第3話
そこはよくある江戸時代の田舎の村のようだった。土で出来た一部が剥がれた壁、藁で敷かれた穴の開いている屋根、村の中央に位置しているボロボロになった井戸。屋根の一部には蜘蛛の巣もあり、さながら和風ホラーゲームの舞台のようだ。
僕はこの光景に対して恐怖感を覚えた。明らかに生活感のない建物が並んでいるのに、家の前に並んでいる屋台だけは新しく、この村の雰囲気に相応しくない。屋台で店を出している人の人数に対し屋台に並んでいる人が一人もいないというのも不釣り合いだ。何より村という割に子供がいない。このアンバランスさに彼女が何も言わないというのもおかしく、彼女に対する不信感が募る。
「君の村の人たちは、これで全員なのか?」
「そうだよ」
彼女が不思議そうな顔をして答えるのを見て、この場所の得体のしれなさに警戒する。彼女はこの状態に対して何も疑問を覚えていないらしい。それがこの場所の常識だからだろうか。
僕が黙りこくってしまったからか、彼女は僕の手を握って「ほら、こっちだよ!」と言って無理やり引っ張っていった。
* * *
彼女に連れてこられたのは射的をやっている屋台だった。その屋台に立っている人の顔からは生気は感じられず、まるで人形を相手にしているようだった。そのようなことを感じながら300円の料金を支払い空気鉄砲とコルクを選び、景品に対して構える。
「あー、残念。当たったけど倒れなかったね」
「……そうだな。まぁ、こんなものだろ」
「ふふ、それはどうかな?」
彼女はそう言って300円を支払い、鉄砲とコルクを選ぶ。
「君に一つ伝授してあげましょう!この空気鉄砲とコルクの選び方、これにもコツがあるんです!」
「そうか」
「そうなんです!例えば空気鉄砲!これはバネが緩くなっていないものを選ぶんです!」
「そうか」
「ねぇちょっと反応冷たくない!?」
いやだって興味ないし……。というか鬱陶しい。
「ひっどいなー。せっかく私が君の欲しいものを取ってあげようとしているのに」
「どうせ当たらないだろう?君がどれだけやれるのかはわからないけど」
「おっ?言ったなー?」
そういって彼女は構える。その姿は熟れたものであり、その姿にどことなく既視感を、僕は覚えた。そうして彼女は端の菓子を狙い、1発で落とした。
「どーだ!これが私の実力さ」
「……そうだな。言うだけのことはある」
「でしょ!それで、私の実力を見た君が欲しいものはなんだい?」
自慢げに言う彼女に思うことはあるが、一応屋台のものを見る。
そこで僕は一つのものに奇妙なまでに目を引かれた。それは、箱に入ったヘアアクセサリーだった。
「じゃあ、あれを」
「おっ?どれどれ、あれでいいの?」
「ああ」
「おっけー」
そういって彼女は見事に箱を撃ち落とした。彼女は屋台の人からそれを受け取ると、僕に渡した。
「それで?髪につけるの?」
「それはそうなんだが」
「君が?何それ、面白いね」
「いいや、僕じゃない」
「え、じゃあ誰?」
「君」
「え」
彼女の驚いた顔を見て少し面白いな、と思った。
「ほら、早くつけなよ」
「え、いや、でも」
「ほら、早く」
「……わかったよ」
そう言ってヘアアクセサリーをつけた彼女は、とても可愛らしかった。
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