43.俺のせい!?

「ここで合ってる?」


「うん。 ここだよ!」


俺達が辿り着いたのは普通の教室。


部屋の外には3-4と書かれた教室札が設置されている。


「ここって、有里ねぇの使ってる教室?」


「うん。そうだよ」


そう言って有里ねぇは教室の中に入っていき、ある一つの机の前で立ち止まった。


それからその机の上を手でなぞる様に触ってから


「……私がアメリカに行く理由……そういえば、まだ言ってなかったよね」


静かにそう言った。


「……うん。まだ聞いてない……」


俺以外の残る2人も静かに頷いた。


「私がね……アメリカに行こうと思ったのはね、元はといえば優太のせいなんだよ?」


「え? 俺の……?」


「うん。昔、私が裕太に溺れてる所を助けてもらったことがあるでしょ?」


「あぁ。 そんな事もあったな……」


あの時は、天候も悪かったのに釣りをしに行くって有里ねぇが言うから、ついて行ったけど……。


「有里ねぇが海の中に落ちた時、本当にどうしようって思ってたんだから……」


俺は昔のことをしみじみと思い出しながら、やれやれと有里ねぇの方を見た。


俺は、申し訳無さそうに『あの時はありがとう』なんて有里ねぇは言うものだと思っていたのだが


「あの時の優太すんごい、カッコよかったんだから〜! 『お礼なんていらないんだ。だって、俺の意思でやった事なんだから……』って言って……」


「やめろっ! あの時の俺は少しおかしかったんだよ!」


有里ねぇは両手で顔を覆いながらキャピキャピ言っていた。


俺はその話題から少しでも話を逸らそうと


「それで……その話は関係ないだろ? 早く本題に入ろう」


と、切り出したのだが


「ん? 関係大ありだよ?」


有里ねぇはこちらを見てそう言った。


「え?」


「あの時ね……。私が溺れた時、すごい怖かった。今まで感じた事ないくらい怖くて……」


「……」


「でも……あの時、優太が私を助けてくれた」


そう言って、有里ねぇは俯いた。


「……確かに俺は有里ねぇを助けた。けど、あの状況なら俺じゃなくても……」


「うん。 そうかもしれない」


意外にもあっさりと有里ねぇはそう返した。


しかし、


「だけど……」


そう言ってから机の上に向けていた視線を俺の方に向けて


「実際に助けてくれたのは優太だった……」


静かにそう言った。


「だからさ……もしあの時、優太に助けて貰わなくても私はこの道を選んでたと思う」


「……」


教室の中にしばしの静寂が訪れた。


それから少しして


「私、医者になるの」


そう言ってから


「医者になって……昔、優太が私を助けてくれたように多くの人を救いたい……」


「方法は違うかもしれないけど、それでも私はそうしたいって思ったの……」


有里ねぇは途切れ途切れに、そう言った。


「医者だったら別に日本でも……」


「うん。そうかもしれない……でも、私は」


それから有里ねぇは顔を上げて俺の方を見た。


「もっと広い世界を見たいって思った。優太がこの島にやってきた時、私はこの島の中の事しか知らなかった……。この島の中のことが全てなんだって思ってたんだ。けど……優太に会ってから、テルに会ってから、この世界は私が思ってる以上にずっと広いんだって分かった」


そう話してから再びこちらに向き直り


「だから、私はアメリカに行くの……」


強い意志の宿った目で俺をまっすぐと見てそう言った。


この目をしている時の有里ねぇは、誰が止めても止まらない。


全てを分かった上で


「……分かった」


有里ねぇの方を見てそう答えた。





「あのさ……ちなみにさっきのことなんだけど」


「ん? まだ何かあった?」


「あぁ……。アメリカに行く事になったのは俺のせいなんだよね?」


「うん」


「でも、別に助けたのが俺じゃなくても、いずれはそうなってたんだよね?」


「多分……」


「……じゃあ、やっぱり俺のせいじゃないんじゃ?」


「ん? 違うよ。だって実際に助けてくれたのは優太なんだから」


「いや! そうなんだけどさ!」


それから数分間、有里ねぇとそれについて話し合ったのだが……


「……」


結局、この口論は不毛だと気づいた。


「……じゃあ、この教室にやってきた理由だけでも教えてよ」


「えーっとね……それは……、これを取りに来たの!」


有里ねぇは待ってましたとばかりに、自分の机から一つの日記の様なものを取り出した。

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