22.お祭りの朝!?

「おーい! 早く行こうよ!」


凛津が玄関から呼びかけて来る。


今日は急遽、行くことに決まった夏祭りの日だ。


天気は快晴。


ジリジリとした暑さが肌を刺す。


「分かった分かった! ちょっと待ってろ!」


俺は急いで玄関に向かいながらそう言う。


「よし……これで準備もできたし、あとは有里香だけだな……」


俺は玄関で凛津と2人になる。


そう、まだ有里香だけが来ていない。


ちなみに、ここで言う有里香は有里香の姿をした凛津であって、その……昨日……告白?された方で……って!

紛らわしいな! 


これからは凛津の姿をした有里香を凛津ねぇ、有里香の姿をした凛津を有里とでも呼ぼう。


「うん。そうしよう」

「な〜に1人で頷いてるの? 優太?」

「んっ、あぁ! こっちの話だよ!」


俺は通称、凛津ねぇにそう言う。


「ところでさ……昨日は……仲直りできたかな?」

「えっ……あぁ! 凛津のお陰で仲直りできたよ! ありがとう」


そう。実は、昨日、凛津ねぇを家まで送り届けた時……


「あのさ……優太」


「……ん? どうした凛津?」


「り、有里香と喧嘩した?」


「喧嘩……? してないと思うけど……」


「そう……ならいいの。でも、有里香は多分なにか引っ掛かってると思うの。 優太に色々迷惑かけてるんじゃないかな? なんて思ってる気がして……」


「そう……か」


「うん。だからさ……家に帰ったらちゃんと有里香と向き合ってあげて」


「分かった……。 でも、なんか不思議だな……」


「うん? 何が?」


「いや……まるで凛津が有里ねぇちゃんみたいだな〜って」


俺は軽い冗談のつもりで言った……のだが、


「いや……そんなんじゃないよ!」


「私はただ……あの子に幸せになってほしいって……そう思っただけ……」


凛津は冗談に乗ってくるでもなく、真面目にそう答えた。


その日の凛津なら


「そりゃあ、もう私の方がお姉さんですから!」


なんて言うと思ってだんだけど……。


結局、その日、有里香と最後に話したのはそれくらいで……家に帰ってから凛津と向き合ったら……色々、そう、色々あって。


『今でも……優兄ちゃんの事……好きだから』


「うぉーっ! ダメだっ! 落ち着け俺!」


俺は頭をガンガン壁に打ち付ける。


「はぁっ、はぁっ」


「えっ!? どうしたの優太!?」


突然の俺の奇行を、凛津ねぇは驚いて見ていたが少しして……


「ふーん? 昨日……何かあったの〜?」


「いやっ? なっ、何にも……ないよ?」


「ふーん。そうなんだ〜」


凛津ねぇは何か疑っている様子だったけれどあまり深くは聞いてこなかった。


「ところでさ、凛津は有里香のことどう思う?」


話題を変える意味ともう一つ確認したい事があって俺はそう切り出したのだが……


「んー? 有里香? お姉ちゃん……って感じかな〜?」


凛津は自分が有里ねぇと入れ替わったと言っていた……。


だから昨日、凛津は俺にそのことを話してくれて、俺も確信を持てた。


けれど有里ねぇは……


「うん? どうしたの?」


やはり自分が凛津と入れ替わっているという事を俺に話すつもりは全くないらしかった。


何か理由があるのだろうか?  


だとしたら、昨日は凛津の話を聞いたし今日は有里ねぇから話を……


そう思ったところで


「あっ! ごめん! お待たせ〜!」


そう言って、有里が姿を現した。


「おっ……おぉ! そっ、そんなに……待ってないぞ?」


いかん! 有里の姿を見るだけで、昨日のことで頭が一杯になって!


俺は昨日のことを一旦忘れようと、一旦気持ちを落ち着かせようとすると……


ギュッ


「えっ?」


「あっ、明日からは……遠慮しないって言ったでしょ?」


有里がそう言いながら俺の腕に抱きついてきた。


「おっ……おいっ! 確かにそう言ってたけど!」


バクバクと心臓の音がどんどん早くなっていって、今にも破裂しそうなくらいだ。


「有里香……きょ、今日だけはさ」


「イヤ……なの?」


有里はそんなことを言いながら、俺の顔を覗き込んでくる。


「今日だけは無理!」


当然俺はそんなことを言えるはずもなく……


「っ!……わっ、わかった!」


我ながら、押しに弱い男だと思った。


でも、仕方ないだろ! 


あんな泣きそうな顔で言われたら!


「じゃ、じゃあ行くか!」


俺がそう言って玄関の扉を開けようとすると、


「私もっ!」


そう言いながら凛津ねぇも俺の腕に抱きついてきた。


何がとは言わないけど、有里の時ほど弾力はない。


けど……


「ふふーん! お兄ちゃんの匂い〜っ!」


密着率が高い……。


「おっ、おい! 凛津まで何してるんだよ!」


「くんくん! 妹なんだからいいでしょ?」


しかもお兄ちゃんとか言ってるけど、あんた中身は俺より年上だろ!


それに


「凛津は俺の妹じゃなくて幼馴染だろ!」


「え〜っ? 有里香はいいのに私はダメなの?」


そう言われると返す言葉がない。


「はぁ、分かった」


俺は降参するしかなかった。


「やったーっ! お兄ちゃんだーいすきっ!」


……可愛い。


はっ! いかん……俺は今何を!


「優太! 今変なこと考えてたでしょ?」


「いっ、いやっ? 変なことなんて考えてるわけないだろう?」


有里がピンポイントで俺の考えていたことを読んできたので若干動揺してしまった。


「そっ、それじゃあ行こうか!」


「行こう行こう!!」


「くーっ! 優太、今話逸らしたわね!」


色々言われながらも、俺は玄関の扉を開く。


扉を開けた途端にセミの声が一気に大きくなる。


今日も今日とてむせ返るような暑さだ。


それでも、これから俺たちの夏祭りが始まる。


そう思うと俺は胸が躍らずにはいられなかった。







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