第13話
流石みんな住んでいるだけあって、子供でも土地勘が素晴らしい。
どうやって届けて回るのが一番効率がいいのかを話しあって、さくさくとお届けに上がる。
基本的にいい人ばかりで、子供たちから心配されたり気にかけてもらえて嬉しそうにしてくれた。
子供たちもお手伝いしてる!ということでほめてもらえてうれしいらしい。それならなによりだけれど。
すべてを届け終わったのは1時間半ほど経過したころで、正面門まで戻ってきた。
「おう!おかえり!」
「届け終わりましたー」
落とし物を入れていたかごを返して、子供たちにもお礼をする。
みんなお父さんやお母さんにほめてもらう―!と元気に走って行った。
子供って本当に元気だなーと眺めていると、門番さんから疲れたろう、とお茶をいただいた。
ありがたく頂戴して、このまま薬草採取に向かうためにいろいろと聞いてみる。
東門を出て右手に進んでいくと薬草が生えやすいところがあるらしい。
ただ茂みの中でわかりにくいところでもあるけどなぁと教えてもらった。
ついでにそこらへんには果実がなってることもあるから、と耳寄りな情報をいただいた。
なんの果実かわからないけど、ツインズに渡せばおいしくなることは間違いないだろう。
「ありがとうございます、お茶も薬草のことも。薬草、取りに行ってみますね」
「あぁ大丈夫と思うが気を付けて」
東門の方向を教えてもらい、そちらに向かってまた歩き始める。
さっき子供をぞろぞろ連れて歩いてクエストを行っていたため、商売している人から、終わったのか―?と声をかけられる。
終わりましたー!薬草とり行ってきますー!と返すと、いってらっしゃい!と言われる。
なかなか最近こういうご近所さんとのやり取りっていうのは減ってきているなぁと思う。こういうなんでもないやり取りは大好きだし、助け合いにつながるからいいことだとおもうのだけど。
「ちょっと、おじょうちゃん」
え?私のこと?近くにいた何やら野菜らしきものを売っているおかあさんが声をかけてきた。
おじょうちゃんとかいつぶりだろう言われたの。おねーさんと声をかけられたり、なんなら奥さんと言われることもあるのに。
手招きに寄せられて近寄ると、どこに行くんだい?と聞かれた。
「えぇと、薬草採取のクエストをしようかなって」
「うん、でもどこに入れるんだい?カゴがないじゃないか」
にこにこと笑顔で指摘され、そういえば!と気が付いた。
そうか、ゲームの感覚だと採取したら勝手にどこかに収納されると思っていたけど、そういうわけでもないらしい。
今現在手ぶらだから、両手に抱えられるだけ、になってしまう。
「忘れてました…」
「おっちょこちょいだねぇ!ほら!」
あっはっは!と豪快に笑われた後、カゴを渡される。
赤ずきんちゃんとかが持っていそうな、持ち手のあるカゴは中に布が敷かれている。
「貸してあげるよ!使いな!」
「えぇ!悪いですよ!売ってるところ教えてくだされば」
「いいからいいから!困ってんだから、お互い様さ!」
「でも、何もお礼ができませんし」
「あぁ、それなら薬草を一株わたしらのために摘んできておくれ!ばぁちゃんの調子がわるくてねぇ」
「そういうことなら、お任せください!」
じゃあ行ってきます、と頭を下げて早めに採取してしまおうと少しだけ足を速める。
東門から右手に進んだ先には確かに茂みがあって、そこからがさがさと中に入っていく。
葉っぱや枝がひっかかってしまうので、適当な滑りのいい枝を拝借して髪をまとめあげる。
東門から左手の方向には、ぷるるんを討伐してる人がいるが、こちらは人影も見当たらない。
丁度いいか、としゃがみこみ図書館で見た特徴を探すと、あっさりと見つかった。
なんか土の匂いと草の匂いと、小さいときにつくしとか取りに行った時を思い出すなぁと黙々とカゴに詰めていく。
カゴがいっぱいになってきたので、ふぅと座り込み空を見上げたら、何か果物がなっていた。
「おー。」
これかぁとしばらく眺めてから立ち上がって、手の届く範囲のものを一つもいでみる。
匂いは桃っぽい。やさしい甘いにおいがしている。
うーん、どうやって食べるのが正解なんだろう。桃っぽいけど、桃なのかもわからない。
とれそうなのがあと三つあるし、とりあえず誰かに聞いてみようかなーとそれもカゴにそっといれる。
気が付けば30分もたっていたので、街に戻ることにした。
未知の世界というか、知らないことばかりなので知ることの楽しさが強いものの疲れてきている気もする。
東門から左手を見ると、まだぷるるんに剣をふるったり弓をひいたりしている姿が見える。
がんばれーと心の中で応援しながら、先にギルドに向かうことにする。
おかあさんのところにいこうかと思ったが、カゴを返すことも考えての結果だ。
ギルド内は窓口が少々混んできていた。
たぶん、ぷるるん討伐が終わった人たちなのかもしれない。
わいわい楽しそうにしゃべっていて、目がキラキラしている。
「お待たせしました」
「えーと、クエストの住民のお手伝いと薬草採取が終わりました」
「はい、薬草を預かります。いろはさんでしたか、子供を連れてお届け物をしてる子がいるっていうのは」
やはり子供を連れてのクエストは目立っていたようで、笑顔で言われてしまった。
7人もいたら目立つわ、うん。
「目立ってましたよね。でも、子供たちが手伝ってくれて助かりましたよ」
「それはよかったです。子供たちもお手伝いできてうれしかったみたいですね。では、こちらが報酬になります。」
薬草を20個で60G お届けクエストが20Gで、全部で80Gだ。
こう考えると、初期にもらえた1000Gはかなりの高額だ。
ありがたく頂戴して、カゴを返しにおかあさんのところに向かう。
実際の運動にすれば、かなり歩いているほうだなぁと思う。現実だったら痩せたかもしれない、これ。
「おかあさーん」
「あら!おじょうちゃん早かったじゃないかい!」
「カゴ、ありがとうございました。これ、薬草です。」
「あぁありがたいねぇ。これでおばぁちゃんがちょっと楽になれるわ」
「それはよかった。あ、あとこれって食べられます?」
中に敷いていた布を借りて包んでいた果実を見せる。
「あらまぁモモじゃないか!」
「あ、モモなんだ」
てっきり他の名前とかついてるのかと思ったがそういうことでもないのかもしれない。
このまま食べてもおいしいよ!というので、それを一つどうぞ、と渡しておく。
そのまま包んでいた布も渡そうとすると、それはあげるよ、使いなと言われてしまった。
桃のお礼にもならないけど、ないと今は不便だろう?と言われありがたく頂戴する。
たいそう嬉しそうにあんがとよ!またおいで!と手を振ってくれたので、こちらこそーと手を振りかえす。
さてどうしようか、と思ったら、コール音が鳴り響く。
ん?ん?どうやったらいいの?ん?お?
目の前に電話みたいなマークが出てきた。SFファンタジー!と感動しながら電話マークを押す。
「はーい」
「あ、いろは。ライだけど、いまどこにいる?」
「どこ…どこ?」
「いや、わかんないけど。中央広場まで来れる?俺らギルド出たところだから」
「わかった」
なんとか着信はとれたけど、これはかけ方も教えてもらわないといけない。
覚えることがたくさんあるかもしれないことに今さながら気が付いてしまった。
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