第4話 まるで娘を守る母親のように。
コーデリアは目を逸らさない。
少女は母親を正真正銘に愛していて、しかし母親の死体が解体されていく様から、片時も目を離さない。
そうすることにより
少女の願いを聞き届けたかのように、蠅たちは異様な速さで数を増した。
真っ黒に
母親の無惨な末路を娘には見せまいとする、そんな蠅たちの優しさを少女は感じた。
「……蠅さんたち、ありがとう……さぁ、早く、急いで……」
コーデリアは祈り、蠅たちは虫食む。
やがて、母の死体は骨だけを残してこの世から消え去った。
弔いは完遂された。少女の愛した母は動く死体とはならずに済んだのだった。
「……ありがとう……ありがとう……」
いまや凄まじい数に膨れ上がった蠅たちに、コーデリアは涙を流して感謝した。
一体のゾンビが彼女に目を付けたのは、そのときだった。
若い男の死者だった。
それが死因だったのだろう、半壊した顔面に
走力は死してなお健在だった。コーデリアが気付いた時には、すでに逃げ切れぬほどに距離を詰められていた。
そうして少女が死を覚悟した、そのとき。
――ブァン。
羽音がして、蠅たちが空中を揺らめいた。
そして。
――ブァァァァァン!
黒い嵐が疾走した。
蠅たちは異様な荒々しさでゾンビに殺到した。
火の剣幕、怒りの剣幕であった。
それは、あたかも巣を守らんとする蜂のような。
あるいは、娘を守ろうとする母親のような。
母親の死体と同じように、コーデリアを襲ったゾンビも骨だけを残して消えた。
役目を果たした蠅たちはコーデリアの元に戻り、じゃれつくように肌にまとわりついた。
その瞬間に、理解は少女を貫いた。
これは母なのだと。母の死体に群がり母の死体を糧に増殖した蠅たちは、紛れもなくあの母の生まれ変わりなのだと。
蠅になって、私のところに戻ってきてくれた。
少女は再び泣き崩れた。
しかし今度のそれは、悲しい涙ではなかった。
母に再会した嬉しさと、蠅となってまで自分を守護してくれる母の愛を噛みしめて、コーデリアは喜びの涙に打ち震えた。
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