第2話啄木の見たものと、思い

雨に濡れし 夜汽車の窓に 映りたる 山間の町のともしびの色

                   

(石川啄木:一握の砂の中の忘れがたき人人より)

啄木が仕事の事情で、函館を去る時を思い出し、詠んだ短歌とされている。



夜汽車の窓に流れる雨。

その窓を通して、ぼんやりと見える山あいの家々の灯り。

自分は、ここを去っていく(過ぎ去っていく)けれど、その家々ごとに灯りがつき、人々が暮らしている。

今まで会ったこともなく、これから会うこともない人たちかもしれない。

それでも啄木は、その家々に灯る光を詠みたくなった。



厳しかった函館での暮らしも、これからの不安も、この歌にはない。

そんな自分の実状などは、この歌には詠まなかった。


啄木自身が、山あいの家々に住む人に、「幸多かれ」 と思ったかどうかは、わからない。


しかし、それに近い思いを持たなければ、こんな抒情あふれる歌は読めないのではないかと思うのである。







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