53.溢れた気持ち!?
「よしっ、母さんにも会えたし、そろそろ行くか!」
「うん……行こっか」
「どうした? なんか有里ねぇ元気ないけど」
なぜか、有里ねぇの顔が少し曇っていた。
「あのさ……私、無神経だったかな。突然、優太のお母さんのところに来て……」
そうして、有里ねぇそう切り出した。
「……ん?」
「だって……突然、ここに来ても。お母さんは私のこと知らないわけだし……その、余計なことしちゃったよねって……」
有里ねぇは俯いた。
どうやら、有里ねぇは突然俺を連れてきた場所が、母さんの墓だったということを気にしているようだった……けれど、
「何言ってるんだよ? 俺も、母さんも有里ねぇがここに来てくれて余計なことだったなんて全く思ってない。 むしろ、会いに来てくれてありがとう。多分、母さんはそう思ってると思う」
俺はそんな事を母さんが気にするはずもないと分かっているので有里ねぇにそう言った。
「……そう、かな」
「うん。だからさ……また来てよ。気が向いたらさ」
「……うん。分かった」
俺と有里ねぇはそう言葉を交わしてから母さんの元を後にした。
☆
「それで次に行くのは?」
「えーっとね、ここ!」
「ここって……ただの公園?」
「そう! ただの公園! でも、私にとっては特別な場所……」
有里ねぇは母さんの前の時とは打って変わって、もういつも通りの様子に戻っていた。
その様子の有里ねぇが今度連れてきたのがこの公園というわけだが……
「なんかここ、普通の公園なのにさ、なんか印象に残ってるような……」
「えっ? 優太、もしかして覚えてるの?」
「なんか……凄い断片的なんだけど昔、俺と凛津が話してる時に有里ねぇが来て……」
「その時、優太が私に『有里ねぇって好きな人いるの?』って聞いた事?」
「有里ねぇ、それ覚えてたの!?」
それは今から数年も前のこと。
いつも通りの日常の中のほんの一部に過ぎないやり取りで、でもあの日の出来事はその部分だけ俺の心の中に残っていた。
でも、あくまでその思い出は俺だけが覚えているものばかりだと思っていたのだけれど……
「私はね……あの時から優太の事が……好きだったよ」
有里ねぇはすぐ近くにある滑り台を眺めながら静かにそう言った。
それから、しばらく無言の時間が続いた。
心なしか、さっきまで晴れていた空がだんだんと曇り始めた気がする。
「……でも、あの時有里ねぇは……」
俺はしばらくしてから、そう声を上げた。
「そう……。『いないかな〜? 今は』って言ったんだよね」
「……」
「でも、私は本当はね……そう言うつもりじゃなかったの。本当は……『優太だよ』って言いたかった。でも……言えなかった」
「……」
「優太……。私、凛津の事も、優太の事も大好きだよ」
「……っ!」
俺は振り向いた有里ねぇの顔を見て息を呑んだ。
有里ねぇの頬には涙が伝っていたから。
「あの時はっ……凛津と優太との3人の関係壊れるのが怖くてっ……」
「……」
「私っ……優太に何にもっ……伝えられなかったっ……」
「……」
「だからっ……あの夜、勇気出したんだよっ……なのにっ……なのにっ……優太は居なくなっちゃってっ……」
「……」
「私っ……そのあと、優太が凛津の事好きだって知ってっ……」
「……」
「やっぱり私じゃダメなんだってっ……」
「……有里ねぇ」
「私は優太が好きっ……。この気持ちは誰にも負けないっ……」
まるで自分に確かめるように、大きな声でそう言った。
気付けば空は暗くなっていて、大粒の雨が降り注いでいた。
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