異世界ジャンパー 〜ある三十女のスライム性活体験譚〜

茉莉鵶

はじまり編

第1話 大晦日の夜

 ――日本・静岡県某市・自宅

――2019年12月31日

 ――18時00分


 「はぁ…。今年も良い事なかったな…。」


 去年の今頃は彼氏の家で、TVを観ながら年越しそばを食べていた。

 ああ、ちょっと語弊が…“元”彼氏になるか。

 そう、年越しそばを二人で食べた後…当時の彼氏と少し肌を重ねてから、お風呂に一緒に入って一年の汚れや先程の愛の証を洗い流してもらったりした。


 え、私?

 今年で30歳になる中小企業の経理職。

 名前は杉田美春すぎたみはる

 そして、彼氏なし、実家暮らし。


 容姿には自信がない訳ではない。

 身長160cm、体重は50kg。

 バストはDカップ、足のサイズは23cm。

 ショートボブでブルベの白い肌。


 恐らく、私の男を見る目が無いのだろう。

 遊ばれるだけ遊ばれて捨てられるケースが、この数年で増えてきた。

 遊ばれなくても、愛が重いとも言われた。


 前述の彼氏には、私の愛は重すぎたみたいだ。

 いつの間にか、距離を置かれ。

 いつの間にか、連絡先を変えられ。

 いつの間にか、居なくなった。


 私はただ、一緒に居たいだけなのに。

 身体を求められれば、迷わず肌を重ねる。

 相手に捨てられたくない。

 ただその一心で。


 ああ、話が脱線したか?

 今私は、家族と食卓を囲んで、カップ麺の年越しそばにお湯を入れて待っている。

 3分経てば蓋を剥がして、スーパーで買った大きめの海老天をカップ蕎麦の上に浮かべて完成だ。


 「お姉ちゃん?彼氏まだ出来ない?」


 「おいっ!?美穂?!お義姉さんに失礼でしょ!!スミマセン…。」


 え?

 ああ、誰かって?

 失礼極まりないのが3個下の妹、美穂みほ

 それとは対照的に、美穂には勿体ないできた旦那さん、山梨雅幸やまなしまさゆきさん、31歳だ…。

 結婚してもう2年になるのか…。


 二人は横浜市に住んでいて、年末年始とGWに泊まりで帰省してくる。

 雅幸さんを見るたび、私の心が辛くなる。

 こんな人が、私の周りに居たらな…と。


 「あ!そうだ、雅幸さん!!後で私の部屋のパソコン少し見て貰えます?最近調子悪くて…。」


 雅幸さんは、大手企業のシステムエンジニアを横浜でしている。

 美春から心が揺らがないか、少し…迫ってみたくなったのだ。

 その為に、年末年始の休み前に会社のパソコンに詳しい同僚に頼んで、パソコンの設定をいじってもらった。


 「マーくんゴメンね?お姉ちゃんのパソコン見てやって?」


 こう言う時、美穂の警戒心が薄い。


 日本酒を今日は用意してあるので、呑んで酔ったふりでもしよう。


 「パソコン調子悪いんですね?良いですよ?」


 「ホント、スミマセン…雅幸さん。」


 色目遣いをして雅幸さんの目を見ながら礼を述べた。


 「い、いえ!お義姉さんがお困りですから!あはは…。」


 美穂の目を気にしながら、雅幸さんは苦笑していた。

 男日照りの私には、妹の旦那さんだろうといい。


 そうそう、家族で食卓をと言ったが…実は今居るのはこの3人だけだ。

 パパとママは車で30分くらいのママの実家へ行っている。

 いつものことだ。


 ――日本・静岡県某市・自宅の自室

――2019年12月31日

 ――18時30分


 ――コンコン!


 「お義姉さん?居ますか?」


 雅幸さんだ。

 私は、雅幸さんが興奮してくれるように、薄着になって来るのを待っていた。


 「どうぞ?中へ入ってください。」


 「はい。失礼します。」


 ――ガチャッ!


 雅幸さんがドアを開けた。


 「お…お義姉さん?!」


 ベッドの上に腰掛け、両脚を拡げている私の姿を雅幸さんは見た。

 ズボンに少し変化が見えた。

 これはいけそうかもしれない。

 そう確信を持つのに時間は必要なかった。


 「早く…中に、入ってください。」


 ――バタン。


 「お…お義姉さん?ぱ、パソコンどれですか?」


 「そこの机の上のです。あと、鍵…閉めてください。」


 雅幸さんは女性経験が美穂くらいと聞いている。

 薄着の女性と同じ部屋の中。

 しかも鍵を閉めてくれと言われている。


 ――カチャカチャカチャカチャ…


 鍵を閉める手が震えている。


 「し…閉まらないです!!」


 ――ガチャッ!


 「雅幸さん?ありがとうございます。」


 「あ、あの…お義姉さん?な…なぜ薄着なんですか?!」


 まぁ、普通そう思うだろう。

 そう言いながらもズボンの変化が顕著だ。


 「暑くないです?脱いじゃおっかな?」


 雅幸さんの視線が私の身体に突き刺さっている。


 「ぱ、パソコン見ますね!!」


 ベッドの前に机と椅子があり、そこにノートパソコンが置いてある。

 雅幸さんは、椅子に腰掛けた。


 「電源入ってないみたいです。電源入れて良いですか?」


 「うんっ♡いれてぇ♡」


 わざと甘い声で言ってみた。

 私の言葉に対する雅幸さんの返事は無かった。


 「OS立ち上がりました。ログインしちゃっても良いですか?」


 ああ、この瞬間が遂にきた。

 デスクトップの壁紙にだ…。

 私のあられもない姿の写真が設定してある。

 その写真の私の身体には、雅幸さんへのメッセージが書かれている。


 「はい♡(ログ)インして下さい♡」


 ――カチッ!


 ログインボタンを雅幸さんがマウスでクリックした。


 ――ピロンピロン!!


 デスクトップ画面が表示された。


 「えっ…?!」


 雅幸さんはデスクトップ画面を凝視している。


 「お、お義姉さん…良いんですか?」


 「はい♡」


 ――日本・静岡県某市・自宅の自室

――2019年12月31日

 ――19時00分


 「美春さん?パソコンもいい具合になりましたんで!」


 「雅幸くん。ホントよかった。ありがとうね?」


 ――ガチャッ!


 「また、後で。」


――ギィ!


 「後でね?」


 ――バタン!


 雅幸さんはそう言って部屋を出て行った。

 私の身体に愛の証を残して。


 聞くに、美穂は体型を気にしており、身体を重ねたがらないし、拒否するようだ。

 確かに愛の結晶が出来たら、体型は崩れるが、それはそれで幸せじゃないのか?


 まぁ。

 そんなこともあり、雅幸さんは2年近く飢えていた。

 私も男日照りで飢えていた。

 双方ともWinーWinだったのだ。


 正直言って、相性は滅茶苦茶良かった。

 妹の旦那さんにしておくのは勿体無さすぎ。


 ――ピロン!


 スマホの通知音だ。

 よく見ると、チャットアプリからメッセージ通知だった。


 ――雅幸[お義姉さん。後で買い物行きませんか?]


 マジか。

 美穂には悪いが、私が貰うことにする。

 と言うか、身体だけでなく、心まで貰う。

 今、決めた。


 ――美春[はい。私も、欲しい者あって。]


 誤変換と思われてもそれで良し。

 私は、宣言したのだ。


 ――日本・静岡県某市・近所の神社

――2019年12月31日

 ――23時50分


 初詣に行こうと、美穂を誘ったが寒いから寝ると断られた。

 まぁ、毎年のことだ。

 だが、敢えて聞いて、美穂の前で雅幸さんに行こうと誘った。


 そして、今。

 私と雅幸さんは罰当たりだろうな。

 神聖な場所の奥の林の暗がりで肌を重ねていた。


 寂れた場所なので、年越しの初詣に来る人は本当に少なくまばらな場所だ。


 「美春さん?好きです…。」


 「私も…です。雅幸さん♡」


 私は愛の証をしっかりと受け止めていた。

 だが、急に何かの強い気配を感じた2人は、やめて初詣の場所を目指した。


 ――日本・静岡県某市・近所の神社

――2019年12月31日

 ――23時59分


 「雅幸さん?来年もこうしていられると良いな?」


 「僕も、美春さんと居たいです。あの、年越しジャンプしませんか?」


 スマホを雅幸さんは取り出した。

 時計アプリは、23:59:50を示している。


 私と雅幸さんは手を繋いで、0:00:00に一緒に跳ぶ準備をした。


 「行くよ!?せーの!!」


 ――ピョンッ!!


 地面に着くまでの時間が長く感じられた。

 いや?

 未だ…私は、ジャンプしたままだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る