夏の夢
Ron
第1話
「おうい。起きて。起きてってば」
微睡の中に身を任せて、意識を投げ出していた。
「ねぇ!起きて!ねぇ!」
このまま身を任せたい衝動を覚えながら、ふと、声が聞こえた気がした。
「もう、仕方ないな。えい!」
腹部に衝撃を感じ、微睡から引き上げられる。
目を開けたとき、そこに見えたのは焦りの表情を強く浮かべた「彼女」の顔だった。
* * *
「やっと起きた。寝坊助さんだよほんとに」
そう言うと彼女は安堵の色を浮かべて呟いた。彼女は誰なんだろうか。どこかで見た気がするが、思い出せない。そもそも何故僕は寝ていたのだったか。そういった疑問を覚え、記憶を探ろうとしたが、強い痛みを覚えた。
「あれ?反応がないな?大丈夫?起きてるよね?」
目の前で何かを言っているのはわかるが、それを気にすることもできない。僕の名前はナンダ?家族は?友人は?目の前の彼女の名前は?何も思い出せない。何故だ?なぜ思い出せない?
「何か考えてる?目の前の美少女を無視するなんていい度胸してるよね。ほんと」
なんで僕はここにいる?なんで?なんで?嫌な考えばかりが頭の中を巡る。
「仕方ないなあ。ほら」
僕が思考の渦に引き込まれそうになったとき、頬がつねられた感触がした。
「やっと私の方を見た。助けてくれた私に感謝はないわけ?」
「えっと、すまない。ありがとう」
「そう、まず人に助けてもらったときは感謝。当たり前だよね」
そういう彼女に既視感を覚えながら、僕は問う。
「君の名前は?ここはどこなんだ?なんで僕はここにいるんだ?」
そう問うと、彼女はほんのちょっぴり悲しい顔をしながら答えた。
「そんな矢継ぎ早に質問を投げられても困るんだけどなあ」
「まあいいよ。答えてあげる」
「私の名前はアイ。ここに住んでいるんだ」
「ここがどこかと言われても難しいなあ。私たちはここをこことしか認識しないし。私たちはここから出ることもしない。だから呼び名とかは特にないんだよね」
「君がなんでここにいるのかは知らない。ここの河川敷に倒れていたのを見つけただけだから。見た感じは呼吸もあったし特に問題なさそうだったから介抱していたの」
「どう?これで満足した?」
彼女の答えを聞いて、考える。つまり、彼女は「ここ」の出身で、倒れている僕をたまたま見つけて介抱していたということらしい。辺りを見渡してみると、確かに河川敷だ。石がたくさんあり、子供たちが遊んだ残骸だろうか。いくつか石が塊になって置いてある。
「ああ。ありがとう」
「よかった」
その後、彼女は「ねぇ、もしよかったらなんだけど」と前置きをしてから
「ここで今夏祭りが開催されているんだ。一緒に行かない?もしかしたら君のこともわかるかもしれないしさ」
と言った。
どうするべきだろうか。今の僕は記憶を失って何もわからない状態だ。それならば、彼女の言う通りにする方が良い気がする。どうせ、断っても何も行く当てはないのだし。
そう思い、僕は「わかった。いいよ」と答えた。
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