第1話

【ヴィナル国 南西部】






ヤバイ、ヤバイヤバイ。マジでヤバイ。





バレた。速攻バレた。





潜入調査だってのに、潜入の「せ」のところでバレた。





どうしよう、早く逃げないと。










軍人だとバレないように、一回退団させられて、




数ヶ月間、薄汚い路地で不良紛いの格好をして、




王都や下町、そこら辺の農村を走り回り、




謎の組織の根も葉もない噂に踊らされ、





やっと微々たる量の情報を掴んで、





藁にもすがる想いで組織の下っ端に接触して、





恩を売りつけて、





そこそこの奴に気に入られて、





信用を得て、






やっと、組織の幹部に紹介してもらえるって時に、









バレた。












 なんで? なんで?! 


 バレるの早すぎじゃない?!



 あの中に居た誰かが幹部にタレコミしたのか?



 いや、それは無いだろう。



 他の連中は動揺してる様子だったから、そいつらは多分何

 も知らない。




 他の潜入調査員が身バレしたって話も聞いてない。




 軍への報告も、極秘裏に行っていたのに、





 一体誰が? どのタイミングで勘づいたんだ?







 それかもしや優秀な情報屋でも雇ったのか?








 

・・・・・・。考えていてもしょうがない、


 今はとにかく逃げないと。













 額から流れた汗が頬を伝い、髪は走る動きに合わせて忙しなく揺れる。夜の涼しい風の中、モーガンはただひたすら追手から逃げていた。じりじりと燃える太陽は、ようやく山の向こうに沈んでいったばかりだ。





追手A 「おい待て、止まれ!」








モーガン 「やばい、もう追いつかれた!! 」










追手B 「止まれっつってんだろ!」



追手C 「逃すか!」





モーガン (声からして数人、そんなに多くはない)






追手A 「おいお前ら、"アレ“をやっちまえ!」



追手B「おう!!!!」



追手C 「任せろ!!!」



追手D 「覚悟しろよ!!!」

 






モーガン(っ、何か来る!)





追手B 「うおぉりゃやあああ!!!!」




追手の掌から赤い炎がメラメラとあがった。




モーガン(右後方から火属性魔法! 避けないと!)




モーガンは追手の攻撃に気づくと、さっと左に避けた。

すると爆音と共に炎の弾が地面に衝突し、彼女たちが走り去った後には焼け焦げた地面と、臭い、白い煙だけが残った。





モーガン(こいつら、ドゥリラの手先じゃないのか?)



追手C 「余所見してんじゃねぇ、よ!!!」



モーガン「はっ!」



暗い森の中に一筋の閃光が煌めく。

もう一人の追手が左側から切り掛かってきたのだ。



モーガン「くっ!!」



モーガン(魔法と剣で役割を分担か。これはしつこそうだな)



相手の攻撃が腕をかすめたが、モーガンは止まることなく、ひたすら昏い森の中を北は北へと走った。





モーガン(何でこんな時に限って時間が経つのが遅いんだ!この暗さと、木の数的にギリギリ巻けるかどうか)





そうこうしている間にも、追手たちは次々と止むことなく攻撃を浴びせてくる。





モーガン(せめて、いや何としてでも,この情報だけは伝えないと!)


















【ヴィナル国 王都 城】







大臣 「それで、謎の組織の調査の方はどうなっているんだね団長殿? 君がこの仕事を任されているのだろう?」




団長 「はっ、必ずやこの第二軍団団長の誇りにかけて、謎の組織の壊滅に向かいます」




大臣 「うむ、そやつらは王の命も狙っていると、風の噂で耳にした。王に何かあれば、第二軍団だけでなく、王を守る第一軍団ひいてはこの国全体を混乱に陥れかねない。その為にも、君には頑張って貰わなくてはなぁ」




団長 「はい、重々承知致しております。大臣。ただ今数名の優秀な調査員を派遣し、組織に潜入させております。何かしら情報が入るのも、時間の問題かと」




大臣は満足げに身体を揺らしながら城の廊下を歩き去っていった。団長は苦々しい思いでその背中を見送った。




団長 (害虫が、この国を乱しているのはお前達の方だろうが)




??「失礼。エドワード団長、お時間よろしいでしょうか」





エドワード「えっああ、君は確か、第一軍団の・・・、」




振り返るとそこには鋭い眼差しをした男が立っていた。




??「副団長のブライアンです」





エドワード「君とは管轄が違うはずだが、何か用かね?」





ブライアン「我が第一軍団団長が、一度話をしたいと」





エドワード「やはり、あの謎の組織についてか」




ブライアン「ええ、王の命を狙っているかも知れないとあれば、こちらの癌の問題にもなってきますから」




エドワード「ああ、そうだな。よし分かった、今から向かおう」




ブライアン「では早速ご案内いたします」



二人は大臣が歩いて行った方とは逆の方向へ歩き出した。




エドワード「にしても・・・・・・・。」




ブライアン「? 何か?」


今度は先を歩いて案内するブライアンが立ち止まって振り返る。


エドワード「副団長か、にしては君は若いな」




ブライアン「・・・・・・」





二人の間に、刹那の沈黙が流れる。




















ブライアン「私は、・・・・・・。」




























ブライアン「“決戦“を経験していますから」




























【ヴィナル国 西部】



モーガン「ハァハァハァ」





追手A 「何処だ! どこへ隠れた!」


追手B 「出てこい!!」





モーガン(息が苦しい。このままじゃ、見つかっちゃう。)




荒い息で木の幹に手をつくモーガンに、夜の森が思わず身震いすらような冷たい風を送ってきた。





モーガン(今動くのはまずい、かと言って、この月明かりじゃ隠れるのにも限界がある。どうする?)






追手C 「おい! どこだ!!」





モーガン(ヤバい、こっちに来た!)




じっと息を潜めて音と目に集中する。

この葉を踏みつける音とともに、人影が近づいてくる。





ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。





モーガン「!!!!!」




追手と目が合ってしまった。







ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。








一歩また一歩と追手が近づいて来る。

















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。














ーーーーーーーーーーーーーーー。













ーーーーーーーーーー。













ーーーーー。












モーガン「 ? 」






思わずつぶってしまった目をうっすら開けると、追手はモーガンを見つめたまま、微動だにしなかった。



まるで存在に気付いていないかのようだ。





追手D 「おーい、こっちにはいなかったぞ!」




追手C 「こっちもいなかった!」


モーガン「?!!!」






確かに追手とモーガンの距離は十メートル程。

それでも相手にはモーガンの姿が見えていないようだった。







追手A「山を下って王都へ逃げたんだろう。そっちを探せ!」










一人がそう叫んだかと思うと、あっという間に追手達は東の、王都のある方へとあっという間に消えていった。










モーガン「助かった、のか?」








完全に足音が聞こえなくなっても、モーガンは緊張した面持ちだった。







モーガン(何故だ? 夜の森とはいえこの月明かりだ。人がいることぐらい気づいただろう)







その時、一層冷たい風がモーガンの背中を撫でた。






ハッとして振り返ると、


















モーガン「・・・・・・。霧?」




















モーガン「っ、まさか!!!

















“霧の森“、に入ってしまったのか?」

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