第3話






モーガン(後ろから2匹!)


振り向きざまに攻撃魔法を放つ。


手から唸るように炎を出し、丸めて投げつける。

極めて初歩的な魔法だが、なるべく魔力の消費を抑える為にはこのような魔法しか使えない。



「グギャア!!」



攻撃は見事に命中し、2匹の小型ドラゴンは金切り声を上げて倒れた。



モーガン(まだ8匹目。くそっ、霧のせいで接近に気付かなかった。次から次に出てきてキリがない)




倒れた仲間を飛び越えて、また次の敵が襲いかかってくる。



それを倒しても、また次が。



モーガンを取り囲んだ群れは、着実に彼女の魔力と体力をジリジリと削っていった。






モーガン(次は3匹!!!)



次の魔力をチャージしながら、モーガンは腰に下げた剣を抜いた。チャージの時間が終わるまでは体が無防備になり、その間は自力で何とかしなくてはならない。

通常、魔法使いになる為には、飛び級でもしない限りは6年間、専門の教育を受ける必要がある。部屋に篭り、研究や勉学に勤しむ者達に、そもそも体力を求める方がおかしい。

加えて、魔法は発動までの時間が長く、隙も生まれやすい。なので魔法使いのみでの戦闘は無いに等しく、一般的な魔法使いは、魔法をチャージする時間を補い、守る剣士や射手と組んで戦う事になる、








モーガン「てりゃああ!!」



「ギヤウウウウ!!」





モーガン「とりゃああ!!」



「ギャウウウン!!」






モーガン「うらぁあああ!!!」



「ギョエエエエ!!!」








はずである。


















モーガン「はぁ、はぁ、はぁ」





「ギョギョギョオオオ!!!」





「グルァアアアア!!!!!」





「シーーーーー!!!!!!」





興奮した小型ドラゴンは、怯むことなくモーガン目掛けて突進していく。ガバッと開かれた口には、太ももを容易に切り裂ける犬歯が白く光る。


モーガンは相手が飛び掛かるタイミングに合わせて地面を蹴り、宙を飛んだ。

噛みつこうとする口を水平に深く裂き、一気に薙ぎ払う。そのままスピードを落とすことなく次の敵に飛びかかり、脳天をかち割る。




モーガン「うっ・・・」



血飛沫が片目に入り、開けていられなくなっても、もう片方の目で敵を追いかける。

辺りには赤い血と、どろっとした鉄の匂いが霧に混じって漂う。死骸がそこらに転がる様はまさに、地獄絵図だった。

モーガンが力尽きるか、小型ドラゴンの群れが全滅するか。

一対一で向かい合った両者は、円を描くようにお互いゆっくりと距離を詰めていく・・・・・・











「キョシシーーーーーー!!!!!」






モーガン「?!!」




見たこともないほど大きい小型ドラゴンが横やりを入れるように突進してきた。完全に予想外の方向からの攻撃に防御が間に合わない。




モーガン「ヤバい・・・・・・!」





肉を切り裂く牙が目前に迫る・・・・・・











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大臣「国王陛下にご報告申し上げます」




国王「ブランカが、ブランカがこの私の命を狙っているのだろう! 嗚呼、大臣! 何をしておる、早く奴らを始末してくれ!」




眉間に刻み込まれたシワや怯え切った目は、固まってその表情以外、動かせなかなってしまったかと思う程長くそれを留めている。王座にしがみつくようにして座り、追い込まれた小動物のように唾を飛ばして叫ぶ声は、ひどく震えていた。


ヴィナル国国王は噂に違わず臆病で気の弱い王だった。性格からして王に不向きであることは明白だったが、長年世継ぎに恵まれなかった前王の念願の男子だった。それ以外の子は皆女。

いわば、なるべくして王になった男なのだ。



北部にある王族の避暑地として使われていた城で大切に大切に育てられ、皆が、良き王として国を導いてくれると期待の眼差しを向けていた。が、そんな期待と反比例するように、自分の身を守る為ならばどんな鬼畜の所業でも成し遂げる、極悪非道な王と成り果ててしまった。

自分の命を狙っていると聞けば、例え根も歯もない噂であっても、躊躇なく大臣や、多くの民を手にかけた。




大臣「(まったく、煩いネズミだ)彼奴らは、ドブネズミのようにこの国を這いずり回り、虎視眈々と陛下の御命を狙っているものと思われます」



大臣「(政に見向きもしない分、利用しやすいのだが、この甲高い声だけはどうにも我慢ならん)早急に奴らを捕縛し、民を安心させ、広く国王陛下とこの国の威厳を知らしめましょう」




国王「何を抜かしておる! 見つけ出して 殺せ! 今に 今に私を殺しに来るぞ!」




大臣「(いい加減にうんざりするな、黙って王座に座るほどの知能もないのか)おお、国王陛下! どうか落ち着いてください。お望み通り、奴らに関わった者たちは残らず、この国でできる最高の刑に処しましょう。この世界で、この国だけに存在する、最高の刑に! 」


  












大臣「そう・・・・・・”不老不死”の刑に」










帰りの道すがら、大臣は人影が向こうから近づいてくるのに気づいた。真っ先に、相手が自分より高位か、下位かを見極める。

服装、歩き方・・・彼はそれに腰を折り、頭を深々と下げる。相手がこの国の第一王子であると解かったのはもう少し後だ。



大臣「これはこれは、ルウェイ第一王子」




ルウェイ「おお、大臣ではないか。はっはっはっ。謎の組織の調査は順調か?」



大臣「はい、概ねは」



ルウェイ「はっはっはっはっ。そうかそうか、頑張ってくれたまえよ。この国の未来のためにもな。はーっはっはっはっ!」



勘の良くない人でもわかるだろうが、この第一王子、ただのバカである。



ルウェイ「わたしは、この国を、みんなが笑顔になれる、良い国にしたい。その為にも、大臣、私にできることがあればなんでも協力するよ」



大臣「はい、わたくしも、王子の創る未来を楽しみにしております」



ルウェイ第一王子は、また、はーはっはっはっという笑い声を響かせながら大股で歩き去っていった。

それを見送る大臣の目は、期待でも、軽蔑でもない、言わば商人のそれに似た光が宿っていた。




大臣(現国王派にいる限り、私は数十年安泰だろう。しかし、万が一にもあのうるさいネズミが、王位を退くようなことがあれば、第一王子派に乗り移ることも考えなければ。しかし、現国王と違い、政治にいささか関心があるのが心配だ。気づかれずに私腹を肥やすのが難しくなる可能性もある。それに第一王子派はブランカと繋がり、なにやら私たち現国王派の大臣を嗅ぎまわっている。金の横領のかそれとも違法な武器の取引のことか?・・・・・・もしや、”決戦”についての情報が漏れたのか? なんにせよ、ブランカも第一王子派も、早く始末してしまわなければ・・・・・・)









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???「逃げた奴はどうなった?」





追手A「はっ、申し訳ございません、ヴィナル国西部の山中で見失いました」





???「そうか。向こうもこれで本格的に動き出してくるだろうな」  






???「クックック・・・・・・・早く来いよ、













“モーガン“














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森が開けたかと思うと、目の前には、レンガ造りの立派な建物と広大な敷地が広がっていた。





モーガン「はぁ、はぁ、やっと出られた」








モーガン「久しぶりだな。そんなに長くは経ってないけど」




魔法大学


国中の才能溢れる若者が集う、ヴィナル国随一の魔法学校。全寮制で約六年間魔法について研究、錬磨を行う。主な卒業後の就職先は、大学職員、他の魔法学校、貴族のお抱え、そして、大臣や官僚である。

かつては"決戦"用の魔法使いを育成していたこともあり、その教育レベルはかなり高いと言える。






モーガン(誰かに見つからないようにしながら馬を借りられる厩舎まで行こう。そんで、王都まで飛ばして何とか間に合うかも)





モーガン(早くこの情報を伝えないと・・・・・・皆んなが危ない)






タッタッタッタッタ



勝手知ったるかつての学び舎を目的の厩舎まで走る。頭の中は急げ、急げと焦りが募っていく。




モーガン(忘れそうだけど今は任務中。だから、極力知り合いに見つからないようにしないと)





タッタッタッタ




モーガン(あそこだ。あの角を曲がれば・・・!)






ドンっ!!!






モーガン「うわっ!」



??「キャァ!」




ぶつかって尻餅をつく



??「イテテテテ」



モーガン「ごめんなさい。大丈夫・・・って、姉さん?!」




ネリー「モーガン!?」





次回へ続く

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