鳳凰傳
桃花鳥 彌(とき あまね)
ーアレクサンダー・傳聲(フーシェン)へ捧ぐー
巻ノ一 翔琳鳳凰(しょうりんほうおう)
第1話 鳳雛籃離(たびだち)
遥か
「
プロローグ
白雲
黒髪
花の
細身なれども血は熱く
ひとたび敵に
□「鳳凰傳」主な登場人物
◎
本編の主人公。『翔琳鳳凰』と
◎
◎
◎
◎
◎
◎
北方の武闘集団「
◎
◎
◎
◎
九龍山翔琳寺・第二十八代大管主。「拳聖」の
◇
◇
◇
時の
《一》
「若君、若君、お待ち下されませ。これ、
老人は、
足の速い若者へ、息せききって追い
そんな彼を、無言のまま、手を振り払ったり、右へ左へよけたり、或いは全く無視したりしながら、実に迷惑そうにあしらっていた若者であったが、その余りのしつこさについにたまりかねたと見え・・・。
「いい加減にしたらどうだ、
絶世・・、と形容しても何ら
「何を
老人も負けてはいない。一生懸命、若者の白衣の袖を摑(つか)みながら・・・。
「このような一大事を、いい加減にせよとは何たるお言葉。まったく以って、聞き捨てなりませぬ!あれほどお父上が御心痛遊ばすものを、あなた様はいかなる御所存にて、再び
ものすごい見幕で一気にまくし立てた挙句にいきなり
見れば見るほど狸そっくりの愛嬌があるにもかかわらず、その少なからぬ過激・・な言動といい、若者をハッタ・・・と
どのくらい時を
広大な
時折、
「よいか、
若者は、もう
「何度同じことを言わせるのだ。父上は、私を
「悪うございますとも!」
「お父上が、
老人はまたも息が切れ、大きく方を上下させたが、そのくせ「だから、もうその話しは・・」片付いたと言うのだ!と若者が言い放とうとするのを「何で片付いてなどおりましょうや!!」
「いったい何年、
「うるさーい、
いやはや・・・・・。
若者が、いや、遠く建国の祖・華皇朝尊帝の直系の皇子にして英傑の
というのも、彼が生まれた時、丁度、
「この
夫・
彼はとりあえず、夫と
そして、
その間にも、月日は矢のように流れ、子供たちはそれぞれ、美しく、
「ねえさま、ねえさま・・」
幼い
子供たちの愛らしい
前夜までは何ともなかったのに、翌朝になって突然、彼は原因不明の高熱を発した。
それからの三日三晩というもの、その熱は少しも下がる
「七才までに家を離れさせなければ、この子は幼くして・
占い師の言ったあの言葉が、今、おぞましいばかりの現実感を
「もしや―もしや、あの予言が的中したのでは?」
そうだとしたら、彼の最愛の息子は、このまま苦しみ抜いた
「
その
そんな弟の手を、両手で包むように握り締めながら、
「神様!
十一才の
だが彼女は結局、
そして、乳母・
―四日目の朝、ついに奇跡が起こった。あれほど高かった
なまじ名門というものは、何かにつけて手数を踏まねばならない。
まる三昼夜というもの、それこそ
その事があってから、
出来るだけ早い方がよい、と彼は思った。あれ以来、
だが、いつまたあのようなことが起こるか、
「
「御承知の如く、
なんとも急な話ではあった。だが、その言葉に従うより他に、道があるとは思われぬ。
その前に、何はさておき、まずは
ところが意外にも「はい、わかりました。ちちうえ。しーふぁんはしょうりんじへまいります」美しい
それでも、さすがに姉と別れる段になると、その
彼にとって、とにかく一番辛かったのは、他ならぬ、姉と一緒にいられなくなることだったのだろう。
しかし、結局彼は、一滴の涙もこぼすことなく家を出て、街はずれまで見送ってくれた姉に向かってたった一度振り返り、手を振っただけで、もう二度と未練がましい振る舞いをせず、
されにその
従って、
「その拳、
ともかくも十四年の
一体誰が言い出したものか世の人々は、
しかしながら、この
そういう、どこか凡人とは違った
彼ほどの高弟ともなれば、無論、寺の内外出入り自由であったし、その気になれば、実家に帰る事も許される。にもかかわらず、
それでも数年前までは父の
幼い頃は、さながら美少女そのものであった
しかしながら、ここ最近の
もともと
〈あやつめ!どちらが本当の自分の家なのか、取り違えてでもいるらしい〉このままでは一生、
姉の
そんな事情で、この方法は、まず無理。どうにもこうにも
その上、彼は、念には念とばかりに、かねてより心に留めていた某家の娘との
ところが、知らせを受けて
嘘をついてまで自分を呼び戻した親心を気の毒に思う反面、見も知らぬ娘との縁組までが
「いい加減にして下さい、父上!私は
そう言い捨てて、その足で屋敷を飛び出そうとした
「
姉に
「申し訳ありません、
彼は素直に姉に
結局、
そして、八日目の朝(つまり
ところが、どこでどうして耳に入ったものか、代々、
そして、他の家臣たちが止めるのも聞かず、さきほどのようにうるさく説教しながら、何と、
「
老人が
「へ?」
彼の
どういう訳か、彼もまた、昔から
「
「お前の
「し、しかし、
「お父さまは、今度の事、何もかもお許しになっておいでですから。
そういって
しかし、すぐに
「
「わかりました。ありがとう、
自分に対する父と姉の深い愛情を痛いほどに感じながら
「父上に、くれぐれも
はっきりと自分で納得しさえすれば、こういう時、
さすがの
「わ、若君。若君さま!そ、そ、そのように、おつむを下げ遊ばすものではございませぬ!・・・な、なんともはや
つい先ほどまでの、あの喰らいつくような
「では、
「元気でね。いつも変わらず、
そう言って彼女は微笑したが、そのほほえみは、心なしか、とても
しかし、自分でも気づかぬ意識の下に、何かが
「行って参ります、
「
彼女の言葉に、くるりと一度振り返り、それはもう愛くるしくほほえんで手を振ると、姉のお
身長の割に手足が長く、従って実際よりはずっと
〈何だか、十四年前に似ているわ・・・〉
彼女はふと、そう思った。だが、あの時の少々ぎこちない笑顔に比べて、今の弟のそれは、何と
〈今のは,何だったのかしら?・・・〉
密かに戸惑う
時、
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