岩騎士
◆◇◆
SIDE:フェアラート?
後少し、後ほんの少しだというのに。
奴が訪れたのは偶然かもしれないが、まさかこの様な形で邪魔をされるとは。
時間はもう余り無い。
ならば不十分だが強行してしまうか?
いや、あれは……
◆◇◆
「あら、教師コムラード。この様な遅い時間にどうされました?」
「む? おお、フェアラート先生。いえ、夜回りですとも。不逞な輩もここ最近はナリを潜めておりますが、よもやエル・カーラから出ていったと言う事ではありますまい。とはいえ彼奴輩めは子供を攫う等と言う卑劣な連中ですからな、なかなか尻尾は出さないでしょうが……」
「仰る通りですわね。では私もお手伝い致しますよ。生徒を守るのは教師の役目ですものね。……あら? どうされました? その様な目をされて……」
コムラードの中にしっかとした確信があった訳ではない。
だが彼の術師としての勘が目の前の同僚をどうにも気に食わないと告げている。
先だっての教師ヨハンとの一件もそうだった、とコムラードは思う。
結局の所、術師とはどこまでも頑固なのだ。頑固で、偏屈で、折れる事を良しとしない。
己の中にこれが正しいと思う一本の芯棒があったならば、それを折ったり曲げたりする事はあってはならない事であるし、仮に変節しなければならないとするならば、それに手を掛けて良いのは他ならぬ自分自身であるべきなのだ。対面する相手の意見を聞き、それをもってあるいはそういった考えもあるのだ、と考えを変えるならばいい。
だが、とコムラードの頭部に僅かに血がのぼり、彼の禿頭はやや赤みを帯びる。
であるならば、術師同士が互いの意見を競わせている時、横からしゃしゃり出るなどと言うのは無礼を通り越して侮辱に当たる。
他の教員達だって口論手前の状況に一つも口出しをしなかったではないか。
──柔軟性だとか言っていたか? 糞ったれめ。
──彼女は骨のある術師だったが、地位を得て堕落したか?
コムラードの気配に、僅かに敵意が混じった。
◆◇◆
SIDE:フェアラート?
馬鹿な!
なぜ私へ敵意を向ける?
失態はおかしていないはずだ。
しかし、それならば仕方がない。
そうなってしまったならば、仕方があるまい。
だがこうなれば少しでも早く……例え尚早であっても実行するしかない。
その為にはこの男が邪魔だ……
◆◇◆
SIDE:コムラード
とはいえ、気に食わないからといって実害がないのに邪険にするのも宜しくなかろうて……。
吾輩もまだまだ未熟──……ッと!?
咄嗟に身を翻す。
「何をされるか!」
投射物が石畳を貫通。物体生成系か?
しかしなぜこの女は吾輩へ攻撃してきた?
まさか……
「フェアラート先生、どういう御積りですかな? 外れたから良いものの、当たっていたらかすり傷では済まない術式でしたが。あるいは貴殿、人攫い共と関係があるのですかな……?」
すると、フェアラートは薄く笑いながら言った。
「ご存じの癖に、もう演技せずとも構いませんよ」
演技? 何の話だ?
既に吾輩が知っている? 何を?
だがそれよりも何よりも……
「貴殿が何を言っているのか、吾輩には分かりませぬ。しかし、売っている、という事でよろしいのですな?」
吾輩の言葉に、フェアラートは首をかしげる。
忌々しい!
吾輩が爺だとおちょくるか!
「何を、だと……? ……"纏い、力み、隆起せよ。岩纏鎧"!! 喧嘩をだ! 買ってやるぞ! クソアマがァ!!」
岩石を生成し成型し、身に纏わせ突進する。
身に纏わせた岩の鎧は体からわずかに離れているので重量による制限はない。
人攫いの事件に関係しているのは間違いなかろう。
突進し、そのまま叩き潰せればそれで良し。
だが、長引く様ならこちらの体力も持たぬ。
その時は……
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コムラードは確かにフェアラートを先生と呼んでいましたが、別に彼女が裏切り者だと気づいていたわけではありません。
術師としてはありえない無礼をされて苛ついていただけでした。
術師界隈では双方がレスバしていた時に口出ししたら殺されても文句は言えません。
フェアラートが先制攻撃した理由はコムラードに気付かれたと勘違いしたためです。
彼女は術師ではないため、術師の作法には詳しくありません。
彼女が色々失敗してるのは、術師のちょっと変な性質を理解できていないからの一言に尽きます。
しかしなぜ術師ではないのに術師の学校にいるの?となりますが、そのへんも回収はします。
それとこれは伏線ってほどでもないんですが、トゥードの話を出したのはコムラードが怒ったらそんな感じになるよっていうメッセージのつもりでした。
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