第3話《三》喪姫血涙(とわのわかれ)-1-
「あやつめ。いつまでたっても、少しも変わらぬわ」
ひとりでに、
「父上!この
亡き妻・
年を重ねても、少しも
結局、怒りにまかせてそのまま屋敷を飛び出そうとした
そして、三年後には必ず帰って来てこの
三年後が待ち遠しくてならぬ。
その楽しみを自分に与えてくれた息子の顔を思い浮かべながら、彼は、笑顔のままで
「今頃はもう、翔琳寺に着いていような」
さっそく
無論、それ相応の
と、その時、
「何者⁉」
彼の言葉を待っていたかのように、五個の黒い影が突然、調度や
彼らは全く一言も発することなく、
「ううっ!ひ、卑怯者め!!顔を、顔を見せい!」
見るからに
「この老いぼれがっ‼」
「うぐっ‼」
それでも彼は、泳ぐような足取りで書斎から
「し・・
彼は
そして体の下には、吸い込み切れぬ血が、深い
その廊下のあちこちには、
その頃、
それらの手紙はすべて、かつて幼い
その一通を読みながら、
いかにも子供らしい、けれどもかなりしっかりした字で、手紙にはこう
「ねえさま。おげんきですか?しーふぁんは、まいにちげんきでしゅぎょうにはげんでおります。しゅぎょうは、ちっともつらくありません。しーふぁんは、おししょうさまのおっしゃることをよくまもって、かならずつよくなって、ねえさまのところへもどってきます。そのときはきっと、しーふぁんのおよめさんになってください!・・・」
「可愛いこと!」
「しゅぎょうは、ちっともつらくありません・・・」
だが、当時手紙には、はっきりと涙の
彼の負けず嫌いは、その頃から少しも変わってはいない。
「かならずつよくなって、ねえさまのところへもどってきます。そのときにはきっと、しーふぁんのおよめさんになってください!・・・」
そう言えば小さい頃、
「若さま、男の
その
「ねえさまは、おおきくなったら、このしーふぁんのおよめさんになるんだぞ。だから、いつだっていっしょにいていいんだ!」
その微笑ましい抗議を聞くと、いつも決まって乳母の
「おやまあ、
二人のやりとりを見守っていた侍女たちも、皆、一緒に笑った。今考えると、どうも彼女たちは、初めから
その乳母もすでに亡く、侍女たちも、当時から残っている者は誰もいない。
「あの頃は、本当に楽しかった・・・」
〈でも
そして彼のこの呼びかけが、彼女は、何とも言えずに好きだったのである。
けれども、その一方で
「ね、
すると彼は、なぜそんなことを聞くのかと一瞬意外そうな顔つきになったがが、すぐにけろりとして、こう言い切ったものだ。
「
彼にとっては、姉以外の女など、まるで
〈困った子!〉
そう思いながらも、
しかしながら、やがていつの日か、そんな
それが当たり前のことなのだと
彼が弟でなかったら・・などとは、一度も考えてことがない。と言えば
だがそれは決して許されぬ事であった。
『姉弟』という間柄は、まことに甘やかで、
〈それにしても・・〉
きまり悪さに大いにうろたえながら、また、それ以上に照れもしながら、ムキになって突っかかって来るその表情から
しかしー彼女の楽しい時間は、そこまでで、永久に絶ち切られることになった。
「何者です!」
叫ぶなり、
「誰か!
そんな彼女の眼前に、いきなり立ちはだかった
「まことにお気の毒だが、呼んでも無駄だ、お
そう言って彼は、残忍な光を宿すその目を、意味ありげに細めて見せた。
「まさか⁉・・・そなたら、まさか父までも⁉」
得たりとばかりに、男は
「
〈ああ、お父さま‼このようなことがあってよいのでしょうか⁉〉
だが、彼女は、痛ましくも、決然と持ち
「よくも!・・・よくも我が父まで・・・一体、誰の
激しい怒りに
「ほう、聞きしに
絶対に
「殿⁉殿とはだれの事か⁉はっきりと名を言うがよい‼」
この時、
「うるさい‼そのようなことはどうでもよい。
ことさら語調を
賊共は、わっとばかりに
「うわっ!」
賊共が
「まったく、手を焼かせおって!だが、もう逃げられぬぞ。
主領格の男が、今や
追い詰められた
だが、彼女にはよく解かっていたのだ。もう決して、のがれることは出来ぬということが。そして今、自分が何をしなければならないのか、ということも・・・。
父はもはや、生きてはいまい。もしも我が身がここで
最愛の弟を、自分の為に苦しめてはならぬ!
「ええい、
その傷は、ほんの
突然の成り行きに目を疑い、賊共は
少なからず
そして、
―賊共が去ったあと、
〈
彼女の
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