第12話

図書館はそれはそれは大きかった。


なんだろう。このでかさ。外からの見た目にたいして随分広い。

目に付いた初心者向けと書かれている本を持って、テーブルに座る。

ツインズもあらゆる本を持ってきている。



『いろはは何よんでるの?』



先に座って読みだしていた本をツインズは興味深そうに見ている。

私が目を通していたのは、薬草についてというもの。

様々な薬草のイラストと特徴、効能や副作用、処方箋の仕方が書かれている。


集中して何かを作ることは嫌いじゃない。


元々ビーズだとかリリアンが好きだったし、お菓子を作るのもツインズには劣るが好きだった。

きっちりした性格なようで、おおざっぱなところもあるから結局簡単にできるスコーンのようなものばかり作っていたけど。



「薬草の本だね。売れそうだし、自分の役にも立ちそうだし。」



確かに。と頷く二人の手元は、モンスターの本。

意外だなーと思っていたが、しっかり積まれた本の中にこの世界の食事情についての本が混ざっていた。

さすが。そしてこんなところにもしっかり手を抜かないゲームなのかと関心もする。


図書館にはそれなりの時間過ごしていた気がしたが、2時間ほどだったようだ。

現状現実世界と時間の進み方は変化がないらしい。

もしかしたらアップデートで仕様変更もありえるかもしれないとのことだが、これもあくまで噂のようだ。

図書館には人が来なかったので、かなりゆっくりと本を読むことができた。

ひとまずNPCだろう司書さんに小声でまた来ますね、と手を振り、図書館を後にすることにして、通りに出ると少し人がまばらになった気がする。



「一応ギルドでクエストみてみようか」



初日だし、とギルドに戻るとやはり人が減ったようだ。

ちらほらと登録している人がいる程度で、クエストが貼られている掲示板は問題なく見ることができる。

少し時間をずらしただけでここまで変わるのか。



「んー、」


『初級は受けられるのが決まってるな』



ハンター登録してすぐの初級、Gランクは受けられるクエストの制限がかなりある。

東門を出たとこにいるぷるるんというモンスターの討伐と薬草採取、そして住民のお手伝いぐらいだ。

ぷるるんというのは、要するにスライム状の敵のことらしい。顔がないためにどちらを向いているのかわからない。ただ、攻撃されるまで動かないらしい。

どれでもいいから5回ほどクエストを完了させれば、Fランクに上がれるらしい。

GからFには比較的簡単ですよ、と受付のおねーさんが教えてくれた。


アールさんがいるかと思ってきたが、グレくんもいたのでもう上がったのかもしれない。



「私は薬草採取と住民のお手伝いしてこようかなー。たぶん、このぷるるん?のところ人がいっぱいいそう。ていうか武器買ってないし」



初期装備の格好のままなので、それでも受けられるものをーと考えたのだ。

ツインズはなんだかんだとぷるるんの討伐をしたいようで、クエスト受注後武器屋に向かってから東門に行くそうだ。

じゃあここで解散ねー、私勝手にログアウトするかも。と伝えたら、一応フレンド登録しておけば、ログインしているかの状況は分かるといわれ、ツインズに言われるままフレンド登録のボタンを押した。

この機能は一応チャットのようなものや電話もできるという。必要以上にスマホもさわらない人間ではあるが、あれば便利なのは確かだ。


ギルドでハンターカードとクエスト用紙を提示してクエスト受注を完了ボタンを押す。

てっきり、ポーン!とか音が鳴るかと思ったがそんなものはなく、少し拍子抜けした。



『いろは、気を付けて。なにかあったらコールして』



ひらひら手を振ってツインズを見送り、クエスト内容が書かれている紙を頼りに街を歩くことにした。

コールしてってどうするかやり方きいてないや、と思い出したが、なるようになるだろうと気楽に進むことにした。



「正面門の門番のお願い?」



正面門はたぶんあの大きな門のあるところかもしれない。

そこまでなら道もわかるし、のんびり散歩気分で向かう。途中にあるお店はいろいろあって、見ているのがなかなか楽しい。

この世界の子供たちが楽しそうに走り回っている。


あ、門見えた、と思ったら後ろから誰かにぶつかられた。



「ねーちゃん!」


「びっくりしたーグレくん、どうしたの?」



今日はこの子によく会うなぁとしゃがみこめば、近くに同じような背丈の子供たちがいて、こちらの様子をうかがっている。

人間もいれば、エルフの特徴をしている子もいるし、他の種類だろう獣人もいる。



「遊んでた!」


「お友達たくさんだね!こんにちは、わたしはいろは。よろしくね」



子供というのは、不思議な生き物だなぁと思うことが現実世界でも多々起きていたが、ここでもなんも変わらないなぁと思う。

どこの誰かもわからないけど仲良くなって遊んだりできてしまう。

そして、その中の一人が知り合いで仲良しだとわかれば警戒心なんてなくなって、一気に群がってくる。


そう、現在子供に囲まれてます。



「うーん、私、正面門の門番さんのところに行きたいの」


『なんでー?』



なんで?どうして?なにかあるの?矢継ぎ早に繰り出されてくるこどもの質問に、思わず苦笑いがでてくる。

周りで商売をしているだろう住民さんたちもこちらを興味深そうにのぞいて笑っているあたり、子供がかわいくて、宝のようなものなのだろうと思う。

それか私の困り具合に笑っているのかもしれないが。

独身なので子供が好きでも世話ができるわけでもないし、どう接すればいいかも手探り状態なのだ。



「正面門の門番さんが何か頼みたいみたいでね」


『おれらもついてくー!』



きゃー!と笑いながら走っていく子供たち。

こりゃ参ったなーと思いつつ、走るのに遅れた子の手を取って歩いていく。

保育士さんって大変だなーと思いながら、わらわらと正面門に到着してしまった。



「なんだ!?グレ坊にさっきのねーさんじゃねーか。シッターでもすんのか?」



わいわいと子供が7人ほどいて非常に賑やかになってしまい、かなり驚かせたようだ。



「いいえ、なんかついてきちゃって。クエストをみてきたんです。お願いがあるって。正面門ってここですよね?」


「子供に好かれるんだな!お願いはな、落とし物を届けまわってほしいんだ」


「落とし物?」


「ここは一番でかい門だから、落とし物を預かることも多いんだ。で、誰の落とし物かわかってるけど、取りに来れない人もいるんだ」


「ばぁちゃんとか!?」



ひょっと門番さんとの間に入り込んだグレくんは俺も手伝う!と張り切っている。



「おばぁちゃん?」



聞くと、グレくんのおばぁちゃんでアールさんのお母さんにあたる人は、最近体調が悪いと床に臥せっているらしい。

そのような人や怪我をしている人には出てくるのも大変なので届けてほしいというものだ。



「そーか!グレ坊も手伝ってくれるか!」



と、うれしいそうな門番さんに私も!俺も!と子供が殺到している。



「じゃあ、行ってきますねー。みんないくよー!」



はーい!と元気な声とともに、クエストをスタートさせた。

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