第11話

風が足元をなでる感覚に目を開けたら、確かにそこは日本ではありませんでした。


もう一つの世界、異世界ということになるのか、イメージがなかったけどこれは確かにあの社長と秘書さんがCMで楽しそうにしていた世界。

風にのって流れてくる土の匂いだとか、太陽のあたたかさに、ここまで再現されるのかとただただ驚く。


同じようなプレイヤーたちは、慣れているのか歩き出しているが。

みんなが歩いていく方向には、門が見える。

あそこが目的地になるのかしら?ときょろきょろと見回してみる。


わからなかったら、聞いてみよう。

近くで走り回っているこどもがいたので、声をかけてみることにした。



「ねぇ、教えて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」



近づいてしゃがみこんで声をかけると、走り回っている子はぴたっと立ち止まり近づいて生きた。

その頭の上には、見覚えのある柄の耳。

この柄、トラ?



「なぁに?」


「えぇとね、私、迷子になっちゃって。中央の広場に行きたいの。どう行けばいいか、教えてくれる?」



よく見たら、しましまのしっぽもゆらゆら揺れている。

これは…とてもかわいいです。



「迷子なの?おねーさん」


「うん、わかんなくて」



かわいいトラの獣人だろうこの子は、本当にいい子ですね。

おねーさんって呼んでくれました。よくわかっているよ、この子。将来有望です。



「こっちー」



ぎゅっと手を握って指さす方向を見てみる。

立ち上がって見渡すつもりが、そのまま手を引かれて歩き出してしまう。



「案内してくれるの?」


「うん、いこう!」


「ありがとう。お名前、教えて?私はいろは」


「グレ!」



にこにこと笑顔のグレくんに手を引かれて、先ほど見えた門のところまでたどり着く。

遠くからでも見えたから、大きいだろうと思っていたが、やはり存在感がすごい。

門番らしき人が順番にプレイヤーを中に招き入れている。



「おう、グレ坊!なんだ、きれーなねーちゃんつれて!」



順番になると、門番さんがしゃがみこんでグレくんをなでまわしている。

グレくんも慣れているのか、嬉しそうだ。



「おれ、迷子のおねーさん、案内してんの!!」



良いことしてるでしょ!ほめて!

というと、門番さんも、えらいぞー!!とさらになでまわしている。正直うらやましいです。

なでまわしたまま、どちらまでですか?と門番さんが聞いてくるので、中央の広場で待ち合わせしていて、と伝える。

それならグレ坊でもわかるなーとにこにこしている。



「グレ坊!男の約束だ、ちゃんとねーちゃん案内しろよ!」


「はい!」



グレくんと門番さんはこぶし同士をこつんと合わせて笑い合う。

グレくんは当たり前のように手を握り、こっちーと引っ張ってくる。

ありがとうございます!と門番さんに声をかけて、案内されるままに進んでいく。


まだスタートしたところだから、同じような服装の人がたくさんいる。

自分もその中の一人だとは思うが。

ゲームの世界とはとても思えない。本当に異世界にきたような気分になってくる。

それに今触れているグレくんの手は確かにあたたかい。



「ここ!広場だよ」



声をかけられて視線を上げれば、確かにぽっかりと丸く広場になっている。

中央には噴水があって、憩いの場所のようなものだろうか。



『いろは!』



声がする方に目を向ければ、ツインズだろう二人が駆け寄ってきた。

同じ顔で、髪色がいつもより明るめで、長くなっている。

学生の頃のツインズは長めの髪の毛をハーフアップによくしていたが、その頃の髪型に近い。

だからこそ気付けたのかもしれないが、そんな二人の耳が、自分と同じエルフの特徴をしていた。



「二人ともエルフにしたの?」


『そう、たまたま被った。けどいろはもエルフなんだな』



そのままツインズの視線が降りていく。

あぁそうだ、グレくんに案内してもらったんだった。

グレくんは黙ってにこにこしている。



「あ、この子グレくんっていうの。ここまで道案内してもらったんだ。」


「グレです!」


「グレくん、この二人は私の双子の弟でね」


「俺がレイ」


「俺がライな」


「似すぎてて、わかんないね!」



にぱっと楽しそうにしているが、確かにもともとそっくりだったし見分けがつかないとよく言われるが、この世界でもそっくりそのままである。

そのうち目印になるようなものが必要になるかしら、いらないかしら…。



「俺、案内終わったし、帰るね!かーちゃん待ってるかもしんない!またね!いろはねーちゃん!」



気がつけば駆け出していて、後ろ姿にありがとう!と叫ぶのが精一杯だった。

今度改めてお礼をしなければ。

お母さん待ってるかもしれないってことは、もしかしたら悪いことをしたかもしれないしなぁ。



『まさかいろはが初っ端からこっちの住民連れて歩くとは思わなかった』


「わからなかったら聞くのが早いなぁって声かけたら案内してくれたの。いい子よね」



それで、これからどうするの?と聞けば、ハンター登録にいこうと言われた。

本来の目的としていた初めは一緒に〜というのを達成したため聞いたが、説明するからギルドに向かおうと言われた。

道すがら説明されたのは、ハンター登録は無料で身分証明書になるというもの。

他の街に今後行くことになっても、ハンター証明書を持っていれば特別何かがない限り街に入ることができるという。

さらにクエストを受注し、達成すると報酬ももらえるために、頑張って達成して自分の欲しいものを手に入れてどんどん攻略していく人もいるという。

クエストは、討伐ももちろんだが、薬草採取や住民のお手伝いなど多岐にわたり、無理せず自分のできるものを選べばいいということだった。


ハンター登録はギルドで行うといい、到着したギルドはかなりの賑わいを見せているが、職員さんは手馴れた様子で仕事をこなしている。



「あの、3人ハンター登録お願いします。」



そう声をかけたのは、トラ柄の耳としましま尻尾の女性。

トラに縁があるのかしら?と思っていると、カウンターの下から見覚えのある顔がでてきた。



「いろはねーちゃん!」


「あれ?グレくん。どうしたの?こんなところで」


「かーちゃんの仕事終わり待ってる!!」



嬉しそうに腕を回しているのは、カウンターの女性。

あれこれお母さんですか?



「こら!すみません、息子が」


「いえいえいえ、さっきグレくんに道案内をしていただいたんです。とても助かりました。いろはと申します。こちらは弟のレイとライです」



慌てて頭をさげると、そうですか!と嬉しそうな笑顔になった。

やっぱ息子がいいことしたら嬉しいんだろう。優しいね、と頭を撫でている。



「私グレの母の、アールと申します。すぐにハンター登録させていただきます」



登録自体は非常に簡単で、手のひらを石の上に乗せるだけ。

これで様々な情報を読み取り、複製不可能なカードをつくるという。

なんか指紋認証とか生体認証みたいなものかしら。これで網膜認証だったらスパイ映画とかの気分になれそう…と思う。

洋画でよくあるよね、コンタクトつけて網膜認証パスするとか。



「はい、終わりました。このカードは再発行可能ですが紛失した回数が記載されます。そのためあまりにも紛失が多いと印象が悪くなりますのでご注意ください。またクエストを受ける際、達成したことを報告する際にも必要ですのでお忘れないようお願いいたします。また、このカードでギルド内にお金を預けることも可能です。不明点がありましたら、いつでも聞きに来てください。」



後ろにもたくさん人がいるため、手短に終わらせる。

早く先に進みたいプレイヤーの気持ちもわからなくはないからだ。

クエスト内容を掲示されている壁は人がごった返していて、とてもみれる状況でもない。



『想像以上だな』



ツインズもさすがに熱気に圧倒されているようだ。

スタートダッシュに乗り遅れるな!とばかりにクエストを受けたら走って出て行く人がたくさんいるのだ。

ツインズが圧倒されているなかで、当たり前ですがアラサーの私は早くもしんどいです。



「うーん、ねぇ図書館とかないの?どうせなら先にいろいろ調べておいてもいいかなーって。あと静かそう。休憩したい。」


『そうだな、それがいい』



ちらっと受付を見るとグレくんと目があって、またねと手を振ってギルドをあとにした。

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