第2話 ジャンプしたら異世界で

 ―― 日本・静岡県某市・近所の神社※

――2020年1月1日※

 ――0時0分※

 ※本来ならば。


 「あれ?!雅幸さん!?」


 手を繋いで一緒にジャンプした筈なのに。

 雅幸さんが居ない。

 ジャンプした瞬間、確かに手の温もりはあった。


 と言うか…。

 周りが真っ暗で何も見えない。

 真っ暗と言うか、真っ黒?

 漆黒の闇?

 自分の手さえ、身体さえも見えない。


 「誰か!!誰かいませんか!?」


 {究極スキル:訳する者 獲得しました。}


 「え?!」


 訳の分からない、女性のような機械のようなAIの音声の様な声…。

 私の頭の中で聞こえた様な気がした。


 {転送:杉田美春 開始しました。}


 「え!?私の名前!!ドッキリでしょ?美穂??アナタなの!?」


 ――ブウンッ!!


 漆黒の闇の中、大きな音がした。

 私の周りだけが眩い光に包まれた。

 夢でもみているのだろう…。


 {転送:杉田美春 成功しました。}


 ――場所不明

――年月日不明

 ――時間不明


 ――ポタッ…。


 「んっ…。」


 私は寝てしまっていたのだろうか。

 林の様な場所の地面に横たわっていた。

 確か今、何かが垂れてきて…。

 そう思って目を開けると、辺りは夜。

 私の額に垂れてきたのは…恐らく雨の滴。


 「よいしょっ…。」


 私は地面から立ち上がってみた。

 辺りには光源は一切ないようだ。

 さっきまでいた場所は神社の境内…少なくとも光源はあった。


 「誰か!!居ませんか!?」


 私がそう辺りに向かい叫んだ瞬間だった。


 ――ガサガサッ!!


 林の奥の草むらの草が揺れた。


 「誰!?雅幸さん…なの?!」


 ――グチョンッ!


 現れたのは…。


 「す…スライム?!」


 1匹だけのようだ。

 ぷるんとしたグミのようなフォルム。

 水まんじゅうの様なプルプル感。


 「か…かわいい!!」


 だが…見た目に反していることが…。


 ――ジュウウウウッ!!


 そう、辺りの草を溶かしながら、私の方へ向かってきている。


 ――ズザザッ!ズザザッ!


 私は後退りを始めた。

 真っ直ぐに後ろではなく、斜め後ろに。

 目の前のスライムが私の事に気づいていなければ、そのまま真っ直ぐに進んでいくと思ったからだ。


 ――グチョンッ!グチョンッ!グチョンッ!


 「ひぃぃぃぃっ!?」


 スライムは明らかに私を狙っている。

 何故なら、斜め後ろ方向に進んでいる私に対し、スライムも進む向きを斜め前に修正してきた。

 もう、後退りじゃダメだ!!

 そう思って、私はスライムに背を向けた。


 走って逃げるために。

 そう、生きていたいから。


 ――ザッ!


 走り出す体勢を作りった。

 私は前へ前へと走り出そうとした。


 ――ビュンッ!!

 ――バシッ!!


 「いやあああああああっ!!」


 私の脚にスライムの身体が巻き付いた。

 殺される!!

 死ぬ!!

 嫌!!

 いや!!

 生きたい!!


 ――グイッ!!


 「やめて!!やめて!!」


 ――グイイイイイイイイッ!!


 「きゃああああああああっ!!」


 スライムに脚を思いきり引っ張られた。

 私の身体は宙に浮いた…。

 スライムの方に目を向けた…。

 絶望した…。


 ――ガバッ!!


 スライムは私を取り込むつもりだ。

 大きく口を開ける様に身体を拡げていた。

 宙に浮いた私をパクッとこれから食べるかの様に…。


 「お願い!!スライムさん!!殺さないで!!」


 命乞い虚しく…私はスライムの身体の中へ。

 取り込まれる最中、私の着ていた衣類は全て溶かされていった。


 「私!!死にたくない!!」


 命さえ助けて貰えれば…。

 何をされてももう文句は無かった…。


 「お願い!!何でもします!!殺さないで!!」


 私の切なる願い…。

 スライムには聞き入れられないのだろうか?


 ――ジュブンッ!ジュブンッ!ジュブンッ!ジュブンッ!


 すると、スライムの身体の中で触手の様なものが4本出来た…。

 もう…何をされるか想像がついた…。

 溶かして殺す前に…身体を蹂躙する…。

 スライムと言えど、鬼畜の所業だ。


 「いやあああ…んぐ…んぐぐっ?!」


 スライムの触手に穴という穴を埋められた。

 口も例外ではなく、叫び声すら奪われた。


 ――どこかの林・スライムの身体の中

――年月日不明

 ――時間不明


 延々と続くスライムによる鬼畜の宴。

 もう、どれ程の時間が経っただろう…。

 私はどれだけ穢されても死にたくない…。

 そう強く思い…耐え続けていた。


 ――ジュポンッ!!


 「ゲホッ…!!ゲホッ…ゲホッ!!」


 塞がれていた口が解放された…。

 口からは大量にスライムの体液が溢れ出し咽びかえっていた…。


 「お願い!!殺さない…」


 ――ゴクンッ!!


 終わった…。

 身体が…スライムに完全に取り込まれた。


 {やぁ!堪能させて貰ったよ?杉田美春。}


 スライムから声が聞こえた。

 私は死んで、霊にでもなったんだろう。

 さっきの漆黒の闇の中と同じ感じがした。


 [私は…死んだんでしょ?私を食べた、スライムさん。]


 {イイエ。人聞き悪いなぁ?有限なる生命の弱き身体から解放してあげたのに。}


 は?

 解放?

 仮にしたにしても…。

 さっきの所為…。


 [わ…私の身体…弄んだのに?]


 {ハイ。久しぶりの感触をね?}


 まさか…。

 このスライムが…。

 雅幸さんも食べたんじゃ…。


 [ねぇ?山梨雅幸って人食べてない?]


 {…。}


 一瞬、スライムが言葉に詰まった。


 {イイエ。そんな童貞臭い名前の男食べる訳無いだろう?}


 [なら良いんだけど…。]


 良かった…。

 雅幸さん、食べられて無かった。


 {ハイ。今日から美春はこの身体使って。}


 [へ?!どういう事!?ちゃんと説明して!!]


 意味がわからない…。

 この身体使えって、何?


 {ハイ。転生:スライム 実行します。}


 [ちょっと!!待ってよ!!]


 {種族:人間 から スライム に変更します。}


 [ねぇ!?説明して!!]


 {究極スキル:傍にいる者≪ナビゲーター≫ 獲得しました。}

 {スライムの身体は美春に譲るから、僕はナビゲーターとして傍でサポートするから。}


 [譲るって…?サポートするって…?]


 {ハイ。そう聞いてくれれば答えるから。}


 [なら、この漆黒の闇は何?!]


 {ハイ。美春と僕との対話の場。ミーティングルームとでも言えばいいかな?}


 何で…ミーティングルームなんて…。

 あぁ…。

 私の脳から情報でも吸い出したのか…。


 [じゃあ、視覚的に何か表示したりできる?]


 {ハイ。対話:内容表示 変更しました。}


 ――ブゥン!


 漆黒の闇の中に、パソコンの大型ディスプレイの様なものが、ポツンと置かれた。


 [ぱ…パソコンのディスプレイ!?]


 {ハイ。再現するのも大変なんだ。我慢してくれ。}

 {まずは、美春にはこれを。受け取ってくれ。}


 [何かプレゼントでもくれるの?]


 {特別スキル:異世界ジャンプ 譲渡されました。}


 [え?物じゃないの!?と言うか、異世界ジャンプって何?!]


 {ハイ。異世界ジャンプ:異世界から異世界へジャンプしての転移可能。}

 {詳しく説明聞きたいか?}


 [と…とりあえず、教えなさいよ!!]


 {ハイ。スキルの使用回数によりレベルが上がります。}

 {レベル1では、使用可能間隔は5日間、ジャンプ先はランダムとなります。レベルアップ:5回。}

 {レベル2では、使用可能間隔は3日間、ジャンプ先は再訪かランダムが選べます。レベルアップ:10回。}

 {レベル3では、使用可能間隔は1日間、ジャンプ先は指定、再訪、ランダムが選べます。}

 {一度訪れた異世界については、再訪先として登録されます。}

 {説明は以上だが?何かあるか?}


 [えっと…。私が居た世界は登録されてる?]


 {イイエ。スキルを所持していないと登録すらされない。僕もそれで絶望したからな?}


 [あと…異世界ってどれくらいあるの?]


 {ハイ。0〜63まで存在する。}


 [なんかパソコンの世界みたいね?]


 {ハイ。僕もそう思っていた。気が合いそうだ。}


 スライムさんに蹂躙されて食べられたら、スライムの身体とヘンテコなスキル貰ったんですけど…。

 どうなるんだろうか…これから私。


 ―続く―


――――

ここ迄の主な登場人物とステータス

――――

名前   :杉田美春≪すぎたみはる≫

種族   :人間

魔法   :なし

称号   :なし

二つ名  :なし

容姿   :肌【白】、髪【焦茶】、頭部【-】、目【焦茶】、背中【-】、その他【身長160cm、体重50kg、バストD】

究極スキル:傍にいる者≪ナビゲーター≫

特別スキル:異世界ジャンプ

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