第7話 昼行灯

 廃教会から帰った後、俺たちはおじさんのラボである三咲町国立天文研究所にやってきた。

 悠里の財布は何事もなく見つかって、中身も無事だった。けれどよほど堪えたようで、車に戻ると、またすぐに眠り始めた。

 熱気の立ち篭もる雨の後、水蒸気の渦の中、いつもと変わらない深いベゴニア色の髪を簡単なサイドアップにした端麗な女性――もどるさん――に迎えて貰って、俺たちはラボに入った。

 雨の後にしては奇っ怪に赤い空は、別に夕方だからじゃなかった。

 怪しく傾き始めていた空の下で、もどるさんは俺の顔を見て、やたら嬉しそうに笑った。


「久しぶりね。また、イチくんに似てきた」


 ……。

 これは本当に似てきたのかも知れない。

 けどあのお気楽そうなおじさんに、俺が似てきたなんて……。いや、嫌でないけれど、いや、もしかして、俺、老けて来たのか……?


「さ、イチくんならいっつも通り奥の理科室で寝ながら仕事してるから、行ってあげて」


 理科室、というのはおじさんの所長室……の隣にある、本来なら会議室として使われているべきだろう、二十畳ほどの細長い空間のことで、所長室から直通の扉が繋がっている部屋のことだ。いつもの、なんてもどるさんに言われる通り、おじさんの資料置き場、兼ちらけ放題の作業場と化している。

 所長室と理科室以外は基本、世話焼きで有能な秘書であるもどるさんが、家に帰る暇もないおじさんの為にほぼ住み込みで管理しているおかげもあって、綺麗に整頓されているのだが、どうもおじさんがものをちらかす速度には、流石のもどるさんも歯が立たないようだった。篠沢家の血のつながりは、やはり逆らえない魔力があるのだろう。

 そしてそれほど忙しいなら人を増やせばいいだろう、なんて思うこともあるのだけれど、それは大人の事情で、先送りにされているようだった。

 古い変電所を改装、増築して作られた三咲天文研究所は、棟が二つに分かれている。

 おじさんの寝泊まりしている棟は古くて狭い方で、新築された方が他の研究員たちの使用している棟だ。

 古い棟は完全に所長室と理科室、そして螺旋階段を上がった先にある巨大な望遠鏡にスペースを支配されているせいで、かなり窮屈に感じるのだが、秘密基地のような雰囲気があるからか、来る度に男児のような胸の高鳴りを、いくつになっても感じてしまう。

 忙しそうにサイドアップテールをふわふわと振り回しながら足早に立ち去ったもどるさんは、もうどこぞに行ってしまったようだったから、出遅れた悠里を連れて、ラボを進み始めた。

 悠里はラボに入った途端、子犬のように鼻を鳴らして、深呼吸をした。


「おじさんの匂いする……。安心するなあ」


 ラボの中にはジャコウの香りが満ちていた。恐らく、もどるさんが焚いているのだろう。


「ムスクのオイルでも買って家で焚いたらいいんじゃないか? そしたらいつでも楽しめる」


 ちっ、と舌打ちして、ピンクの瞳がつり上がった。


「違うの、普通のムスクとはなんか違うの。この空間の匂いが好きなの」


 ちょっととげのある言い方をして、悠里は舌をちろと出した。


「……わかんねえ」


 そのままラボの渡り廊下を渡って、古い棟にやってきた。

 相も変わらず、狭っ苦しい場所だ。

 それに昼間だというのに、少し薄暗い。

 奥にある“理科室”からは、ガサガサと、まるで猫がタンスを散らかすような音が聞こえている。


 学校の理科室から、無駄な蛇口や人体模型、それと下らない説教を垂れるような同級生を抜いて、堆く積もった紙の山が、代わりに薄暗く会話している。

 人の影と言えば、俺と、悠里、そうして、四十過ぎの草臥れた優男――そう、彼こそが俺たちの“おじさん”である――のみだった。


「いらっしゃい、悠里にしづるくん。随分――ぴったりの時間に来たね」


 時計の針は、丁度十八時を差していた。

 前回に時計を見たのは、朝の病院だったか……。思えばあれから大体十時間、ほぼノンストップでここまで来たのか……。


「あはは、しづるくん。随分疲れてる顔だね。今日は一日、やっぱり悠里に振り回されてたのかい? その辺に座ってくれ」


 ……紙の散らかったソファの上。

 図星だ。とはいっても、ここまでの行程を根気よく説明できるほどの体力が残っているわけでもない。


「まあ、そんなところかな……。いつも通り」

「む、そんなに振り回してないよ。今日は」


 大真面目に反論する悠里。


「どんな判定してんだよお前は……」

「勝手に厄介に飛び込んで行ったの、しーちゃんの方でしょ」


 ――それもそうだった。

 いや、けれどそれはそもそも悠里が……。

 飛ばした視線が悠里とかち合う。あくまでも『自分のせいじゃありません』と非難の目を向けている。

 いや、仮にそうだったとしても、人助けを“厄介”なんてのは、あまりにも酷い。


「わかったよ……。でもそんな風に言うことないだろ。ああしなかったら、一人女の子が大変なことになってたかも知れないんだぞ」

「でも、それならあたしが元凶みたいに言わないでよ。 あたしだっていっぱい心配したんだからね?」

「……あのなあ」


 平行線を辿ると思われた議論。

 その間に、おじさんの下手くそな笑い声が割り込んだ。


「はは、いつも通りだねぇ君たちは。二人で毛布取り合ってた頃と何も変わらない」

「それは違うよ! だってあたしは寝た後しーちゃんがいっつも毛布脱いじゃうから貰ってただけだもん!」

「……それは違うだろ、いっつも先に寝るのはそっちだったし」

「そ、そんなことないもん。悠里ちゃん記憶力には自信あるもんね」

「今日の悠里の朝飯」

「えっとバタートーストと紅茶」

「残念食べてませんでした」

「あっズルいそんなのナシだよ!」

「記憶力」

「……むぅ」

「はいはい、その辺にしておこうね」


 分厚い手の平が頭の上に乗る。

 親指の付け根は柔らかい。ペンだこも通り過ぎれば柔らかくなると聞くが、この手は一体どれほどの文字を書き連ねてきたのだろう。


「しーちゃん、一旦休戦ね」

「あいよ」

「お、いい子だ。やっぱり二人ともお利口さんだな」


 傾いた太陽で悠里の髪が真っ赤に染まって、それに手の影が落ちる。


「えへへ、すごいでしょ」

「ああ、さすがはぼくの甥っ子たちだ。誇りだよ」


 いつも通りおじさんは大げさに言って、額の汗を拭った。

 赤に染まる理科室と、紙のアーモンドのような香ばしさと、少しのタバコと塩素の匂い。


「あのね、あのね、おじさん聞いて」


 悠里は満面の笑みで白衣に飛びついた。

 おじさんの体が数歩後ずさって、二人の影が太陽に踊った。


「どうしたのさ悠里、今日はご機嫌だね」

「うんっとね、聞いて欲しいことがあるの。でも聞いたら気絶しちゃうかも! 心の準備できた?」

「それは困ったな、僕、最近疲れてるから倒れちゃうかも。倒れたら助けてくれるかい?」

「それはやだ」

「嫌か~~~!!!」


 空中ブランコのように振り回される嬉しそうな二十三歳と、姪を嬉しそうに振り回す五十にも片足を突っ込まんとする中年男。

 なかなかシュールな絵面だが、毎度のことだ、驚くことなかれ。


「……これには似てきてないだろ」


 そんな風に苦笑しながら、目を背けた視線が、何気なく資料に向かった。

 日付の打たれたメモ用紙。

 “八月二十四日報告”

 “八月二十五報告”

 “八月二十九報告”

 “八月二十六報告”

 ……。

 日付の下には何やらよく分からない専門用語が山のように降り積もって、この疲れた頭では何を書いているのかというのは捉えきることができない。


「同じ日付?」


 確かに八月二十九日のメモが二枚ある。

 ぱら、と指先で紙の端を擦ってみる。

 “気温三十二度、湿度七十五%、日の出:四時四十九分”

 “気温三十二度、湿度七十五%、日の出:四時四十九分”

 ……?


「同じ内容……」


 その下にも、全く同じ内容が並んでいる。

 それにメモにしては筆跡までがぴたりとハネ先の狂いもなく統一されていて、まるでスキャンでもしたように細部まで同じものが書き込まれている。

 指で、書かれた文字の上をなぞる。

 細やかな黒鉛の粉が赤に反射しながら滲んでいく。

 ……ちゃんと鉛筆で書かれている。

 特段インクで重ねて書いたというわけでもないらしい。


「すっごいじゃないか悠里! 本当かい?」

「うん! ママが帰って来たら、直接教えてあげたいな~って思ってるの。だからママには内緒だよ……?」

「わかった、姉さんも喜ぶだろうなあ~~~! 本当にすごいな、流石僕の姪っ子だ。悠里は僕の誇りだよ」


 どうやら、悠里はパトロンがついたことをおじさんに報告したようだった。

 もはや形容するのも馬鹿に思えるほど、おじさんは幸せそうに目を細めていた。

 ……もしかすると、悠里は俺に告白した時にこの反応を求めていたのかも知れない。

 そうだとしたら、悪いことしたかもしれない。


「でも悠里、困っちゃったな。全部投げ出して君をお祝いしてやりたい気分なのに、今はどうしようもない仕事ばっかりでね、もどるさんに休暇も出せてないんだ」

「そんなの気にしないで。こうやってね、おじさんに言いたかったの。それで十分なの」


 悠里の足がようやく地についた。そして、でも、と続ける。


「もしね、お願い聞いてくれるんだったらね。暇な時ができたらでいいから。おじさんとしーちゃんと、星を見に行きたいの。昨日ね、お願いもしてきたんだよ 」


 おじさんがふと息を飲んだ音が聞こえて、少し俯いた。


「ああ、そうだな。暇ができたら、また行こう。僕も久しぶりに行きたいと思ってたんだ」


 感慨深そうに悠里の頭を撫でるおじさんは、どこか懐かしそうに目を細めて、過去を逡巡しているように見えた。


「あたしはね、いつでも大丈夫だよ!」


 けど、しづるくんの予定が合うかな。とおじさんは俺に視線を飛ばした。


「おじさんが休み取るんなら、俺も合わせて取るよ。悠里を一人で任せてらんないだろ」

「もう、子供扱いしないで!」

「そうだよしづるくん。もう悠里だって子供じゃないんだぞ」

「……そうだな」


 窓の外の景色は、ようやく傾いた日差しに、逆光の葉っぱの影が揺れている。

 ラボは三咲町北部にあるので、駅前よりもだいぶ標高が高い位置に存在する。

 少し山側に入っているのもあるが、ここからは三咲町の全貌をパノラマのように見渡すことができる。

 駅前を中心に、すり鉢状に広がった海辺の町。

 こうした黄昏時は海が溶岩のように真っ赤に、けれど静かに揺蕩っている。

 静かな緑と、雨の滴と潮の香り。これが三咲町。

 これが、俺の、悠里の故郷か。


「しづるくん、そして、悠里」


 おじさんの声色が、少し変わった。


「伝えないといけないことがある」

「なあにおじさん」


 悠里の瞼が少し上がって、不思議そうにおじさんを見つめた。


「どうしたんだ? そんな深刻そうに」


 これを、見て欲しいんだ。


 そんな風に言って、おじさんは俺たちに紙の束を翻した。

 分厚い資料だ。日付の打たれているとおり、日単位の観測資料だろうが、これがどうしたと言うのだろう。

 それに、こんなよくわからない単位の並んだ資料を見させられても、専門家でも何でもない俺たちが理解できるとは思えない。


「なに? なぞなぞでもする気か、おじさん」

「いいから、めくり進めてほしい。この一週間ほどの記録なんだ。僕らが毎日出してるものでね、順不同、間違えなく一週間分だ」

「難しい単語ばっかりでクラクラしてくるよおじさん……」


 俺が紙の束を抱えて、悠里はそれを後ろからのぞき込むようにして、パラパラとページをめくっていく。

 最初の一枚目、八月二十三日。天気は晴れ。気温は篠付交差点で計測、三十九度。湿度七十パーセント。もう一つは可惜山で観測、三十度。湿度……

 ずっと続いていく資料。資料はワープロで作成されていて、毎日定時に撮影されている定点カメラの画像も差し込まれている。

 二十四日、二十五日。

 そして次の日。

 二十九日。

 内容は。


「待ってしーちゃん」


 悠里の手が俺の人差し指を止めた。


「急に何日か飛んだよ」


 二十四、二十五、二十九。


「ああ、そうだな悠里」


 今、三日分ほどの資料が一気に飛んだ。


「とにかく、進めてみよう」


 二十六、二十八、そして最後が昨日、二十九。


『……そうか。わかった。因みに桜庭、もう一つ確認したい。数日前の通話履歴を遡って欲しい』


 脳裏に、敷原の声が過って、昨晩の電話の光景がフラッシュバックする。


「……おじさん、これ日付間違ってるよ。だって同じ日のファイルが何個もあるもん」


 悠里はそう言った。

 俺も、最初はそう思った。

 けれど。

 定点カメラの写真。

 同じ日の写真はゴーストまで、ぴったりと同じ。

 ずれのない写真。

 ずれが、ない?

 さっきのメモ。

 翻って、机の上にあったおじさんのメモを見る。


「うわっ、なにしーちゃん」


 ……もしかして。

 もしかすると。

 立ち上がる。


「ごめん、悠里。少し待ってくれ」


 頭の中がごちゃつく、いや、こんなことが、あってよいのだろうか。

 俺が今頭の中で描いているものは、どう足掻いたって非科学的で、ありえない事実だ。

 しかし、確かめなければ。

 本だらけのテーブルの上。

 どこかに置いたはずだ。さっきのメモ。

 机の上から本がいくつか落ちていった。けれど今はそれどころじゃない。

 メモを確認する。

 ――やはりそうだ。

 この観測の資料と、メモ用紙の日付の内容は一致している。日付が連続している位置、それさえも。


「これは……なんだ? なんだっていうんだ」


 携帯の着信履歴。

 もし仮説が正しければ、三日前の敷原の着信履歴の前に、アレがあるはずだ。

 急いで指を滑らせる。

 滞りなく処理される画面が、とてつもなくじれったく感じる。


「……嘘だろ」


 敷原の電話の数時間前、おじさんからの着信履歴。

 まさか悪ふざけか? いや、そんなつまらない冗談をするような人間じゃない。


「そんな、そんなはずはない。だって、そんなのあり得ないだろ……」


 指先が震える。

 緊張のせいで、手元から電話機がこぼれ落ちた。

 冷や汗が背中に伝って、理解のできない憔悴。

 濡れた手で背中を撫でられているような悪寒。

 ゴトリ、地面に落ちた音と共に、決定的におかしいことを脳みそが理解していく。


「そんな、これ、同じ日を何度か繰り返してるのか?」


 フラッシュバック。

 さっき見てきた、崖はどうだった?

 どうして直っていたんだ?


「なあ、悠里、今日は何日だ?」

「え、えっと、三十日だよ?」


 間違いはない。

 だよな、じゃあ、どうして――


「しづるくん。君の予想は正しい。全部が正しいわけじゃないが、君の予想はかなり当たってる」


 おじさんはそう言って、俺の携帯電話を拾い上げた。


「伝えないといけないことがある、って言ったのはこのことなんだ」

「順を追って、説明しようか」


 おじさんは俺に携帯電話を渡すと、軋む椅子に体を放り投げて、コーヒーを一つ啜った。


「ああ、頼む」


 悠里は黙って、不安そうに俺たちの方を見ていた。

 おじさんはいつになく苦み走った顔立ちをして、錆びた針金のリクライニングを元に戻した。


「まず、断っておきたい。これからのことは、口外厳禁だ、いいね? 悠里もだよ」


 悠里は無言でうんうん、と首を上下に振って、俺もそれに倣って一つ首肯をした。

 おじさんは目で俺たちに確認を取った後、納得したようにブラインドを軽く閉じた。


「まず、僕たちは毎日、一緒に共同研究をしている機関から観測結果を貰っている。その中のデータの一つに、地球の自転速度のデータがある。地球が一周すれば、朝と昼が来るのは知ってるね?」

「うんうん、わかるよ」

「でも、毎日が同じ長さじゃないんだ。毎日、少しずつずれが起こっている。だから一日の長さは、毎日ほんの少しずつ変わってるんだ。衛星の速度は一定だから、地球の回転とのずれを計算すれば、地球の自転速度がわかる」

「そうだな」

「ここ数週間、そのデータがおかしくなってる。衛星と自転速度の差が広がりすぎている。衛星側の問題かと思って問い合わせてみたが、異常は発見されなかった」

「ええっと、つまり、どういうこと?」

「悠里、月と地球をイメージしてみてくれ。月はずっと同じスピードで地球の周りを回ってる。その月から地球をずっと見ていたら、地球がどれくらいの早さで回っているかはわかるはずだろう?」

おじさんはペンを軸に、消しゴムをその周りに回転させる。

「うん、うん、そこまでは分かったよ!」

「じゃあ、月から見て急に地球が回るのが早くなったり遅くなったりしたら、どう思う?」

「不思議だなーって、思うかなあ。だって、普段はそうじゃないんでしょう?」

「うん、今その状態が起こっているんだ」

「えっそうなの!? り、理由はわかってないの? おじさんでもわからないの?」

「ごめんね、まだわからない。今、それを調べてるんだ。衛星側で特段異常はなかったってことしかね」


 悠里はようやく深刻そうに額にしわを寄せた。


「どっちに差が広がったんだ? 自転がやたら早くなっているのか? それとも遅くなってるのか?」

「遅くなっている、と見られている。が、これも正しい観測であるかどうかの当否も付かない状態だ。なんせ、地球の自転速度が変われば、当然遠心力が変わって、衛星も影響を受ける。二個の衛星と、地球の一定の地点でズレをリアルタイムに計算して貰うように伝えたのだけれど、その以後に連絡がない」


 お手上げだ。

 そんな風におじさんは笑って、自嘲気味にタバコに火を点けた。


「でも、それよりも問題がある。むしろ、君たちにとっては、こちらの方が大問題だろう。さっき、しづるくんも言ったとおりだ」


 資料をぱらぱらとめくる。

 そして何度か思案するようにページをもてあそんだ後、意を決したように、俺たちに向かい合った。


「端的に言おう。ランダム性を持った時間の巻き戻りが起きている。原因は今のところ不明だ。コピーアンドペーストしたみたいに、全く同じ日が繰り返されている。自然現象、人と会った事実、事故、他にも記憶の混同などが見られる場合もある」


「……」

「なに、それ」


 予想をしていた。当然、さっきから、理解していたんだ。


「ここまでのことを、理解してくれたかい?」


 おじさんの言葉は、単純自然に、特段批判するべくもなく、俺の中に入り込んだ。

 当たり前だ。予想していたじゃないか。本当は、どこか知っていた気すらしていたのだ。

 けれど、理解したという言葉は正しくない。全く。

 ただ情報を呑み込んだ、それだけだった。

 そうして、開口したのは、俺だった。


「待ってくれ、そんなことを言われても、やはりすぐには、信じられない」


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