大根転生
大岫千河貢
この小説は、「ツクール×カクヨム ゲーム原案小説オーディション2022」のために書き下ろした小説です。
プロローグ 大根にハマってしまった。
「何回見てもクセになるな」
俺は今、大学から帰宅している途中だ。1時間電車に揺られ、最寄り駅から家までの大通りを歩いている真っただ中である。そして帰宅のお供はというと、今SNSで大バズり中の動画だ。
その動画は、EDMにノッて足の生えたような大根が宇宙をバックにしたり、渋谷のスクランブル交差点をバックにしたりと、いろんな背景の中ステップを踏んで踊っている動画となっている。
今日はまだ4回しか観ていないのだが、最低でも毎日10回は観てしまうほど、俺はこの動画の中毒性にハマっている。
「あっ」
ノールックでリュックのポケットへ入れようとした定期入れが、ポケットをカスり手から離れた感覚がした。視線をスマホから外し、歩いてきた地面に落とすと横断歩道の真ん中に、見慣れた定期入れの姿があった。俺はそれを拾おうと、定期入れのある方向に足をやり、しゃがんで手を伸ばす。
「きゃ! 危ない!」
定期入れに手を伸ばしたのと同時に、女性の叫び声が聞こえてきた。人間の勘とは不思議なもので、悲鳴のぶつけられた先がわかってしまう。
俺は首を横に曲げると、目の前にスピードを落とす様子のないトラックの姿が飛び込んできた。
「きゃーーーーーー!!!」
トラックと俺の衝突は一瞬だったものの、またも響く女性の叫び声から俺が宙に舞う動作からなにもかも全てがスローになる感覚で、倒れた先に見えた信号の青い点滅が、EDMのリズムに合っているという発見をこんな時に得てしまった。
“2月17日14時頃、男子大学生(20)がトラックに跳ねられ死亡”って報道されるのかな……なんて、わかりもしない未来のことが痛みを紛らわせるためか、冷静にも頭に流れ、視界が暗くなっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます