第2話《二》宿星邂逅(であい)
耳を澄ませると、それはどうやら道の左手、なだらかな斜面を少し
茂みの
「野次馬根性」と言ってしまえばそれまでだが、
ましてや争いごととなれば、必ず
そこでは、十数名の男たちが、誰かを取り囲むような格好で立っていた。全員、狩り支度をしているところを見ると、どこかの貴族あたりが、家臣を引き連れて
この一帯は、野兎や鹿等が多く
そのため、結構身分のある連中が、お忍びで遊びに来るのだ。この男たちも差し詰め「
だが彼らの、その
それに引き換え、彼らに取り囲まれた人々―
〈これは放ってはおけぬ!〉そう決心すると
ここならば、やりとりがはっきりと聞こえて来る。
「これほどお
若い女は、あまり大きくないが、よく通るしっかりとした
取り立てて美人という訳ではない。けれども、いかにも勝ち気そうな切れ長の瞳と、やや紅潮した白い
その有様が〈どことなく、
彼女の足許には、恐らくはその手から落ちたものであろう、黄色い花弁を今が盛りと咲きほころばせた見事な
「許せぬ、と申したらどうするね、え?」
男は、いかにも好色そうな
〈なんだ、あいつか!・・・〉
まるで
「お許し下さいませ!
老女は何とか女主人を守らねばと必死の
その中にあって、若い女だけが
「共の者が、あなた様の狩りのお邪魔を致したのであれば、明らかに、主人である
彼女は、下男の
さては、下男が狩りの
「ほう?いかようにも
得たりとばかりにそう言うなり、
「
「何をなさるのです!」
女は
その拍子に、勢い余った彼女の右手は、背後からたわわに伸びていた
かなりの衝撃があった
思いもかけぬ彼女の抵抗に
「お、お嬢さまっ!」
身を
「ばあやっ!」
女が叫んだのと、
女は、本能的に
「見苦しいことだな、
彼女をそれとなく
「う、き、貴様っ!」
「貴様、確か、
「
しかし、
「私は、あんたに
そう言いながら、彼は腰に
その態度が、なんとも人を
もとはやくざ上がりだ、などと噂されるこの男、これでも、今を時めく、
どういう
その
〈「半殺しにしてくれるわ!」噂によるとこの小倅めは『
そんな
「とにかくもう、
「うるさい!小僧めが!」
「私は小僧じゃない、本当に解らない人だな、あんたは」
またもやさらりと受け流されて、揚の怒りは心頭に達し、それこそ、
「この思い上がりの小僧めを、足腰立たぬようにしてやれ!」
「おう!」
と、答えて、いかにも気の荒らそうな
ところがー。
「ウグッ」
その男は奇声を発するや、急に前のめりになった。
「ヒエッ!」
次にそう叫ぶと両手で頭を
「?」
細っこい、ひどく
人々の目は、再び
その
どうやら男は、その扇子で、目にも止まらぬ
「この野郎!」
やっと我に返った家臣が二人、お里丸出しに
ほんの短時間のうちにあまりにもあっけなく、大の男が三人、大地にのされて
当の
「く、
家臣たちの余りの
「まあ、待て、
今まで彼らから少し離れた場所で、じっと事の成り行きを見守っていた中年男が、
年の頃、四十前後というところか。がっしりとした、いかにも
「もう、やめておけ。ここはひとまず、引き上げたがよかろう」
「し、しかし
腹納まらぬ
「とにかく、わしの言うことを聞け!」
と、押さえておいて、
二人の視線が
「
「わしは、
そう言い残すと
男たちはたちまちその言葉に従って、負傷した仲間を助け起こし、潮の引く如く去ってゆく。さすが見事な、統率力であった。
その中にあって、
「
だがしかし、彼は、
去ってゆきつつ
〈あの青二才、噂以上の掘り出し物。
正式名『
そのためには手段を選ばず、非情の
数ある
そこに至るまでの
これほど残虐な
ふと何事か思い当たった
けれど
やはり、傷ついている―。
白く
二、三度それを繰り返した
余りにも自然で手際のよいその
「さあ、これでひとまずは大丈夫」
「だけど家に戻られたら、必ず、ちゃんとした手当をなさい。念の為に、一度は医者に見せておいた方がよいかもしれません」
そして、女が小さく
「あの・・・」
その時になってやっと、老女が声をかけて来た。
振りむいた
「
下男は下男で、さきほどから地面に頭がくっつきそうなくらいに体を折り曲げ、何度も何度も、おじぎを繰り返している。
「いえ、さほどのことではありません。では、私はこれで」
「お、お待ち下さいまし、若さま!」
老女は
「お待ち下さいまし。あの、
早口で、必死に身分を告げる彼女にしてみれば、危難を救ってくれたこの美しい貴公子を、女主人のためにも、このまま行かせてしまってなるものかと一生懸命なのだろうが、当の
「
構わず歩き出そうとした彼をどうにか落ち着きを取り戻したらしい女主人―
しかし、彼女はまだほんのりと
「もしも、もしも御迷惑でなければ、ぜひとも、私共の山荘へお立ち寄り願えませんでしょうか?ここから、さほどの距離はございませぬ・・・
だんだんと
「
ところが、このあっけらかんとした若者はにべもない。
「私は、これから修業先に戻らねばなりませんので。それに、衣装のことなど、どうぞ御心配なく」
けろっとして言うばかりで、何とも取りつく島さえない。
「でも・・・」
〈あ!〉
思い
〈可愛いな!・・〉
「ならば
当人さえも気づかぬ
彼らは
「
見る見る遠ざかってゆく
彼の
それは決して、痛みのせいばかりではなかったのだ。
何となく一方的なようではありながら、実はその出会いこそが、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます