2.なんで俺の散歩についてくるんだよ!?

「……」


「……」


俺は今りっちゃんこと”美鈴凛津”と2人で外を歩いている。


家を出てから15分……。


俺たちは一度も言葉を交わさぬまま、誰もいない道を歩き続けていた。


「あのさ…」


「なに?……」


さっきから俺が何度か、話しかけようとしても全てこんな感じだ。


俺が一体何を……。


俺は思いつく限りのことを思い浮かべる。


船長の前で、ゲロしたこと……じゃないよな。


海◯王を名乗ったことでもないし……いや、その可能性は捨てきれないか?


もしかしたら凛津も海◯王を目指してて……


そんな馬鹿なことを考えている内に……


まぁ、さっきのアレしかないよな……俺は1つの事に思い当たる。


夕暮れ時の田舎道の中、俺は立ち止まって凛津の方に向き直ってから


「すまなかった。その、お前の胸……急に触って……。でもさ、本当にワザとじゃなかったんだ!! 信じてくれ!!」


痴漢の容疑で逮捕された被告人のように、深々と頭を下げて謝罪した。


すると……


「えっ? ちょ、ちょっと! 頭あげてよ! 私、もうそのこと気にしてないし……それに……」


凛津はそう言いながら手をワナワナさせた。


「それに?」


「別にワザとやったなんて思ってなかったし……。私こそ、急にビンタしたりしてごめん……」


凛津も俺と同じように頭を下げた。


まぁ俺がドMなら大歓喜だったんだけど……すこし残念な気持ちになってしまった。


今からでも間に合うかな……毎日スパルタでやればいける……のか?


はっ! 


おっ、俺は今……何を考えて……


「あっ、あぁ……俺はは大丈夫だ! だから心配するな! ほら凛津も頭あげて」


俺は辛うじて平静を装おい、返事を返す。


「うん……」


そう言いながら凛津もまた顔を上げた。





それから、また2人の間に沈黙が訪れた。


でも、さっきとは違って、刺々しい沈黙ではなく、何となく気恥ずかしいような、もどかしいような、そんな沈黙だった。  


「さっ、さぁ行くか!(夢幻の彼方へ!)」


ごめんなさい……バ◯ライトイヤー!


「そっ、そうね!」


俺たちはそのまま宇宙戦に乗り込み……じゃなくてっ!


再び歩き出そうとした時


「そういや、なんでずっと俺に付いてきてんの?」


俺は凛津に聞こうと思っていたことを、なんとは無しにに問うた。


そう、これは今から30分前……


「私もちょっと用事あるから」


凛津はそう言って俺が家から出て行くのと同時に外に出てきた。


そこまでならまだわかる……。


でも! 


「私もこっち方面に用事あるの!」 


凛津はそう言いながら、ずっと俺の後ろをついて来ているのだ。


ちなみに、このまま凛津が俺についてきても辿り着くのは田中さん家の大根畑だ。


「まぁ……いいや。そういえば凛津はいつからおばあちゃん家にいるんだ?」


「2日前くらいかな」


「へぇ〜。いつまでいるつもりなんだ?」


「2週間くらいかな」


「じゃあ俺と同じくらいだな」


「そうね」


なんで一問一答みたいになるんだよ!


さっき仲直りしたんじゃないのかよ!?


乙女は本当によく分からん……。


はぁ〜〜こういう時に、◯◯えもんがいてくれたら……!


この際、◯に入るのがドラでもホリでも乙女の気持ちが分かるのならどちらでも構わない!


俺は頭の中でそう呼びかけるけれど……勿論、ド◯えもんもホ◯えもんも出てくる筈もなく……


「あのさ、なんか凛津まだ怒ってる?」


俺はそのまま思ったことを口に出した。


「別に怒ってないよ……。久しぶりに優太に会ったから……その……」


凛津はそこまで言うとし顔を俯けてから


しばらくして


「……って! 何恥ずかしいこと言わせてるのよ!」


突然顔を上げてそう言った。


「えぇっ?!」


なんで俺は今、怒られているんだ……俺はただ、ホ◯えもんとド◯えもんに力を求めただけなのに……いや、正確にはホ◯えもんはあまり当てにしていなかったけど……。


ごめん……ホ◯えもん。


俺は心の中でそう謝っておく。


とにかく今の話題は地雷が多そうだ……話を変えよう。


「それにしても凛津……なんかすごい変わったな! さっき会った時なんて誰なのか分からなかったぞ!」


「べっ、別に……。私はそんなに変わってないと思うけど……あんたはどう変わったと思うの?」


そう言いながら凛津は顔をすこし赤くしながらそう言った。


この話題はなかなか好感触そうだ。


「うーん。元々可愛かったけどさらに可愛くなった」


そう言うと凛津の体がピクっと飛び跳ねる。


「本当にアイドルかと思うくらい可愛いと思う」


ピクッ


「それになんか胸も……」


「そっ、それ以上言ったら殺すから!」 


さっきまで黙って聞いていた凛津は真っ赤な顔でそう言いながら突然、俺の腕の皮膚をつねりあげた。


「痛いっ! わかった!! わかったから! 離してくれ!! 冗談だよ!!」 


「本当にわかってるんでしょうね?!」


凛津の全てを射抜くような眼光が俺に突き刺さる。


「分かった! もう二度と変なこと言わない!!」


するとようやく凛津は俺の腕から手を離した。


「ふぅー、助かった」


俺が自分の腕をさすっていると、


「……それで? ……胸がどうとかいうのは冗談として、その……可愛いって。それも冗談だったの?」


凛津は突然しんみりとした様子でそう聞いてきた。


「ん? ……いや、可愛いのは本当だろ? 周りの人とかにもよく言われるんじゃ無いのか?」


事実、凛津はめちゃくちゃ可愛いと思う。


街中を歩いていれば、すぐにどこかの事務所にでもスカウトされそうなレベルだ。


「……他の人に可愛い……とか、言われるのそんなに気にした事ないし……。それに、今聞いてるのは……優太が……どう思うか……っていうこと……だし」


凛津は真っ赤な顔でモジモジしながらも俺を上目遣いに見ながらそう言ってくる。


このシチュエーション……俺告られてるみたいじゃん!


「で……どう思う?」


俺がそんな事を考えていたら追い討ちのように、凛津が顔を近づけて問うてくる。


「かっ……かわいい……と思うぞ」


俺はバクバクとなる心臓のの鼓動を無理やり落ち着かせるように、そう言う。


すろと凛津は一瞬俯いたかと思うと……


「じゃ、じゃあさっ! もし、もし私が優太のこと……好き……って言ったら……さ……どうする?」


凛津は恥じらいながらも精一杯の努力で俺の目をまっすぐと見ながら聞いてくる。


心臓がドクンドクンと高鳴る。 


「……それは……」


俺がそこまで言いかけると……


「やっ、やっぱり答えなくて良いよ!! 急に変な事言ってごめん」


凛津はそう言うと、再び歩き始めた。


さっきのは何だったんだ……。


俺はまだ高鳴ったままの心臓に手を当てて、1人呟いた。


それから数十分、散歩してからの帰り道、俺はもう一つ気になっていた事を聞くことにした。



「あのさ……」


「なっ、なにっ?」


凛津は急に話しかけられたからか、ビクッとしてから俺の話に耳を傾ける。



「有里姉ちゃん一緒じゃないの?」


「……」


「どうした?」


「知らない」


凛津は急に黙ったかと思うと、その一言だけを発して歩くペースを早めた。


「ちょっ、ちょっと! 急にどうしたんだよ?」


「……」


凛津は俺の声も聞かぬまま、そのまま黙って先に歩き続ける。


さっきまでのやりとりが嘘のようだった。


「知らないって有里姉ちゃんだぞ? 仲良かっただろ?」


俺はめげずに何度も話しかけたけれど、結局凛津は黙ったままだった。


そして、そのまま家まで着いてしまい……今は、寝支度を全て終わらせて寝るところだった。


結局あの後、凛津とは一度も話せていない。


夕飯の最中も一度も目を合わせてくれなかったし。


「はぁ〜」


俺は思わずため息をつく。


さっきまではあんなに仲良く出来てたのにな〜。


有里姉ちゃんのことを話題に出した途端にこうなった。

2人の間に何かあったのだろうか?


ベッドの中でそんな事を考えていたら、いつの間にか俺の意識は途絶え……そのまま深い深い眠りの中へと落ちていった。

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