第20話《三》赤絲再逅(えにし ふたたび)-6-
五日間をかけて領地の見回りに出ていた
「どなたかね?」
五日の日程を丸々一杯に使って、広大な領地の実態をつぶさに検分し、
六十三才という年令のせいも、あるのかも知れない。
また、近所に住むお
その上、男のくせに
今日のように疲れている日に、よりによって
だから、もしも来客が
「
「いえいえ、旦那様」
「
「実に
「はて?」
若くて美しくて、おまけに風邪を引いて声の低い女、と言われても、
「その方の名は、何とおっしゃるのだね?」
「はい、旦那様。その方が申されますのには『
「
声に出してその名を
〈
『
妻が、その旧姓を夫の姓の下に重ねて自らの
以前、母のことについても
人目を忍ぶために女装をしたのだろうが、反対に、人目を引いてしまったのではないだろうか?
(実際、その
何のために、そんな危険を
やはり、しっかりしているようでも、まだ若いのだ。
若いだけに、時として前後の見境もない行動に
ここはひとつ、
「よいか!
ことさら
本当は今にも走り出しそうになるのを、
一人書斎に残された
「旦那様と来たら、照れてござるわい。あのようにしつこう、口止めされずともよいものを。それにつけても、あれでなかなか
客間に一歩踏み込んだ
なまじ衣裳が地味な分だけ、
しばらくは声も出ずに突っ立っている
「お疲れのところへ突然お
しかし、その低い
「一体全体、どういうお積りじゃ、
「
「
「別れ、と申されるか!?」
全くもう、この若者ときたら、何度この年寄りを驚かせれば気が済むというのだ!?
「はい。
「ば、馬鹿な事を申されるな。早まってはならぬ!」
なぜこうなるのか、自分でもよく解らない。
彼は、
「今出て行かれてどうなさる!?
どうにかして、この無鉄砲な若者を思い
だが・・・。
「有難うございます。
そのために生きているとまで、若者は言い切った。
その決意を、この上なく尊いとは思いながらも反面、
〈さてもや、
しかしながら、もうこの若者をいくら止めたところで
「さんざん御恩を
彼に向ってここまで言うと、
〈剣でもくれというのか?ならば、我が家に伝わる名刀を
「
四度!実に四度、
だがその驚きは、すぐに言いようのない喜びに変わった。
夢ではないか、とさえこの年老いた父親は思ったのである。
「
彼は努めて平静を装い、
まさか、いい年をした男が、両手を挙げて飛び回る訳にもいかないではないか?
「その通りです。改めて申し上げる
〈もしも承知せぬのなら、今すぐ、引っさらってでも連れてゆくぞ!!〉
美しいその
彼の視線を
〈我が
「
彼は
「それは
「
〈ああ、この顔だ!〉
誰が、どう
〈でかした、
父・
その
「
夜の
やがて、足音さえもすっかり
「あなたの御父上にお会いして参ります。心配なさらずに、待っていて下さい」
ただ、それだけを言い残して、彼は出かけて行った。
彼が何の為に父のところへ行ったのか、という事よりも、その道中の方が、
もしや、
誰かに襲われたりはしていないだろうか?
と、ついつい悪い想像ばかりが頭に浮かんで来てしまうのを何度も払いのけ突きのけ、彼女はひたすら、愛するひとの無事な姿を待ち焦がれた。
いつしか夜がしらじらと明けて来ても、
「お嬢様。どうぞ中へお入りになって、お休み下さいまし!そのままでは、お体に
「御心配なさらなくたって、大丈夫ですわ。なにしろ、お強いお方ですもの。それに
瑞娘は女主人を元気づけようとするのだったが、
「本当にもう、何て方でしょう!?お嬢さまをこんなにも心配おさせになるなんて、一体どういうお積もり!?」
しまいには、怒り出す始末であった。
と、その時である。
不安に
「お、お嬢様!お帰りになりましたわ、あの方が!ほらっ、ほらっ!!」
彼女とほぼ同時にそれと気づいた
夜明けの淡い光の中を足早に、そしてまっすぐに、こちらへ向かって彼は歩いてくる。
「よかった!御無事だった・・・」
愛しいその姿がかなりの速さでぐんぐん近づいて来るのを確実に捉えはしたものの、
そして、ついに、
「
思いがけない激しさで思いをぶつけて来た彼女に少々
〈好きだ!私は、あなたが好きだ!!〉
気を
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