第12話「だからなんで名前を二度言うの!」
「よう嬢ちゃん、ピンチってやつだろ」
「アニー・ブロンソン……」
救世主の登場に一瞬ほっとした様子を見せるが、すぐに腰に手を当ててそっぽを向く。
「べ、別にピンチじゃないし。このくらいの盗賊、私一人で」
「そうかよ。ま、嬢ちゃんがどうだろうと、こいつらはぶちのめさねーとな」
「ちょっと、一人で全員倒すつもり? いくらあなたが強いからって」
「そのお嬢さんの言う通りだ」
仲間の耳打ちを受けていた、エースと呼ばれた若い男が会話に加わる。
「仲間が向かってきているようだが、ここにはお前ひとり。よほど腕に自信があるようだが、この人数差で勝てる思っているのか。言っておくが、俺たちは並みの盗賊じゃない。武器を置いて投降しろ」
「へぇ、盗賊にしちゃ丁寧な対応だな。俺ァてっきり、問答無用で後ろから斬りかかってくると思ったぜ。ああん」
アニーが後ろを向くと、そこにはまさにアニーに飛び掛かろうと、剣を持ったモヒカン頭の盗賊たち。
「頭使うたァ、確かに並みの盗賊じゃねぇな。毛が生えたくらいの差だけどよ」
「フッ、せいぜい抵抗してみせろ!」
「なぁに、相手は魔王ってんじゃねーんだ。俺一人で十分だ」
「お前ら、その男と御者は殺せ。女には怪我させるなよ!」
「ウヒョー!」
「アヒャヒャヒャ!」
青年が振り上げた手を合図に、既に曲刀を抜いていた盗賊たちが、一斉に躍りかかる。
だが――
「アバッ」
「ブベシッ」
「ンガンンッ」
アニーは、飛び掛かってきた三人の顔面を一瞬のうちに殴りつけ、吹き飛ばした。
続いて襲い来る盗賊たちにも前蹴りや鋭い直拳を打ち込み、振り下ろされる剣はかすりもしない。
大上段の一撃はストッピングで弾き、掌底で顎を打ち上げる。
飛び掛かってきた相手には頭突きを食らわせ、背後から斬りかかってきた相手の頭を掴み上げ、矢を番えた相手に投げつけた。
その猛攻に二の足を踏んだ盗賊ら目掛けてアニーが鉄板のような大剣を振るえば、盗賊の曲刀はすべて根元から断たれてしまう。
「自慢の盗賊団らしいが、こんなもんかよ、ああん!?」
悪党ヅラを獰猛に歪め覇気を放てば、皆一様に後ずさりする。
初めて目にしたアニーの実力に、ロレッタも馬車の上で息を呑んでいた。
「お、お前ら、なに手こずってる! 相手は一人だぞ!」
そう言った次の瞬間、町の方向で爆炎が上がった。
「おう、あっちも派手にやってんな」
「なんだ、なにが起きている!」
すると駆け付けた伝令役が、呼吸も整えずに青い顔を向ける。
「とんでもなく強ぇ盗賊みてぇな男が、町の兵士数人を引き連れて!」
「盗賊は俺たちだろ! いいから足止めしてろ!」
「いや、しかし!」
再び爆音と、野太い叫び声が聞こえてくる。音からして迫ってきているようだ。
「くっ……ただでは帰れん。積み荷はいい、女だけでも」
エースと呼ばれた男が、依然馬車の上に立つロレッタに迫ろうとしたところで、足を止め素早くサーベルを抜き構えた。
ガキンと耳が痛くなるような音が響く。
男は剣を構えた姿のまま吹き飛ばされ、しかし身を翻すと見事に着地して見せた。
「なんてバカ力だ。手が痺れやがる」
目線の先には、分厚い鉄板のような大剣を構えた男。
「俺の一撃を受け止めるとはなかなかだな。てめぇ名前は」
「貴様はアニー・ブロンソンと言ったな。俺の名はエース」
逆手に持ち替えるサーベル。
「キング盗賊団四天王が一人、スペードエースだ!」
サーベルを持った手を腰に、そして空いた手の指先を首元 ── スペードのエースの刺青へと添える。
ババーン! 出た、決めポーズだ!
するとロレッタが、這い上がってきたモヒカン頭の盗賊の一人を蹴り落としながら口をはさむ。
「名前、なんで二度言ったの」
「かっこいいからだ!」
「ケッ、キザったらしい。俺の名はアニー。アニー・ブロンソン!」
「名乗り直さなくていいでしょ! バカなの!?」
するとすぐそばで、三度目の爆音が上がる。
今度は耳をふさぎたくなるような音で、飛礫がパラパラと降ってきた。
「兄貴、待たせたな」
現れたのは、禿頭に少し脂肪の乗ったがっしりとした体で素肌に革ジャン、鋲の打ち込まれた防具を装備し、その手にウォーハンマーを持った盗賊としか思えない悪党ヅラの男。
「盗賊みたいな顔に、その恰好。お前こいつの仲間か!」
「顔のことは余計だが、その通りだ。俺の名はオットー。オットー・ブロンソンだ!」
「だからなんで名前を二度言うの!」
ロレッタが再び声を張り上げる。
オットーの背後には町の警備兵らしい3人もおり、盗賊団の方がまだ頭数は多いが、気勢としては完全に逆転していた。
「私はカデン。警備隊の兵長カデンだ! 不埒な盗賊ども、覚悟しろ」
「何が兵長だ、てめぇ」
「ヒィッ」
エースが凄むと、カデンは後ずさってオットーの背に隠れた。
その様子に部下である警備隊のデシン、レジン、そしてレイカが呆れたような顔をする。
「情けねぇ」
「兵長、もうちょっと張り合ってくださいよ」
「だっさ」
「煩い! アニー、そいつをとっととなんとかしろ!」
「へいへい。おい、スペードエースと言ったか。大人しくとは言わねぇが、縄についてもらうぞ」
「くそッ、こうなれば……」
するとスペードエースが懐に手を入れ、金属製と思われる笛を取り出し、不敵な笑みを浮かべた。
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