第9話

ふっと目を開けると、真っ白い何もない空間だった。

目の前には人。うん。人。



「はじめまして。この世界の案内人となります№1509です」



初めてこういうゲームを体験しているため、ほーっとまじまじ観察してします。

これは人工知能搭載ってことなのかしら?と思いつつ、挨拶はしておこうと頭をさげる。



「えーと、いろはです。はじめてこういうゲームするので、いろいろ教えてください。あと、なんて呼んだらいいですか?」



たぶんこの番号はシリアルナンバーのものだろうとは思うが、なんせ番号で呼ぶのは非常に抵抗感がある。

囚人のようでいい印象もない。



「え、と…。お好きにお呼びください。いろはさん」



最近の人工知能って、こんな反応するんだー。と感心しつつ、名前を考える。

困ったような表情とか、少しそわそわしているところが自分たちとなんら変わりがない気がする。



「1509…すみません、安直ですがイチゴさんかレイクさんどっちがいいですか?」



ネーミングってセンスを問われるが、私にはない。

番号から連想した数字でした思い浮かばなかったから仕方ない。

それでもほほ笑んで、レイクとお呼びくださいと返してくれたレイクさんは嬉しそうに見えた。



「それではいろはさん、このゲームの説明をさせていただきます」



にっこり笑顔で説明が始まった。

このゲームは、確かにゲームではあるが、もう1つの世界として認識すること。

中にいるNPCは実際にこの世界で生活をしているし、感情もあること。

スキルは存在するが、実際にこの世界で生活する中で手に入れることができること。

はじめにすることは、ここで種族と見た目を考えること。

ただし、性別を変えることや見た目を著しく変えることはできない。

また、最長ログイン時間は6時間。脳波に異常が見られた場合は強制ログアウト。

ペナルティも受けた数によって、ログイン時間の制限や一時凍結、などの処置がある。

というものだった。



「レイクさん、質問なんですけど、スキルは生活してたら手に入れることができるっていうのは、具体的にどういうことですか?ちょっと想像ができなくて」


「そうですね…たとえば、この世界で剣を購入します。その剣で訓練を行ったり、モンスターを倒すことによって、剣のスキルが発現します。そこからはレベルをあげたり、ということになります」


「ふむ…じゃあ本当になんでもできちゃうんですね」


「望めば望むほどに。得手不得手はでてきますが、基本的に努力次第です。」


「すごいですよね!それ!」



自由度が高いという意味を改めて実感する。

もう1人の自分になれるというのも納得できてしまう。



「イベントを行うこともあります。しかし、参加するかどうかも自由に決めることができます。クエストも自由に受けることが出来ますが、受注後キャンセルするとペナルティが発生しますので、お気を付けください。」



レイクさんの後ろにはじめはなかったホワイトボードがあることに気がつく。

わかりやすく説明するために出てきたのだろうか?



「レイクさん、ホワイトボードわかりやすくていいですね!ありがたいです」


「よかったです。では、種族を選びましょう。見た目やステータスが少し違うだけで、基本的にどの種族を選んでもなりたい職業に就くことが可能です。」



ホワイトボードには選べる種族が書かれている。

ヒューマン、エルフ、獣人、妖精…そして、ランダムの文字。

これか、ツインズの言ってたやつ。



「レイクさん、ランダムって」


「はい、種族選びのきっかけになるようにしているものです」


「きっかけ?」


「迷われる方向け、となります。ここで選んでも、普通に選んでも差はありません」



ということは、レアとかはうわさに過ぎないということか。

確かに公式にもなにも言われていないし、ランダムという枠があるだけ。

レアがでますように!という希望が拡散されていくなかで、かわってきているのかもしれない。

ただ、迷っている人向けなら、確実に私向けでもある。



「私向けですね、1回だけやります!」



どうせよくわからないから、と笑うと、レイクさんも微笑み返してくれる。

どうやって選ぶのかと思ったら、まさかの糸引き飴のような状態。



「糸引き飴…?」


「ガチャガチャとか、ありきたりだから!という理由のようです」



糸の先はブラックボックスにつながっていて、どう見ても何も見えない。

見えたところで糸の本数があるから、わからないだろうけど。

迷う必要もない!と指に触れた糸をそのまま引っ張る。



「…迷いなしですね」


「迷ったところで、ですから」



当たればラッキー程度だし、特に望む種族もないし、糸引き飴も大きいの当たればラッキーと思いながら買ってたなーと懐かしくなる。



「エルフ?」


特徴的な耳以外は、なにか変ったのか?とわからないが…。

このくらいがちょうどいいかなと、目の前にあるエルフのイラストに触れると、それは光の粒子となり消えた。

そして、目の前に現れた鏡には、いつもの自分とは少しだけ変化した、自分。


耳がエルフ特有の形に変わっている。



「エルフになさいますか?」


「折角ですし。それに、獣人けものびとも興味あったんですけど、いい歳した私がケモミミつけてもなーって。痛いおばさんになっちゃいますし、ね」


獣人も気になるが立派なアラサーの私からしたらハードルが高い。とりあえず、高い。

ケモミミは若い子がつけてこそ、かわいらしかったりするのだ。

私が付けたところで…。うん、はい、ごめんなさい。


気を取り直して、目の前に現れた鏡には選択肢のボタンが浮かんでいて、髪色から目の色、肌の色と選べるらしい。

髪色はどうせなら真っ黒にしようかな。

目の色は、うーん…アラサーにもなると中々こういうのでも冒険することをためらってしまい、結局普段とあまり変わらないアンバーに。

肌の色もさして変えなくてもいいかな?あ、気持ち程度に美白を意識して色を選んでみたが、結局元の色に。

これは昔テレビでよく見かけた某美白の鈴木○子が脳裏に浮かんだため。インパクトあったわ、あの人…。


ひと通り、派手な水色っぽい髪色や赤い目だとか、なんならメッシュとか試したけれど、違和感しかない。

うーん…似合わないね。私。


結局、変わったのは、茶色の髪が黒くなっただけ。ただ、光加減で青っぽく光るような黒に調整する。

どうせなら遊び心をだしたいけど、勇気が持てませんでした。これが精いっぱいです。



「ほぼ変化していませんが、よろしいですか?あと髪の長さや身長も5センチまでなら操作可能ですが…」



そんなことまで?と、試しにくせ毛ロングな髪をストレートに、ボブに、と変えてみる。

うーん、ボブカットは似合ってるかも…。これはそのうち現実で実行しようかなー。いやでも湿気に負けてメデューサになっちゃうか。

束ねたりするのに今の長さはちょうどいいから、やっぱりこのままでいいかもなー。

最悪ヘアゴムなくてもお箸一本がかんざし代わりになって髪がまとめられるんだから、やっぱこれでいいかな。


身長も変えないまま。一応高く・低く調整したけど、一番慣れている身長がいい気がする。

子供のころ急激に身長が伸びたけど、なんか違和感あったしなぁ。体が慣れていないというか、急な成長に追いつかないというか…。

高くもなく、低くもない165の私はこれでちょうどいいかな、とも思っている。



「なんか見慣れてる自分でいいかなーって気がしてきたので、これでいいです」


「とてもお綺麗です」



褒められた。

アラサーにもなるとお世辞でも言われることが減ってきたが、ツインズ以外に久しぶりに褒められて照れてしまう。



「では、次にお会いするときはゲームスタートの日になるでしょうか。」


「あー、仕事休めたらかな?」


「そうですね、お仕事もありますからね。次ゲームスタート後にログインされますと、世界通貨の1000Gゴールドが手に入ります。しっかり考えて使うことをお勧めしております。」


「そうですね、しっかり考えて使います。レイクさん、ご丁寧にありがとうございました。とてもわかりやすかったです。」


「いいえ、こちらこそ、いろはさんに会えてよかったです。また、この世界でお会いできる時を楽しみにしております。では、キャラメイクを終了いたします。ゲーム開始まで楽しみにお待ちください。」



そういって、真っ白の世界から自動的にログアウトされた。

起き上がってメットを外すと、1時間程度しか経過しておらず、こんなものなのか?と体をのばす。


想像以上に楽しくなりそうな予感がして、手帳を開き仕事のスケジュールを確認している。

この調子で仕事すれば有給とれるかも…?

遠足前のこどものようにワクワクしている自分に気がつき、思わず苦笑してしまった。


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