第10話「言っただろ、ゴールドクラスは伊達じゃねーってよ」
早朝、町の兵舎前にある広場に男女が集まっていた。
アニー、オットー、町長、そしてこの町の警備兵たち五名だ。
「というわけで、ゴールドクラスのハンターである二人に警備隊へ加わってもらった。期間は未定だが、いろいろ学べることも多いと思う。二人とも、あいさつしてもらえるか?」
町長に言われずいと前に出る男二人。
ひとりは禿頭に筋肉質だが脂肪の乗った体。なぜか素肌に革ジャンを羽織り、棘のついた防具を装備し大剣を背負った、おおよそ真っ当には見えない悪人面。
もうひとりは、同じく禿頭で似たような体つきだが身長は少しだけ低く、素肌に革ジャン、鋲の打ち込まれた防具を装備し、腰にウォーハンマーを吊り下げた、おおよそ真っ当には見えない悪人面。
「アニーだ。町の平和のためなら、どんな奴だってブチのめしてやるぜ。よろしく頼むぜ相棒ども。ガハハハ」
「オットーだ。必殺の魔術で悪党は全員ぶっ飛ばしてやるからよ、兄貴ともどもよろしく頼むぜ。グハハハ」
言ってることはともかく、言いようはまるで山賊団への入団の挨拶である。
「私が兵長のカデンだ。町長はああ仰っているが、私の命令には従ってもらう。この町の平和を守る警備隊として意識を高く持ち、日々訓練を行い、町民の皆様に安心と安全を提供するのが我らの務めだ。風紀を乱すような行動はせず、節度を持って、町の平和のために尽くしてもらう。わかったか!」
顎を突き上げ高説を述べるカデン兵長。だが……
「おめぇ、あの泣き虫レジンか! デシンの後をいつも追っかけてた」
「やめてくださいよ! 俺も成人して結構経つんですから。最近はデシン兄ィの方が泣き虫ですよ。奥さんに叱られて」
「はぁ? 泣いてねーし! レジンこそこの前彼女に振られて泣いてただろう!」
「やめろデシン兄ィ、その攻撃は俺に効く」
「すまん。いや、その、いつも俺の愚痴聞いてくれて助かってる」
「デシン兄ィ……へっ、いいってことよ」
「相変わらず仲良し兄弟だな、うらやましいぜ。ガハハ」
「俺たちも仲のよさ見せつけねーとな、兄貴。グハハ」
「アニーとオットーこそ相変わらずで安心したぜ」
久々に会う旧知の仲だけあって、懐かしさも相まって会話が弾む。町長もその光景が嬉しいのか、ニコニコしていた。
「お前ら、俺をコケにして……」
ひとり顔を赤くするカデン兵長。他にも兵士が三人いるが、兵長の様子をヒヤヒヤしながら見守っている。
「ほれ、他の三人も」
町長の言葉に、気を引き締め直した三人が一人ずつ自己紹介をした。
「タートス、です」
「オス、リグルです! よ、よろしくお願いします!」
「レイカだよ。よろしくね」
おとなしそうな大男がタートス。
赤毛で、まだ成人したてといった雰囲気の青少年リグル。
隊で唯一の女性、青髪ショートカットの女性がレイカ。
既に紹介のあった隊長のカデン、兄弟のデシン、レジンと合わせ6名。
「挨拶は済んだな。既に知っての通り、最近ここモカロの町を含むルーツネル男爵領では盗賊団が暴れまわっており、さらに魔獣の動きも活発化しておる」
アニーとオットーの故郷であるここモカロの町は、ノルディス連邦の最南端、イスラハネス領内ルーツネル男爵領にある、農業主体の田舎町だ。
本来、周辺の魔獣の活動も活発ではないためこの小規模の警備兵でどうにか回っていたが、昨今のきな臭さもあり、アニーとオットーの帰郷は渡りに船であった。
「先般のブラックドッグの群れはアニーとオットーがなんとかしてくれたが、他の魔獣の群れも報告されておる。十分注意してくれ」
「相手は魔王ってんじゃねーんだ。泥船に乗ったつもりでいてくれ」
「兄貴、それを言うなら大船だ。泥船って沈んでどうするんだよ」
「ガハハ、こまけーこたぁいいんだよ!」
「はぁ、相変わらずだのぅ……」
溜息をつくルイーバ町長。鼻で笑うカデン隊長。白い目で見る隊員たち。幸先としては泥船だ。
「どれ、まず軽く修練するんだったか? 皆の実力ってやつを試すにも手っ取り早くていい。俺はそうだな……よっと」
アニーが手近に落ちていた木の枝を拾う。
「俺はこれでいいから、お前ら、順番に実剣でかかってこい」
その言葉に皆が一瞬呆ける。
「まてアニー。いくらお前がゴールドクラスじゃからって」
「町長のオヤジもわかってねーな。ゴールドクラスってのは伊達じゃねーんだ、これくらいの手加減は必要だぜ。それともお前ら、木の枝相手でも怖くて無理ってか、ああん?」
世紀末ヅラをニヤリと歪め、悪役よろしく枝を構える。
「わかった、じゃーオレからだ」
「いいじゃねーか、見込みあるな」
赤毛の少年リグルが剣を抜き正眼に構える。
しかし対峙した瞬間、どういうわけか枝を構えたアニーの姿が何倍もの大きさに見え、意識せぬまま後ずさる。
「安心しろ、殺したりはしねぇからよ。それとも、そのままおうちまで帰るか?」
「う、うるさい! 怪我しても知らねーぞ!」
「へっ、いい気迫じゃねーか。さっさと来やがれ!」
「うぉぉぉぉぉぉッ!」
リグルが地を蹴り、全力で、がむしゃらに駆ける。そして目一杯の力で剣を振り下ろした。
「筋は悪くねーな」
「な、なにっ!」
オットー以外の全員が目を剥く。
どういう手品か、アニーがそこらに落ちていた木の枝で、リグルの真剣を受け止めていたのだ。
「言っただろ、ゴールドクラスは伊達じゃねーってよ」
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