1.最悪の再会!?


高校二年生の夏休み。



俺、月城優太は父親の地元の滝島へ向かっていた。


ここに来るのは小学生以来、実に八年ぶりである。 



「お客さん、もう着きましたよ」


「うぇっ……、うっ」


船の長距離移動に慣れていない俺はこの島に上陸寸前


「うぇっ」


胸に抱いていた不安や希望と共に


「すみません」


ゲロを吐き出した。


「あっ……あぁ。大丈夫だよ……気にしないで……ね」


そう言っている船長の顔はひどく歪んでいる。


ごめんなさい、船長俺は一生あんたを忘れない……その思いを胸に秘めて俺は船から降りて、島へと足を踏み出した。



船内室から出て外に出ると一気に潮の香りが鼻に抜けていく。


心地よい風がとても気持ちいい。


もし、これが漫画の世界だったなら


「海◯王に俺はなる!」


と叫び出したいくらいだ。


幸い、周りには人はほとんどいない。


この滝島は本土からもだいぶ離れており特に観光するようなところもないのでこの船に乗ってきたのは自分達くらいなのだろう。


「やる……か?」


俺は晴れ渡った空を見上げて1人呟く。


「……海◯王に」


俺がそう言いかけた時、先ほどの船長が通りかかった。


そして


「俺はなる!」


「いや! あんたが言うんかい!」


思わず船長にツッコみながらも、俺は先程の借りはこれで返せただろう……なんてアホなことを考えながら、そのまま荷物を抱えて父の実家まで歩いて行った。


道中は畑、田んぼ、畑の繰り返しで典型的な田舎という感じである。


しばらく歩いていくと、古い木造建築の一軒家に、月城という名札を見つけて玄関のチャイムを押す。


ピンポーン


数秒してドアの向こうからガラガラと音がして扉が開き


「待ってたわよ〜!さ〜上がって上がって」


俺のおばあちゃんが出てきた。


その後ろにはおじいちゃんもいて


「よー来たな、荷物は持つから先にリビング行っとき」


と歓迎してくれる。


「うん。ありがとう」


俺はそう言いながら、お言葉に甘えて家に上がると、リビングへと向かう。


家の中も外見と同じように木製で、昔ながらの家という感じだ。


俺が玄関からすこし歩いて、リビングの扉の前まで来ると


「おばあちゃ〜ん、昼ごはんまだ〜?」


と、その中から女の子の声が聞こえた。


俺以外にも誰か来てるのか?


なんて思いながら


「お邪魔してます」


そう言って


リビングの扉を開けようとした……が


ガチャ


「んっ?開かねぇ」


ガチャ、ガチャ、ガチャ


試しに何度もノブを回すが一向に開かない。


「うん? おーい! 誰かいるんですか?」


ガチャ、ガチャ


「大丈夫ですか〜?」


ガチャ、ガチャ


「ん〜、おかしいな? さっき中から声が聞こえたはずなんだけど……」


俺は今度は、思い切り力を込めてノブを引っ張る。


すると……


「うっ! ウゥ〜ッ!」


と、中から声がする。


「うっーっ! っ! やっ、やっぱり誰かいるんですね! 開けてっ……くださいよっ!」


俺はそう言いなら続けてドアを開けようとするが、それでも向こうの引っ張る力は一向に緩む気配がない。


「くっ、こうなったら!」


俺は、がっしりとドアノブを掴んでから、力の限りドアを引っ張る。


「ふんっ!」


が……その途端、向こうの引っ張る力が少し弱まり...…

 

ガタンっ


「うっ!」


俺は扉を引っ張った方向とは逆方向に盛大に尻もちをついてから倒れた。


「いたたたっ……」


俺はそう言いながら立ち上がろうとした。


が……何故か視界が塞がっていて何にも見えない。


「……なんで何にも見えないんだ?」


俺はそう言いながら、自分の周りあるものを手探りにに触っていく。


すると、突然右手にムニュッとした感触が伝わってきた。


「なんだこれ?」


俺は恐る恐る、もう一度触れてみる。


ムニュ


えっ……この柔らかみのある弾力と、少し控えめなこの大きさ……もしかして


「おっ……」


俺がそこまで言いかけたところで


「うっ!」


突然みぞおちに強烈な膝打ちが炸裂した。


「うぅぅっ」


俺はそのあまりの痛みに、疼くまる。


まるで……金属バットとかで思い切り、殴られたようなそんな痛みがジワジワと広がってくる。


「いっ、いた……」


パシンッ


そんな俺への、とどめの一撃とばかりに最後に強烈なビンタが繰り出された。


完全にKOされた俺が朦朧とする意識の中で最後に見たのは、ツインテールの女の子の後ろ姿。


「おいっ! ちょっと」


俺はドM……じゃないぞ! 


どちらかと言うと攻めるのが好きなんだよ……!


俺が、全てを言い終える前に俺の意識はだんだんと薄れていった。



「凛津はね……大人になったらお兄ちゃんと結婚するの!!」


小学生位の女の子が日が沈みかけた公園で、俺に向かってそう言っている。


「あぁ! お前がまだ俺のこと好きなんだったらな?」


俺はそんなふうに返している。


そこに、当時の俺より少し年上くらいの女の子がやってきて


「りっちゃんは本当に優太の事が好きなんだね!」


そう言ってこちらを見る。


俺は無性に恥ずかしくなって、その目から視線を外して誤魔化すように


「有里姉ちゃんは好きな人とかいないの?」


そう聞いた。


「いないかな〜、今は」


すると、その女の子はほんの一瞬、夕焼けのせいかもしれないけれど、顔を赤くしてからそう口にした気がした。


「あっ……あのさ」


俺がそこまで言いかけると


「さぁ、早く行こう! おじさんに叱られちゃうよ!」


有里ねぇはそう言うと、俺と凛津の手を掴んで走り出した。


「さっき優太、何か言おうとしてた?」


有里ねぇは走りながら、俺にそんなことを聞いてきた……けれど


「ううん。なんでもない」


俺は有里ねぇにそう返した。


凛津は、そんな俺と有里姉ちゃんのやりとりをどこか不思議そうに眺めていた。


今思えば、あれが俺の初恋だったのかもしれない。



「ゆ……!、ゆう……!、ゆうm……!」


段々と、おばあちゃんの声が聞こえて


「UMA!(未確認生物)」


「はっ!」


俺は勢いよく起き上がった。


周りを見渡すとそこはリビングで、おじいちゃんとおばあちゃんがそばで見守っていた。


「おばあちゃん……俺は未確認生物UMAじゃなくて、優太だよ? YUTA、ゆうた!」


起きて早々ツッコむなんて、俺はお笑い芸人にでもなるのか……なんて思っていると


「大丈夫? 優太?」


今度は本当に心配そうにおばあちゃんがそう聞いてきた。


「うん」


蹴られた部分はまだ少し痛むが、別段支障はなさそうだ。


「よかった。それじゃあご飯、UMA(未確認生物)のご飯も用意するわね」 


「うん……だから、優太……だよ」


俺はもうおばあちゃんにツッコむのをやめて、そのまま食卓の方まで行き、席についた。


食卓にはおじいちゃん、おばあちゃん、俺、それから……隣を見ると一つ席が余っている。


「誰か来てるの?」


俺がおばあちゃんにそう聞いた直後、


ガララッ


という音と共に、リビングの扉が開き……


俺の隣に、見覚えのない女の子が座った。


「……あっ! もしかしてさっきの……」


「変態」 


俺が全てを言い切る前に、その女の子は、それだけ言ってこちらを一瞥してから食事を始めた。


「なんで俺が変態呼ばわりされなきゃならないんだよ」


俺はそう言い返そうとしたが……さっきの出来事を思い出してしまい……。


何も言えなくなった。


「……」


「……」


結局そんな感じで、静かな食事が始まった。


聞こえてくるのは、おじいちゃんのくちゃくちゃ音のみ。


……なんで口閉じてんのにそんなに鳴るんだよ。


俺がそんなどうでもいい事を考えていると


「りっちゃん、お茶とってくれるかい?」 


突然おばあちゃんが、俺の隣にいた女の子にそう呼びかけた。


ん? 


今、聞き間違いじゃなければ……りっちゃんって。


俺は隣にいる女の子をチラッと見る。


いや、ないない!


あれがりっちゃんだなんて!


……ないよな?


俺の頭の中で『隣の女の子はりっちゃんなのか裁判』が行われようとしていた時


「優太はりっちゃんと会うのは久しぶりじゃったよな?」


おじいちゃんが俺の方を見てそう言った。


「えっ? 俺やっぱりこの子と会ったことあるの?」


「何を言っとるんじゃ? 昔はよく一緒に遊んでたじゃないか?」


おじいちゃんは首をキョトンと傾げながらそう言う。


なお、おじいちゃんがそんなふうに喋っている間も常にクチャクチャ鳴っていた。


「え? いやいや、それはあのりっちゃんでしょ?


「『あの』りっちゃんも何もそこにいるのは昔よく一緒に遊んでたりっちゃんじゃぞ?」


俺はもう一度、右(りっちゃんがいる方向)へと首を傾ける。


確かに、顔は……可愛い。


あの頃の凛津が成長したらこんな風になるのだろう……というイメージそのままだ。


ぱっちりとした目、白く透明な肌、サラサラとした髪の毛はツインテールにしてある。


まるでアニメなんかから飛び出してきたんじゃないか?なんて錯覚するほどだ。


でも……


「こっち見ないでくれる?」


「……」


俺は、やっぱりあのりっちゃんとこの女の子が同一人物だとは到底、信じられない。


昔、俺を優お兄ちゃんと慕っていた頃の面影もない。


俺はこれ以上このことについて考えるのは無駄だと諦めて、黙々と食事を続けた。

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