第2話
"霧の森“
ヴィナルとドゥリラの間を裂くようにそびえる中央山脈のどこかにある森。
“霧の森“の正確な位置は不明で、濃い霧で侵入者を惑わし、一度足を踏み入れてしまった者は二度と戻ってくることはない。この森を恐れて中央山脈に立ち入る者はほとんどおらず、今も森は神秘的な力に満ち溢れ、古の生物が数多く生息しているという。
マズい、マズいマズい。本当にマズい。
逃げるのに必死で気付かなかった!
"霧の森“って、もっと北のほうにあると思ってたのに!
こうしている間にも、どんどん霧が濃くなってる。
早く森から出ないと、完全に迷ってしまう。
でもここで下手に動くと追手にも見つかるかもしれない。
どうしよう、どうしよう。どうすればいい?
霧はすでに、木々の隙間や、月や星を覆い尽くし、この場所の正確な位置すら分からない。視界が悪いので野生の攻撃的な生物に接近しても気付きにくく、さらに、気温が下がったことにより、どんどん体温が奪われていく。
これが、霧の森が人々が恐れられている由縁だ。
モーガン(ってゆうか、まだ《第二の実りの月》でしょ? 何でこんなに霧が出てるの? こんな時期に防寒具なんて持ってきてないよ?!)
モーガン(魔法を使うか? いや、ここにくるまでに身体強化魔法をかけっぱなしだったから、魔力もほとんど残ってない。こんな、何と遭遇するかも分からないところでの魔力切れは命に関わる)
モーガン(どうしよう。早くなんとかしないと、一人で動けなくなって最悪このまま死ぬ)
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ーーーーー。
モーガン(ダメだ。ここで考えていてもどうしようも無いし、誰も助けにきてはくれない。自分で何とかしなきゃいけないんだ)
モーガン(ともかく、霧が晴れるまで休めるところを探さないと・・・・・・)
【ヴィナル国 王都 城】
ヴィナル国第一軍団は、王と王の住まう城を護る為に作られた軍団。
日々選りすぐりの軍人たちが警備と鍛錬を行なっている。
王を護る為の軍とあって団員一人一人の忠誠心(プライド)は人並みではない。
第一軍団の兵舎、及び訓練場は東側に位置しており、その場所一帯は所属団員以外が近づき難いオーラを放っている。
ブライアンは、ある扉の前で歩みを止めると、三度、ノックをした。
ブライアン「ブライアンです。エドワード第二軍団団長殿をお連れしました」
扉の向こうから、入れという声が聞こえ、ドアノブをゆっくりと回しながら扉を押し開けた。
中に入ると、この部屋の主、アレックス第一軍団団長が険しい表情をして立っていた。
エドワードはその表情を見てからの言わんとする事が容易に想像できた。プライドの高い彼なら、王を守る第一軍団が王命を狙う組織の調査を第二軍団に任せておくはずがない。
エドワード「アレックス、君の言いたいことはわかる。だがこれはあくまで我々の管轄で・・・・・・」
アレックス「奴らは、この国の王の命も狙っていると聞く。王に関わることなら調査は我々が行うべきだろう?」
やはり、
エドワードの言葉を遮るように、アレックス第一軍団団長は話し始めた。
アレックス「エドワード。君がこの組織に関してどの程度の情報を得ているのかは知らないが、奴らの目的が王の殺害だとしたら、私はこの第一軍団の団長としてその組織から王を守らねばならん。単に城の警備をしている事だけが我々の仕事ではない。王に迫る危険を排除するのが私たちの使命だ」
エドワード「だから、金稼ぎのために軍人をしている我が第二軍団の者だけでは、信用ならないと?」
アレックス「ああ、平たく言えばそうだ。誇りを持って仕事をしている我が軍とは、調査の結果も違ってくるだろう」
エドワード「くっ・・・・・・」
エドワードは唇を噛みしめ、拳を強く握った。
アレックス「エドワード、この件から手を引け。お前の部下たちにもそう伝えろ」
エドワード「まだ、奴らの目的が王の殺害と決まったわけじゃない」
アレックス「なんだと?」
エドワード「奴ら・・・“ブランカ“と名乗る謎の組織は、ここ数年の間に突如として現れ、反王政側の同志を募り、現在もその勢力を伸ばしている」
エドワード「だが本拠地や指導者は不明、構成員数名の顔は割れているが、どれも反王政側の過激派ばかりだ」
アレックス「“ブランカ“・・・・・・白、か。何か身の潔白を証明したいということなのか?」
アレックス「それに女性名詞というのも気になる。男性名詞ならブランコだ。女性が関わっているのか?」
エドワード「詳細は不明だ。だが、少なくとも王政に不満を持っている者達が集まっている。穏便には済まされないだろう。
アレックス「だったら尚更、我々第一軍団が受け持つべきではないのか? エドワード。まさか手柄を横取りされない為に頑なに捜査権を譲ろうとしないのか?」
エドワード「王の殺害が目的というのは、単なる“うわさ話し“だ。奴らがこの国を混乱に陥れたいのなら、何も城の警備を掻い潜ってまで王の命を狙うなんてリスクの高いことはしないだろう」
アレックス「それこそ、ただの憶測だ」
エドワード「奴らの本拠地も、目的も、リーダーが誰なのかも、まだ何もはっきりしたことはわかっていない。調査もまだまだこれからだ。何かあればそちらにも協力を要請するが、組織の実態が不明な今、捜査の権限は我々第二軍団にある」
両者は睨み合ったまま、暫く微動だにしなかった。
エドワード「・・・・・・」
アレックス「・・・・・・」
エドワード「他に話すことがないのなら、これで失礼させてもらう」
部屋を出たエドワードは、一つ深いため息をつくと、第二軍団の、自分の仲間の下へと歩き出した。
エドワード(やはりあの大臣といいアレックスといい、怪しい。何故あそこまであのブランカという組織に執着する? 奴らの目的が何なのか知っているのか?
それに、1番怪しいのはブランカだ。一体何が目的なんだ? )
??「エドワード団長、ご報告があります」
現れたのは、白い髪が印象的な青年だった。
廊下の向こうから、重力を感じさせない軽い身のこなしで走り寄ってきた。
エドワード「ソウマ。何か奴らに動きがあったのか?」
ソウマと呼ばれた青年は吸い込まれるような青い瞳を大きく広げた。
ソウマ「はい。ヴィナル国中央山脈の南西部から西部にかけて火属性魔法を使用した時の閃光を目視しました。同時に、潜入調査員の一人の身元がバレて調査から離脱したと、報告がありました。現在、その調査員の行方は分かっていません」
エドワード「そうか」
通常王都から中央山脈までは馬で1日かかる。当然、普通の人間が戦闘を目視できる距離ではない。では何故、ソウマは視ることができたのか。それは彼の特殊な能力にあった。
ソウマ「団長、俺に探させて下さい。近くには魔法大学もあります。協力を要請すれば、何とか殺される前に・・・・・・」
エドワード「ダメだ」
ソウマ「?! 何故です?!」
エドワード「離脱した調査員の捜索は他のものに任せる。ソウマ、お前には、調べてもらいたいことがある」
エドワード「現国王派の大臣が例の組織について何か知っているかもしれん。執拗にブランカを始末したがっている。政治絡みの問題になりそうだ」
ソウマ「・・・・・・」
エドワード「だとしたら、第一王子派の大臣も手を出してくる可能性も考えられる。ソウマ、これは君にしかできないことなんだ」
ソウマ「・・・・・・わかりました」
モーガン(全然霧が止む気配がない)
モーガン(結構深くまで入ってしまったのか。そらすらも分からない)
モーガン(せめて、目印になる星が一つでも見つけられたら)
モーガン「・・・・・・見つける・・・か」
モーガン「・・・・・・ソウマ・・・・・・」
その時、頭上を黒い物体が風のように通り過ぎていった。
モーガン「?!」
さらに、背後からカサカサと物音がする。
モーガン(なにかいる。追手か?)
音はだんだん増えてゆき、遂にはモーガンを取り囲んだ。
物陰から幾つもの黄色い眼が光る。
「ギヤヤヤヤアアアアァァァァ!!!!!」
モーガン「小型ドラゴン?! 」
物陰から飛び出した小型ドラゴンたちは飛べない翼を広げ、一斉に鋭い牙でモーガンに襲い掛かった。
モーガン「?!」
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