分岐ルート
左右どちらかの部屋を選択してください。
第10話 大根は右の部屋を選択してしまった。
俺は、右の、引き戸が開いた部屋へと飛び込んだ。
そして、目の前に入ってきた食べ物の山へと紛れた。
ドタドタドタッと足音が聞こえる。
「あれ、おばあちゃん! ねえ、今ここに何か変なの入ってこなかった?」
なっ……! 変だとは失礼な! というか、おばあちゃん……?
ギャルの失礼な発言を聞いて、目の前をよく見ると、微動だにせずこちらに向かって正座をしながら拝んでいるおばあさんの姿があった。
おばあさんがいたのか。全然気が付かなかった。
まさか、おばあさんにバレて───
「ん? なんのことかね」
───なかったー。よかったー!
おばあさんは拝むのをやめ、ギャルのいる後ろを少し振り向きながら、俺が言って欲しかった言葉を言ってくれた。
おばあさんの言葉を聞いた後に、ギャルは「おかしいな〜」とブツブツとつぶやき、何度も首を傾けている。
ふっふっふっ〜。残念だったな、ギャル。俺の勝利だ!
勝利を確信していると、バチが当たったのか、ギャルが、俺に都合が悪いことを言ってきた。
「あ、おばあちゃん。あの足の生えた大根をお供えしたんだね〜」
ギャルめー! なんてことを! バレてなかったのに、これじゃあバレちまう!
ギャルは大きな爆弾を放ち、自分はその爆発に巻き込まれないようにするかの如く、この場を去って行った。
どうすればいいんだ! こうなった以上どうすることもできないが、どうすればいいんだー!
まさか俺の紛れ込んだところが、仏壇だったなんて。見てくださいと言っているようなもんじゃないか!
運が味方してくれていると思っていたのに、こんなところで俺のおっちょこちょいが発動してしまうなんて。
俺の頭の中は大慌てでも、一縷の望みをかけて体は微動だにしないでいる。
そんな俺の望みが叶ってくれたのか、おばあさんは「よいしょっ」と膝に手をかけながら立ち上がり、部屋の隅にある机へと向かった。
そしてまた、「よいしょっ」と言いながら、俺を背にして、机に両手をかけて座り、編みかけだった編み物を始めた。
おばあさんが座ったところからは、引き戸もちょうど見えない。
やっぱり、運が味方してくれていたんだ!
俺は、正面に見える廊下が静かなのを確認すると、慎重に仏壇から降りて、畳の上を歩く。
廊下に少し顔を出し、誰もいないのを見ると、右向け右で玄関へと向かう。
忍びも驚くくらい、抜き足差し足も慣れたもので、あれから何事もなく玄関へと着くことができた。
だが、最後の難関である玄関の引き戸が、目の前に立ちはだかっていた。
玄関の引き戸は、磨りガラスになっており、そこに四角い木の棒が、格子状に付いている。
不用心にも、ネジのようになっている鍵は刺さっておらず、鍵が開いているようで、俺には助かった。
俺の頭を木と木の間に差し込んで動いたら、開くかな?
「どうぞ、大根様」
あぁ、どうもありがと───
ん?
声が聞こえると同時に、目の前に立ちはだかっていた引き戸が横へとズレる。
俺は、「どうもありがとう」と言いながら外へと足を踏み出していたが、急いで声の主の方向へと振り返る。
するとそこには、編み物をしていたはずのおばあさんが立っていた。
俺は動揺によってか硬直してしまい、ただの大根のふりをしてしまう。
そんな俺を見ておばあさんは、「またお越しくださいね」と微笑みながら俺に言い、引き戸を閉めた。
***
いろいろとあったが、なんとか畑に着くことができた。
こういうときに、“一時はどうなることかと思った”と使うのだろうな。
俺の大根生は、まだ始まったばかりなんだ。大根ライフを謳歌しよう!
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