52.ここで良いのか!?

「優太〜! こっちこっち〜!」


川の向こうの橋の上で有里ねぇが手を振っている。


「相変わらず足早いな……」


さっきまでいた凛津はというと、俺を有里ねぇの元に行くように言った後、すぐに少し用事があるからとその場を後にしていた。


「さぁ、行こうか! 今度は私とのデートに!」


「……なんか、そういう言い方されると、世間的に俺の立場がだいぶ怪しい気もするんだけど」


「まぁ、実際そうでしょ? だって、こんなに美人で、頼り甲斐があって、胸も大きい私のプロポーズを途中ですっぽかして別の女の子を追いかけに行ったんだからね?」


「……まぁ、確かに」


頼り甲斐があるとか、胸が大きいとか、美人とかは関係ないから置いておいたとしても……有里ねぇの告白を途中ですっぽかして凛津を追いかけ他のは事実だし……。


「有里ねぇ、あのさ……」


「優太! はやく〜! こっちこっち〜!」


「……って! もうあんな所まで行ってるのかよ!」


俺が有里ねぇから少し目を背けていた数秒の間に、いつのまにか更に、有里ねぇは俺よりもだいぶ先を歩いていた。


「はぁっ……。まぁ、これがいつも通りの有里ねぇだしな……」


「なーに一人でブツブツ言ってるの〜! 早く行くよー! 付いてきてよ?」


「えっ? 一緒に行くんじゃないの!?」


「競争に決まってるでしょ〜〜! よーいドン!」


「おっ、おい! これデートなんだよな!? って、もう聞いてないし……」


有里ねぇは既に走り出していて止まる気配はない。


「はぁ……ついて行くしかないか」


それから、俺も有里ねぇの後を追うように走り出した。



「はぁっ、はぁっ」


「ふぅー。少し疲れたな〜」


「少し!? あの距離を走って!?」


「優太は、もうちょっと走った方がいいよ〜! 楽しいよ?」


「有里ねぇの感覚と俺の感覚は違う気がするんだけど……。ところで、有里ねぇが来たかった場所ってここで良かったの?」


「うん……」


そこは俺の母さんの墓の前だった。


自分の母親の墓なので、当然この島に来てからは何回か足を運んでいたけれど、まさか有里ねぇかここに来るとは思いもしなかった。


有里ねぇは墓の前に立って、手を合わせる。


俺も有里ねぇの横に立って、手を合わせた。


「優太……」


隣にいる有里ねぇが静かに俺に呼びかけた。


「うん」


「お母さんってどんな人だった?」


「そうだな……。困ってる人がいたら助けずにはいられない……そんな優しい人だったな」


「……そうなんだ」


「うん。でもさ……そのくせ、いざ自分が困ってる時には自分一人で解決しようとするんだよ? まったく困った人だよね……。まるで、どっかの誰かさんみたいだったよ」


「……」


「……有里ねぇみたいな人だったんだ」


「……そう、なんだ」


それからしばらく俺は有里ねぇと一緒に手を合わせたままでいた。

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