第9話《五》奸慮背反(わるだくみ)-2-
雲の上を歩くような足取りで、廊下伝いに父の書斎の前までやって来た
〈父上!・・・〉
知らず知らずのうちに、彼は心の中で父に呼びかける。
何事にも
父は
その時の、父の腕の力強さ、胸や
それらのすべてが、
見回せば、
さらにその上、
〈父上!あなたは一体、どれだけの血を流されたのでしょうか⁉・・・〉
居間へ向かって引き
そして―居間の入り口に立った彼は、一瞬立ち
寝台の前に、余りにも
父は間違いなくそこに倒れ、体中の血を流し
「ち、父上!・・・」
低く押し殺した
父の想い、であったかもしれない。
「お許し下さい、父上!さぞや、御無念だったことでしょう・・・
そこに今でも父が倒れているかの如く
重い悲しみに打ち
ついこの間まで、部屋の中を重厚に飾っていた貴重な
恐らく高価な品は、根こそぎと言っていいほど、
それ
だが、今そんなことはどうでもいい・・・。
扉を開けた
けれどなぜ、この部屋の美しい
『お帰り、
なぜ、いつものようにそう言って、笑いかけてはくれないのだろう⁉」
〈姉さま!
「隠れんぼは嫌いです。私はもう、子供ではないのですから・・・」
その視線の先ざき、
それは、血だ。
愛する
その花を、こともあろうに土足で踏みにじり、浅ましくもあくなき
一つは、亡き母が
母の
両方共に、職人芸の
がらんとした部屋の中で、それらは
手に取ってそっと布を払うと、そこには、
まかり間違えば、親戚中から村八分に
「
日頃は地味で全く目立たぬ存在である
亡き母の
成長してからの彼が
「これを、あなたのお嫁さんになる方に差し上げようと思っているの・・だから、早く可愛い
「だって・・・
彼女の言葉を聞くといつも、
「その
すると
「
そう言って、再び
「そういうものなのかなぁ⁉私には一向にピンときませんけれど・・・」
「そういうものなのよ、
ふっと
「
〈もう泣かぬ‼決して二度と・・・だから・・・だから今だけは、思い切り泣かせてくれ‼〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます