第4話 大根から説明を受けてしまった。

「ん? 聞こえなかったのかのお? EDMを使って、倒すのじゃぞ?」


 今さっきまで決め台詞かの様にセリフを吐いていた旧王だったが、俺が聞こえていないと思ったのか、もう一度ゆっくりと丁寧に言ってきた。


「いやいや、聞こえていたから驚いて声が出なかったんだろ」


 EDMを使って倒す? どういうことなんだよ……。

 俺の頭の中には、クエスチョンマークしか浮かんでいなかった。


「頭の中でEDMを流し、キチンとリズムに合わせてステップを踏むのじゃ。頭の中に流したEDMは会話をする時と同じように、相手にも共有されるので大丈夫じゃぞ。リズムとズレてしまうと、相手の攻撃をもろに受けてしまうから気をつけるのじゃ。キチンとリズムが合えば相手に攻撃がいくのと、相手からの攻撃を打ち消すことができるからのお。キチンとリズムに合わせてステップを踏むのじゃぞ!」


 頭の中にクエスチョンマークしか浮かんでいなかった俺をよそに、旧王は質問をする隙を与えないようになのか、どんどんと説明をはじめていき、俺はその説明を理解していくことに注力を注いでいくしかなかった。

 というか、俺のハマっていたあの映像は、王の仕事風景だったのかよ。


「俺はROM専なんだが……」


 ボソっとつぶやくと、旧王は説明に夢中で聞こえないのかと思いきや、意外にも俺の声が聞こえていたらしく、答えてくれた。


「その言葉の使い方はあっているのかのお。EDMがどんなものなのか尋ねてこないということは、お主はEDMがなんなのか知っておるということじゃろ? なら、それだけで大丈夫じゃ。必要なのは、パッションだけじゃ。慣れればカンタンじゃ」


「パッションもくそもないのだが……」


 俺がまたボソっとつぶやくと、今度は聞こえなかったらしい旧王が、また喋り始める。

 まったく、都合のいい耳をしているな。


「そうじゃそうじゃ。大事なことを言い忘れておった」


 まだこれ以上何かあるのかよと思いつつ、俺は旧王の話に耳を傾ける。


「足の生えた大根は腐らない。つまり、不死身なのじゃ。じゃが、調理をされてしまうと、その食べ物の消費期限が寿命になってしまうんじゃ」


「だから、さっき人間に見つかるとまずいと言っていたのか」


「お主、察しがよいのお。そうじゃ! じゃから、くれぐれも調理されるでないぞ。体力を回復するためには土の中に入らないとできんからのお。その時に人間に収穫されてしまわぬよう気をつけるんじゃ! 収穫された時は逃げ切るんじゃぞ」


 恐ろしい……。今まで俺も人間だったのに、その人間から食べられる運命にあるだなんて。


「それじゃ、説明も終わったのでわしはもう行くからのお」


「お、おい……!」


 そう言って、俺の声も聞かぬまま、旧王は山へと続くであろう草むらの奥へと歩いて行った。


「あれ? でも、アンタさっき隠居するって……」


 旧王が歩いて行った数秒後にハッとして言葉を投げかけるも、辺りはシーンとしていた。


「俺のおっちょこちょいめ!!!」


 王になる以外の選択肢もあったことに後から気付いてしまった俺は、自分のチャームポイントだと思っていたおっちょこちょいを、はじめて責めてしまった。

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