第1話 大根になってしまった。
ここは一体、どこなのだろうか。ずっと暗闇の中の世界だが、恐怖心は全くなく、むしろ心地がいい。柔らかくふわふわしたものに包まれ、大地と溶け合っているような感覚だ。ずっと、この世界に身を委ねていたい。
「……おい!」
……
「起きるんじゃ! おーい!」
……
「無視をするでない、起きるんじゃ!」
……
「あぁ、そうじゃった。喋り方を教えていなかったのお。伝えたい思いを念じれば、言葉を操れるようになるぞ」
さっきから、俺の頭の中に流れてくるこの雑音は一体何なんだ……
「……黙れ!」
「うぉい! なんじゃ、その口の利き方は!」
「せっかく俺が気持ちよく寝ていたというのに、いきなり喋りかけて起こしてきやがって……じじいだかなんだか知らないが、絶対に許さないからな! 一発くらわしたろうかな……」
「おいおい、心の声が漏れておるぞ。まあ、良い。直に、言葉の操り方にも慣れてくるじゃろ」
「さっきから何を言っているんだ。というか、誰なんだ。勝手に俺の脳内に入ってくるなよ」
「わしは、ここの畑を護っている王じゃ」
「王? 何を言っているんだ。頭がおかしいんじゃないのか? というか、畑……? ここは、畑なのか?」
「一言余計なのは、どうにかならんのかのお……。そうじゃ、ここは畑じゃ。お主は転生したんじゃぞ。気付いていなかったのか?」
トラックと思いっきり衝突したんだ。死んだとは思っていたが、まさか転生していたとは……。
「それより、はやく地上に出て来るんじゃ。人間に見つかるとまずいことになってしまうから、移動するぞ」
「そんなこと言われても、どうやったら出られるんだよ」
ん……? 俺の聞き間違いでなければ、今、“人間に見つかるとまずい”って言ったか? 俺は、人間じゃないということなのか?
「足に力を入れるんじゃ。そうすれば、ジャンプをすることができて、出られるぞ」
足は、ついているんだな。
俺は、王と名乗るものの言う通りに、足に力を入れてみる。すると、体がスッと上にあがっていく感覚がした。
「おっ! 出られたっ大根!?」
地上に出られた俺の目の前に、仁王立ちした大根の姿があった。
「何を驚いておるんじゃ。そういうお主も、大根じゃぞ」
「……はぁ!? 俺は、大根に転生したってことか!?」
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