私の大師匠グランド・マスターとも言えますね」


 グィルはふっと笑い、頷いた。


「そうだな。限定的ではあるが」



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グィル・ガラッドは16時までに近況ノートに挿絵公開しておきます

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