夏祭り編

23.夏祭りの始まり!?

「たこ焼きはいかがですか〜!」


「そこの兄ちゃん! 射的やっていかないかい?」


「金魚すくいやってま〜す!」


俺は今、この島での最大のイベントと言っても過言ではないという夏祭りに来ていた。


普段はあまり人気のない島なのだが、今日は大盛況だ。


おそらく島の外からやってきたのだあろう俺達と同世代位の客もかなりいた。


でも……俺の事を見ると、女子は


「えっ……なにあれ?」


男子は


「……」


無言で俺を睨みつけてくる。


理由は……明白だった。


「どうしたの? 優太?」


「えっ? 優太がどうかしたの?」


俺の両腕に抱きついている2人の美少女。


1人目は、少し幼さの残る可愛らしいアイドルのような風貌、そしてもう1人はドラマにでも出ていそうな清純派女優のような風貌。


2人は俺の幼馴染なのだが、今は色々事情があって……2人の体が入れ替わっているらしかった。


まぁ、説明はこの辺にして


「『どうしたの?』じゃない!!」


「え?」


「急にどしたの?」


俺がそう言うと、2人はキョトンと首を傾げながらそう言う。


くっ! こんな仕草ですら可愛い……じゃなくてっ!


「2人とも俺にベッタリくっ付いてるせいで俺はさっきから周りから白い目で見られてんだよ!!」


俺は2人に向かって大声でそう言った……のだが、


「なんで? 別に今は彼女からなんだから」


「そっ、そうよっ! 今は彼女なんだから!」


「いやっ! まだ3人だけの時は良いけどこんなの公衆の面前でやってたら俺はただの二股男じゃないかっ!」


「……」


「……じゃあ、早く行こうか」


「おいっ! 俺の意見を無視するな!」


俺の意見は虚しくも聞き入られることはなく、俺は両手に花状態でお祭りを過ごすことになった。


俺が2人とお祭りの出店をまわっていると、


「あっ! 凛津ちゃんと有里香!!」


「えっ? どこどこ?」


「なんか……2人とも誰かに抱きついてない?」


「うそっ!?」


有里香と同い年位の女の子四人組がそう言いながらこちらに近寄ってきた。


「あれ……もしかして昨日言ってた有里香の友達?」


てことは……今、凛津は有里香と入れ替わってるから……色々まずいんじゃないか?


「おっ、おい! 凛津、大丈夫なのか?」


俺は小声で有里に耳打ちする。


「まかせて! 私、今は有里ねぇになるから!」


有里はそう答えたが……正直不安しかない。


こいつ天然なところあるしな……。


俺がそんな懸念をしていると、あっという間にその4人がすぐ近くまで来た。


それから


「えっ!? マジか!?」 


「ね! 言ったでしょ!」


「……えっと、私達お邪魔だった……かな?」


「おー! ハーレムだーっ!」


4人が口々に俺たちを見てからそう言った。


あれ? 俺さっきまで凛津の心配してたけど……よく考えれば、一番やばいのって……


「俺だ……」


俺はすぐさま2人の腕を振り解いて


「あぁーっ! 俺こんなところで何してるんだ!? おかしいな〜っ? すぐ家に帰らないとっ!」


そう言って俺が2人に背を向けて走り出そうとした瞬間


「優太?」


「どこ行くの?」


ガシッと有里香と凛津の手が俺の腕をつかんだ。


「えっ?……えっと、ちょっと用事を思い出してなっ!」


「今日は何にも予定無いって言ってたよね?」


「優太、ウソはだめだよ?」


「……はい」


俺はすぐに2人に取り押さえられた。







「へぇーっ! 幼馴染か〜」


金髪の快活そうな女の子がそう言うと


「そう! 優太っていうの!」


と有里。


「いいな〜」


「ふふーん! 羨ましいでしょ?」


と凛津ねぇ。


「やっぱり……ハーレムじゃん!」


「陽香ちゃん! さっきから気になってたんだけどハーレムってなに!?」


「えっと、ハーレムっていうのはね〜」


さっき出会ったばかりの女子四人組+2人に捕まっていた。


俺はそのなかの有里に小声で


「おい! お前知り合いだったのかよ!」


と言うと、


「そうだよ? 確か言ったと思うけど……」


「そうだった……か?」


「うん」


「それじゃあ向こうもお前のことを知ってるし、すぐにばれるんじゃ?」


「さっき任せてって言ったでしよ!」


「……あぁ。頼むぞ」


俺がそう言うと同時に


「優太だーいすきっ!」


「えっ?」


唐突に有里が俺に抱きついてきてから


「私、好きな人の前だとバカになっちゃうんだよね!」


なんてとんでもない事を言い始めた。


もしかして……これが秘策?


突然の有里香の奇行にみんなも目を剥いている。


チラッと凛津ねぇの方も見ると……


「凛津め! ずるいぞ! 隙を見て抱きつくなんて!」


「……」


何が『バカになっちゃうんだよね!」だよ!!


そんなんで誤魔化せる訳……


「へぇーっ。有里香って好きな人の前だとそうな感じなんだ〜!」


「なんか意外だな〜!」


「有里香がこんなひみつを持ってたなんて……」


「優太君、おそるべし……」


ちゃんと騙せてる……すごい。


というよりかは……初対面の相手に言うことじゃないけど……この人達がアホ……なだけでは?


なんて思ったりもしたが、上手く騙せているので問題はないだろう。


と俺が思っていると、


「私達、優太君の事まだ知らないし自己紹介しない?」


4人のうちの1人の女の子がそう切り出した。


「賛成〜!」


「……私も賛成」


「はっ、私達もハーレムに仲間入り!?」


なんかおかしな事を言っている奴が1人だけいたけれど……まぁ俺としても自己紹介はしておきたい。


2人の共通の知り合いらしいし。


「えっと……じゃあ俺から。名前は、月島優太。 今は高校2年です。よろしくお願いします」


俺は4人に向けて簡潔に自己紹介を済ませる。


続いて4人も


「はーいっ! じゃあ次は私! 名前は葉山菜緒! 有里香と一緒で高3、バトミントン部ですっ! 凛津ちゃんはウチの後輩!」


「次は……私? えっと名前は山下渚。有里香とは一緒のクラス。凛津はうちの隣に住んでるから知り合い。よろしく」


「じゃあ次は私か! 名前は藤崎絵里。有里香とはおんなじ中学でそっからの繋がりだ!凛津とは有里香から紹介してもらって仲良くなった! よろしく!」


「わっ、私も優太ハーレムに入れられちゃうんだっ! 田崎陽香、生まれて19年……ついに女の喜びを!」


「……」


一応、もう一度紹介しておくと、葉山さんは有里ねぇと同じタイプの人でとても快活そうな人だ。


山下さんは4人の中では一番おとなしそうで、藤崎さんは面倒見の良いお姉さんのような人。


そして……


「こっ、こっち見た!? わっ、私もハーレムに……」


さっきからずっとハーレムハーレム言ってるこの人が田崎さん。


見た目は儚げな美少女という感じで、何も喋らなければ完璧なのに……色々残念だった。



「そういや俺……男子も連れてきてるって聞いたんだけどさ……どこ?」


そう。昨日、俺は祭りに男子も連れて来るという条件でここに来たのだ。


俺1人だけ男とか辛すぎるし……。


俺がそういうと、


「うん。 連れてきたよ! ここにいるでしょ?」


そう言った山下さんの背中に……赤ちゃんがいた。


「えっ?……赤ちゃん? まさか山下さん……」


「違うよっ! 私の弟! 大智っていうの!」


「……」


まさか……連れてきた男の子って……


「その子ですか?」


「うん? そうだよ」


「……」


それじゃあ結局、俺は男1人でこの場を乗り切らなきゃいけないってのか!


クソっ! もう考えても仕方ない!


俺が腹を決めると同時に


「さて、自己紹介も終わったし私達もお祭り行こうか!」


凛津ねぇがそう言った。


「そうだな。 行くか!」


「……優太、私たちの友達にデレデレしない!」


「してねぇよ!」


「……あやしい」


そんなこんなでようやく俺たちの夏祭りが始まった。

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