第5話 愛

 翌朝アポロが目覚めると、種を植えている場所の周りが煉瓦に囲まれていた。その側で、ヨルが丸まって寝息を立てている。


 それは煉瓦を積んだだけの簡素なものだったが、確かに花壇だった。


 アポロはヨルが、種を植えている場所の近くを踏み荒らしているのだと思った。だけどヨルは、植えてある場所の大きさを測っていただけだったのだ。


 ヨルは昨晩眠らずに、この花壇を作っていたのだろう。服は土に塗れている。


「育てるには愛情がいるらしいぞ」


 ぶっきらぼうに、目を覚ましたヨルはそれだけ言った。




 アポロは初めてヨルと出会った日のことを思い出した。


「どうしてボクを助けてくれたんだい?」


 ヨルは自分の身を危険に晒してまで、アポロを助けた。それがアポロには不思議だったのだ。


 尋ねられたヨルは、海鳥の卵で作ったオムレツで頬を膨らませながら、首を傾げた。それは何を当然のことを聞くんだという気持ちが、ありありと読み取れるジェスチャーだった。


「アポロは生まれたばかりだからな」


「生まれたばかり?」


「卵から出てきた。卵から出てくるのは赤ちゃんだ。赤ちゃんは助けなくちゃ死んでしまう」


 まったく大した勘違いだが、ヨルはアポロの乗っていたポッドを巨大な卵だと思ったらしい。確かにポッドは白い卵型のボディだ。


 その時アポロは、久しぶりに人前で声を上げて笑った。


 ヨルはたったひとりで生きてきたのに、愛を知っている。自分の危険と引き換えに、他者を疑問なく助けられる。そんなヨルをほんの少しでも疑った自分を、アポロは強く恥じた。

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