不穏だったり、日常の一コマだったり

「そういえばヨルシカ、ここの都市国家の王はどういう人なんだ?」


俺がそう聞くと、ヨルシカは喉に何かがつっかえたような表情をした。

何かまずいことでも聞いたのか。

暴君か?いや、違うな。

ならば住民の表情を見れば分かる。

これは単純に言いづらい事を言おうとしている顔だ。

だが言おうとしているのか、俺が無理やり言わせようという形になってしまっているのか…


「いや、別に難しい話なら構わないよ。悪王というわけでもなさそうだ。住民の表情にも活気があるしな」

これ以上は踏み込まないよという合図を出す。


「いや、大丈夫だよ。そうだね、アシャラ王は…悪い指導者ではないよ。民からの信頼も厚い」


なるほど。

「言いづらいのはアレか。君がそのアシャラ王から求婚されてるか、あるいは彼の娘だか、そういう事だからか。だがそうなると孤児院に世話になったとか辻褄があわなくなるが、ああ、庶子とかか?まあいい、色々フクザツな事情があるんだろう。安心しろ、拷問されても公言はしないよ。俺は実際に教会連中から拷問されたことがあるからな。誤解だったのだが。マルケェスという世話係が拷問吏の首を政治的に飛ばしてくれた。一夜で職を失った中年男のツラを見るのは美女の裸を見るよりスカっとしたね」


こういう話題で言い淀む理由なんて大体パターンが決まっているからな。

ヨルシカは盛大に引いた様で"なんで分かるの…"とこぼした。


「そうなんだけど…いや!求婚じゃなくて、娘の方なんだけど、うん私は庶子で…っていうか拷問?教会?ご、誤解なのか、よかった…ちょっと君、あのねえ…、もう…あのさぁ…」


不思議じゃないな。

流派なんてのは民間にも広がっているが、彼女の振るうそれは魅せに偏っている様に見える。

実用性がないとは言わないが、ヨルシカなりにアレンジでもしたのだろう。

大体王族とかいう連中は何したって…例えば屁をこいたって何だかサマになるものだ。

そういう教育でも受けてきたのだろう。

だが政治的都合で雲の上から降りて来たみたいな感じか。


「じゃあそろそろ飯でも行こうか。奢るって約束したしな。長い名前の店でよかったんだよな?あの店、もう少し長くなったらしい。飲み物の名前が追加されたそうだ。この前セドクが言ってた。よしいこう」



俺とヨルシカは連れ立って歩きだす。

ヨルシカはぶつぶつ何かを言っていたが黙殺したので問題はなかった。


「君は私が庶子とは言え、王族の出だと知っても態度が変わらないよね。いや、嬉しいから良いんだけど」


ヨルシカがそんな事を言い出したので少し考えを纏める。

「長くなるがいいか?」


いや、そろそろお店だし短く、と言われたので了解する。

「君が恭しく接して欲しそうな面をしていないからだ」


俺がそう言うと、ヨルシカはううとかアーとか言っていた。


店にはすぐ着いた。

ヨルシカお勧めのメニューとやらに従い、食いながら適当に話す。


彼女が勧めてきた飯は旨かったが、彼女が勧めてきた酒は酷かった。

いや、それは失礼か。

やたら甘く、酒精も強い。

女向けといったら語弊があるかもしれないが…。


初対面でちんぴら傭兵の金玉を蹴り上げていた女傑にしては意外だな、と思ったが、考えてみれば俺も人殺しが好きそうな顔してるのに花が好きなんて意外だよね、と同僚に言われた事がある。

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