第5話
階段をのぼりしばらく歩くと、神社が現れた。一般に良く想像されるような神社で、赤い鳥居をくぐりぬけて、本殿の前に着く。神社周りには木が生えていなく、空の見晴らしは実に良い。中々に趣のある場所だなと感じる。
「さぁ、ここが絶景スポットです!ここで花火を見るよ!」
「わかった」
しばらく他愛のない会話を続けながら、いつ打ちあがるのだろうかと空を見る。花火と言えばお祭りのメインと言っても過言ではないだろう。そうなるとこうやって彼女と祭りを楽しむのも最後になるのかと思うと、少し寂しく思う。絆されたのだろうか。多分そうなんだろう。彼女といると心地よく思う。
「あっ」
彼女がそう言って、空に赤色の線が浮かび上がる。その線は夜空を彩って、花を咲かせる。その後も何発も打ちあがり、音と色の装飾が終わったのちに、十分な満足感と若干の寂寥感を覚えさせた。
しばらくの間、沈黙が僕たちの間を流れる。数分ぐらいだろうか、その沈黙を破ったのは彼女だった。
「……ねぇ、祭り、楽しかった?」
「……あぁ」
「……なら良かった」
また沈黙が訪れる。
「……これからもこういうのがたくさん見たいって、思えた?」
「……それは」
どういう意味だろう。僕はそう思って、しばらく考える。
「……あぁ、そうだね。こういうものは、もっと見たいとは思う」
「……そっか」
そう言った彼女の横顔は安心を浮かべていた。
「ならさ!せっかくだし神社でそれをお願いしちゃおうよ!もっと人生が楽しくなりますようにって!」
「……?まぁ、わかった」
「ほら早く!」
少ししんみりとしていたらこれだ。さっきまでの彼女が戻ってきたことに若干の安心感を覚えながら、神社の前に立つ。
賽銭箱の前に立ち、鈴を鳴らして参拝する。彼女の言った通り、これからの人生が楽しくあるように願うと、突然、あたりが眩しくなる。思わず手を顔の前に出すと、驚いたことに手が透けていた。どういうことかと彼女の方を見てみると、彼女は笑いながら
「次来るときは、もっと、もーっと、たくさん思い出を作ってきてよね?じゃないと許さないから」
そう言った。
直後、視界は白い光に覆われ、僕は意識を失った。
* * *
僕が再び意識を取り戻したとき、目に入ってきたのは白い天井。……あれは夢だったのだろうか。いや、夢であっても構わない。せっかく彼女に応援されたんだ。僕は体を起こし、あたりを見渡す。カーテンと窓によって四方は覆われ、狭くなっていた。窓の方を見て、青々と広がった空を僕は見上げながら、
「生きなくちゃな……」
そう、呟いた。
夏の夢 Ron @Ron_0014
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