25.たこ焼きだと!?

「疲れた〜! そろそろメシ食べに行かないか?」


時計を見ると13時前、昼メシのピークは少しばかり過ぎているので、今頃が丁度いいだろう。


まぁ、遊ぶのに夢中になって少し遅めになってしまったというのは否定しないけど。


「いいね〜! 私焼きそばがいい!」


「えっと、私は何にしようかな?」


昼時でも混み合っているお祭りの中、俺達が屋台の方へと足を向けながら何を食べるのか話していると


「おっ! 有里香!」


「おー? 有里香達も昼飯か?」


「……私も、お腹ぺこぺこ」


「はっ! ハーレ……」


「だから! ハーレムじゃ無いって!」


田崎さん……あんたメインヒロイン以上に目立ってきちゃってるけど大丈夫かよ……。


俺は、もしこれが小説の世界だったなら……なんて事を考えながらそう思った。




「うーん! 美味しい!」


「だなっ! やっぱり祭りといえばタコ焼きだろ!」


思っていたよりも空いていた屋台の近くのベンチで、葉山さんと藤崎さんは2人でたこ焼きを食べていた。


そして、俺たちも隣のベンチに腰掛けたのだが……


「優太! アーンしてよっ!」


「そうよ! 早く口を開けなさい!」


「わっ、私もアーンしないといけないんだ! でもこれもハーレムに入る為……」


「……面白そう。私もやってみたい」



凛津、有里香、田崎さんに加え山下さんさんまでもが、この有様だ。


山下さんって初めて会った時1番おとなしそうだったし1番まともなんだと思ったけど……やっぱり変な人だ。


「わかったよ……じゃあ早く食べさせてくれ」


俺は半ば諦めながらそう言った。


すると、まずは有里香が


「ふーふー」


たこ焼きを冷ましてから


「あーん」


と俺の口の方へとたこ焼きを近づけてくる……が、口に入る直前で


「んー……でもこの前これはやったしな。そうだ!」


なんて言いながら俺に箸を持たせて


「次は私に食べさせて!」


「えっ? 俺が?」


「そう! 早く!」


「わっ、分かったよ」


一応念のため、周りで人が見ていたら恥ずかしいのでキョロキョロと辺りを見渡す。


よし……誰も見てない。


「じゃあ行くよ?」


俺がそう言うと凛津ねぇが口を開く。


俺はプルプルと震える手で恐る恐るたこ焼きを有里香の口の中へと運んでいく。


その間、有里香は静かに口を開けて待っていて……


もしかしてキスを待つ時もこんな感じなんだろうか?


なんて我ながら、アホらしい事を考えてしまう。


俺がそんな事を考えながら、たこ焼きを口の中まで運ぶと……


パクっ


一瞬にしてたこ焼きが有里香の口の中へと消えた。


それから少しの間もぐもぐしてから


「……美味しい。これがお兄ちゃんパワー……」


この世の真理を知ったみたいな顔をしていたが、


「いや関係ないよ!」


屋台で作ってくれたおじさんに感謝してくれ!


俺のそんな魂の叫びは虚しく、


「……やっぱり美味しくなるのね。次は私よ!」


有里香の言葉を鵜呑みにした凛津が今度は私も!と口を開けた。


「はぁ……。じゃあいくぞ?」


「うん」


俺はもう一度、たこ焼きを掴んで今度は凛津の方へと持っていく。


そして、たこ焼きを口の上まで持っていくと


「ふうーっ! ふぅーっ!」


何やら凛津は、自分でもたこ焼きを冷まそうとしているらしかった。


「あの……もし熱いの嫌なら、もっと後でも……」


「だめっ!」


凛津は俺の方に向き直ってから


「いい? さっきは有里ねぇに先を越されちゃったけど、流石にこれ以上は……」


とかなんとか力説していたけれど、正直俺にはそのこだわりはよくわからない。


だって結局、全員に食べさせてあげなきゃいけないのだから。


「じゃあ、いいんだな? 行くぞ」


「うっ、うん」


凛津は再び口を開ける。


それから……


パクっ


一口でたこ焼きを食べてから……


「ふぁっ、ふぁついけど……ふぉいしぃっ!」


とても熱そうにしていたけれど、ハフハフ言いながら美味しそうに食べていた。


まぁ、食べさせてあげるだけでこんなに喜ばれるのだから俺も悪い気はしない……しないけど!


「私も……早く」


「ハーレムに入るためには私はどんなことでも!」


「……」


本気なのか天然なのか分からない先輩と、ハーレムしか脳のないハーレム野郎にたこ焼きを食べさせてあげるというのは少し……いや、かなり抵抗があった。





昼食を終えて再び時計を見ると時刻は15時前。


そうこうしているうちに、かなり時間は潰れたようだった。


「そういや花火って何時からなんだ?」


「7時からだよ?」


 凛津がそう答えると


「早く花火見たいな〜!」


「私もそんなに見たことないし早く見たいよ〜!」


有里香と葉山さんが続けてそう口にする。


どうやら2人とも有里香に招待されたから来たという理由だけではなく、本当に花火が楽しみで来たってのもあるんだな……そんな事を思った。


「そういや、り、じゃなくて有里香の学校って葉山さん達と一緒なんだよね?」


「そうだよ〜〜!」


すると、なぜか後ろから脳天気な声が聞こえてた。


振り向いてみると、


「田﨑さん……ハーレムって言葉以外話せたんですね」


「失礼だな! わたしこう見えてJKだよ?」


今までの言動全てを振り返ってもJKらしさはかけらも無い……自称JKのハーレム野郎がそこにいた。


「そっ、そうですね……JKでしたね。それで、田﨑さん。学校での有里香ってどんな感じなんですか?」


俺は少し、学校での有里香の話を聞きたいと思ってそう切り出した。


「学校での有里香か……うーん? めっちゃ真面目?」


「えっ? 真面目? これが?」


俺は凛津の方に指を指そうとしたが慌てて有里香の方を指差してそう言った。


体が入れ替わってるからそう思ったのか?


いや、だけど普段から有里ねぇはこんな感じだったし……。


俺の頭の上には特大のクエスチョンマークが浮かんでいるだろう、この状況でさらに驚くことに、


「そうそう!」


「私もびっくりしたんだぜ?」


「……有里香、いつもより活き活きしてた」


田﨑さん以外の残る3人もそう言った。


チラッと凛津ねぇの方を見ると……


「そっ、そうかな〜〜?」


なんて言いながら顔を真っ赤にしている。


もしかして……二重人格……なのか?


俺の頭の中で、『有里ねぇの謎を解き明かそうの会』が開催されかかっていた所で、


「それにさ〜〜」


続けて葉山さんが


「有里香に気になる人がいたなんてね〜〜?」


そう言いながら有里の方を見る。


そう言っている葉山さんはとてもニヤニヤしていた。


初めてあった時、葉山さんは有里ねぇに似ていると言ったが、前言撤回だ。


葉山さんは多分、あえてそういう風に演じている。


今の、全てを分かっていて人をからかうなんて芸当は有里ねぇには出来ない。


あんた……本当は結構いい性格してるだろ


「はぁ……バレたか。実はこれは彼氏のふりをしててだな……」


俺がそう言いかけた所で、なぜか凛津ねぇは突然慌てた様子で


「わっ、わっ、私! トイレっ!」


そう言ってその場から走り去って行ってしまった。


一体どうしたんだ? 



有里ねぇにしては珍しい反応だったけど……。


俺は走ってどこかへ行く有里ねぇの後ろ姿をぼんやり眺めながらそう思った。

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