第2話
彼女に連れられ、森の中を歩いていく。道はそれほど整備されてはおらず、田舎の山道のような感じだ。彼女は時折僕がちゃんとついてきているか振り返る。
「今はどこに向かっているんだ?」
「私たちの村。祭りはそこで行われているから」
「どんなところなんだ?君の村は」
「どんなところ、かぁ。普通の村だよ。森に囲まれていて、自然豊かな村。あ、でもお社が丘の上に建ってるね」
「お社?どんな神様を祭っているんだ?」
「さぁ?わかんない」
「わかんないって……」
彼女のつかみどころのない応答に苦慮しながら、周りを見渡してみる。
この場所は不思議だ。辺りは木々が鬱蒼と生い茂り、薄暗い。それだけならばよいのだが、木の形がおよそ一般的ではない、ねじ曲がった生え方をしている。それに、空も変だ。今は恐らく、夜なのだと思う。というのも空に雲は見えないのだが、月もまた見えない。太陽や星の姿など欠片も見えず、ただ闇が広がっているばかりだ。
「なあ、一体ここはどうなっているんだ?」
「というと?」
「僕はこんな木を見たことがない。それに、空だってあるべきものがないじゃないか。どう考えたっておかしいだろう?」
僕がそう言うと、彼女は黙ってしまった。
しばらくの沈黙の後、彼女は答えた。
「私たちにとっては普通のことなんだけどね。君にとっては普通のことじゃないんだ」
「ああ」
「……なら、教えてあげる。あの木はね、後悔とか、絶望とか、そういった負の感情によってできるって言われているんだ」
「負の、感情?」
「そう。ここは、誰かの感情によって環境が変わったりすることがあるの。空もそう。誰かの負の感情によって変わる。とは言っても、月がなくなるとか、そういったことになるのはそうそうないけどね」
「じゃあ、今のこの状態は異常なのか?」
「まぁ、そういうことになるね」
彼女は特に気にするでもなく答えた。落ち着きすぎている、僕にはそう思えた。だって、彼女の言葉から察するならば、今この月がない状態というのは、誰かが強い負の感情を抱いている、ということだ。それほどの強い感情ならば誰かに危害があってもおかしくないだろう。彼女の村の人たちが危ないんじゃないか。
「君は……気にしないのか?」
「ん?何が?」
「君の言葉から考えるなら、今誰かが強い負の感情を抱いているということだろう?君やほかの人たちが危ないとは思わないのか?」
「……優しいね。君は。でも、心配する必要はないよ。そういうのはホカの人たちの特権だ。私の知り合いはそういったことに巻き込まれても構わない、そういう心構えをしているから」
「それは……」
答えに窮する。それはつまり、彼女やほかの人たちは他人に危害を加えられることを是としているということなのか?「ほかの人たちの特権」というのはどういうことなのだろう。
* * *
結局、あれ以上聞くことはできなかった。何を聞けばよいのかわからなかったのもある。彼女の答えの意味が掴みきれず、道中はずっと無言になっていた。おそらく彼女は考え込んでいる僕を気遣ってくれていたのだと思う。
そうして歩き続けていると、彼女が止まりこちらへ振り返った。
「着いたよ。ようこそ、私たちの村へ」
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